nyaro さんの感想・評価
4.7
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 5.0
音楽 : 4.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
道具と仲間と広がる世界。厳しい冬から春を迎えに行く話でした。追記 原作よみました。
今更ですが再視聴。なんで当時切ったのか。5話の出来は確かに良くなかった。1話から3話に感動してたのに、仲間が増えて当初こちらが望んでいた孤独と世界の広がりという部分は減ったように感じてしまったからだと思います。
でも再視聴してじっくり見るとそれはこちらの願望を勝手に作品に投影して、裏切られた気になった結果過小評価して切ったんだろうと思います。
本作は、きらら…という感じではないんです。ストーリー運びと画面と声優さんの演技とで癒されるのは癒されるんですけど、やっぱりその中に「冒険」がありました。つまり「世界の広がり」です。カブという1億台以上生産されたありふれた機械。しかも1万円という中古。
その道具を大切にして、そして手入れをして使いこなすこと。一歩自分の知らないところに足を突っ込む。それだけで自分の知っている日常から知らない世界へ。
セーターの話とかコーヒーの話、カブにつけるのも皆道具とか手入れがモチーフでした。パンクを直すところとかなぜかちょっと感動してしまいました。
つまりスローライフや日常に見えて、その対極ですね。その広がりの秀逸さが味わえました。友達が増えるのも世界の広がりでした。
だから物語の結末は3人で旅にでる。冬から春を待つのではなく、春に向かって進んでゆく。その前の厳しい冬の表現が活きてとてもいい最後でした。
作画とか画面とかいろいろレビューしてきましたが、今本作を見ると画面だけでも見る価値がありそうです。もちろん出来不出来があってひどい作画の回もありますが、出来のいい回の人物の作画…というよりも画面の雰囲気がとてもいいです。
ということで、本作は再評価して、私の評価は爆上がりでした。そういえば交通違反が…とか話題がありましたね。そういうところはまあ人それぞれの感性でしょうが、少しだけ冒険する気持ちに目を向けると些細なことは気にならなくなる気がしました。
作画は「画づくり」の評価です。また、キャラはヒロインの人物造形の秀逸さによります。音楽の評価はOPの素朴さもいいですが、音楽を使わないシーンの良さもありました。
22年11月 再視聴、再評価。評価を上げます。
22年総括中…なんですけど、間違って見始めたら止まらなくなりました。21年春のアニメはいいラインナップだったなあ…ということで相対的に21年の春は過小評価気味でした。
女子高生であることの意味を考えると、17歳と言う年齢。車の免許は取れないし、本当は一人で暮らすことが禁じられている年齢です。アルバイトするにも親の同意はいるし。
そして世間的にはJK無敵の印象がありますが、現実は保護が無ければ無力の存在です。
そのなにも無いヒロインの世界が1万円の道具で広がる1クールのこのアニメのメッセージというか、マインドに今更ながら感動しました。尻上がりに色づくような感覚が素晴らしかったと思います。
(バイクに乗っているときに彩度が上がる演出、最高でした)
追記 原作を読んで、5話について
原作をほぼ読了しかけています。で、アニメ5話の件です。どうもこの5話だけ出来がよくないと思っていました。作画もですけど、内容もです。それは礼子のきっかけとかモチベーションに説得力がない気がしたからです。
で、原作を見て納得しました。礼子という少女が山梨の盆地高い山々に囲まれた状況を自分の閉塞感に置き換えて、その中で富士山がそこにあったこと。そして、小熊との出会い。合理的に淡々とカブによってやれることを増やしている小熊。その小熊ならどうするだろう、という風に触発されて、富士山登りを決心したみたいです。
アニメ版の挑戦への動機が曖昧だったり、小熊に偉そうなことを言った手前、みたいに描かれていました。これは解釈違いだろうと思います。原作を読んでスッキリしました。
なお、原作の小熊は結構内面がわかりやすく描写されていますし、かなり合理性や気の強さが現れていました。短い文章で淡々としているので、場面が想像しやすく詩情もあります。ほとんど一気読みできるくらい面白かったです。
また、挿絵も素晴らしかったです。
23年1月 再々評価 実は一番の感動は11話にありました。
11話のシイちゃんの気持ちを考えると胸が痛くなります。思春期の無力感と冬。2人の友人は何か自分以上の力を持っているような。いろいろ工夫してがんばってるけど、どうもうまくいかない。それでも、2人の後を追って、なんとか折り合いをつけようとしたら、自分の武器である自転車を壊してしまう。凍える、濡れる。それはシイちゃんの心の状態そのものでしょう。
小熊から見たらシイちゃんの方が主体性があって自分の前を言っているように見える。その誰かが自分より前にいるような不安。それが冬の気持ち。
もう冬はヤダ、春にしてくれという気持ち。この感じって、確かにこのころにあった気がします。まあ、それが過ぎれば成長も自由もあるんですけど、それが分からない時代、いい子ほど辛いですね。そういうところが本当に良く描けてました。
だから春に向かって鹿児島へ。最高です。
以下 初回視聴断念時のレビューです。
1~3話は最高。6,7話も青春でとても良い。それ以外は面白くないです。
{netabare} 1~3話までは文学的で本当に素晴らしアニメでした。何もない状態から、ほんの小さな道具と出会うことで、世界が広がってゆく。素晴らしかったと思います。
ただ、友達との出会い以降は、正直、うーんでしたね。友達がいてももっと個人にクローズアップしてもらった方が、好みでした。
したがって、1~3話は本当に近年まれにみる素晴らしい話だったと思います。加えて、修学旅行も面白かったですよ。規則をやぶって、一人でバイクで追いつくとか、2人乗りとか、あれ、法律破りが話題になりましたが、世界が広がる、というテーマから言えば、それが出来なくて何が青春だ、ということで擁護ではなく、物語の面白さとして積極的な意味で良かったと思います。が、それ以外はうーんという感じでした。
まあ、この合計5話だけでも私はかなり面白かったので、見られて良かったと思います。
以下、1話を見たときのレビューですが、この時の衝撃はすごかったです。1話だけならこの数年見たアニメの中で最高かもしれません。
ヒロインは何も持っていません。両親も友人も。灰色の団地の何もない部屋で毎日同じパターンの暮らしを淡々と暮らしています。
ヒロインがこのカブと出会う事で、突然世界が広がり出します。
スーパーカブは世の中でもっとも平凡なバイクで、しかもカッコよくありません。そして、本作のカブは事故車です。1万円です。これが素晴らしいです。
このカブをヒロインは大切にしながら、少しずつ理解して行こうとします。そうすることでカブがヒロインの背中を押してくれます。
カブゆえに、大切なのは持ちものではなく、意思と行動に移すことだということを教えてくれます。
本作は、友情とか仲間という名の単なる所属する場所が必要なのではない。それぞれが自立した中で、友情は生まれるのだと教えてくれます。カブを通じて、淡いが確かな交流が生まれる。友情の1つの形を見せてくれます。
そして自立の先には世界があります。ヒロインの行動範囲は広がり、どんどん外に外に出て行くことになるのでしょう。
知らない世界に出かけて、知らない人と何かが起きて成長してゆくという展開なることを期待、というよりこの話は必然的にそうなってゆく気がします。{/netabare}