
ナルユキ さんの感想・評価
3.8
物語 : 4.5
作画 : 2.5
声優 : 5.0
音楽 : 3.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
金無き現場のアニメ化活動
始まりこそやや苦手な異世界転生風ではあったが、1本通しで観た感想はまさに「こういうのでいいんだよこういうので」といった感じだ。
アニメは別に芸術でも純文学でもないのだから、変に凝ったストーリーも美麗な作画というのも本来、必要ない。これらは作品同士で優劣をつける私たちレビュアーや評論家が持ち込んだ概念である。
そしてこの作品もまた深夜アニメなのだから、小さな子どもや淑女への配慮に上品な表現を強制される筋合いもない。二次元好きな成人男性の口角と“ナニ”を吊り上げる表現を存分に使ったって構わない筈だ(ただあんまりやり過ぎると異種族みたいに放送局が規制するパターンに陥る。世知辛いね)。
実績も実力も十分とは言えない新参のアニメ会社が、本作の「ウリ」を的確に捉えて持ちうる力で精一杯に描写した。そこに「愛情」を感じた者は決して、私だけではないだろう。
【ココがひどいw:ドット絵作画でリソース節約?】
さて、前置きからこの作品と製作陣を全肯定したのでもう心置きなく貶めていくのだが、本作を制作した『studioぱれっと』という会社、マトモな30分アニメを作る能力・体力が備わっていないと断言できる。でなければ本作を代表する「ドット絵」という新しい手抜きは生まれてこないだろう。
対象をアップで映す、背景をスクロールさせる、空を撮る、背景だけのカットを増やすetc…作画枚数を減らすテクニック──所謂「手抜き」──は既に多種多様にあるが、本作は加えて状況説明程度であれば8ビット程度の粗いドット絵で済ますという暴挙を何度も繰り返してしまう。
それだけならまだしも、キャラクターが喋っている構図がアニメというよりは「アドベンチャーゲーム」のようになってしまっている。背景の絵の上にキャラクターを重ねて1人だけ画面に表示し、口以外は一切動かないような会話のシーンだったりが非常に多い。
異世界のモンスターは「3DCG」で描かれているのだが、これも人間の作画や背景から明らかに浮いた存在になっている。
特にヒロインの1人が狐のようなペットを飼っているのだが、このペットですらもCGで描かれており、普通の作画の中にCGでテカテカに描かれた動物が混じっているというとんでもない違和感が生まれてしまっている。
最近は低予算な作品でモンスターを描写する際にCGを使っている作品も多いが、この作品も類に漏れずだ。CGのクオリティも低く、戦闘シーンのようなものですらやはりドット絵で誤魔化す。作画の枚数を極力減らすような演出が多々見られており、1話からこの作品は大丈夫なのだろうか?と誰もが不安に思うだろう。
ちなみに2話でわかるがOP映像も本編のシーンを流用したもので構成している。OP映像を新規で描く余裕すら無いレベルの、恐ろしいまでの低予算作品だ。
【でもココが面白いw:このすばリスペクト】
低予算では美麗で動きのある作画を沢山作ることができない。それが作る前からわかりきっているからこそ「作品愛」のある制作陣は作画を使ってふざけ始める(笑)
{netabare}序盤こそ不安に感じる作画なのだが、第4話で覚醒。該当話では明らかに「実写」の写真かなにかを加工しただけの農作業中のシーンが出てくる。本来は実在する農作業中の人間の顔が映っているところだが、この作品はそんな人間の顔に無理やり作中のキャラの顔を当てこんでいる──「雑コラ」である(笑){/netabare}
メインヒロインであるミタマも劇中の扱いに応じて簡単作画になったり溶けたりドッド画になったりetc.表現が多彩だ(笑) 彼女は劇中で生まれる宗教の信仰対象となる「神」であり、その能力は信者の人数に比例して強くなる。その信者数が某戦闘力の如く0~10000の値を高乱下するため、彼女は風船のように萎んだり復活したりと激しい変化を見せる。それはいいのだが、0~2の時は矢吹丈の如く真っ白な作画となり頭にハエがたかる、というのはメインヒロインとしてどうなのだろうか(笑)
低予算の中での苦肉策が、この作品ならではの不思議な「シュール」ともいえる魅力に繋がっている。随所に散らばるお色気要素を含め、敢えてダメな方向で評価を貰おうとする所は『この素晴らしい世界に祝福を!』に通ずるものがある。
【ココが面白い:意外と真面目で残酷な世界観】
主人公である卜部征人{うらべ ゆきと}は元の世界では「神」や「宗教」といった概念に振り回されてきた。そんな概念に嫌気が差している中で訪れた異世界には「神」の概念そのものが存在しない。
生活に必要な知識や管理は『皇国』が行っており、そんな皇国には『終生』という制度が存在する。国の人員を整理するための制度であり、一定の年齢以上の国民を強制的に「自殺」させることによって国を管理している。
これは超高齢社会を迎えて久しい現代日本を皮肉るような制度とも言えるだろう。中世ヨーロッパ的な時代で、レベルも魔法も神も存在しない世界だからこそ「管理」は必要である。リアリズム──現実的な考えによる管理社会だ。
【なろう系】な異世界はゲーム的な物が多いが、この作品はきちんと異世界の文化や設定を練っており、その世界に訪れた別世界の主人公がそんな異世界の文化に抗う。そのために今まで否定し続けた「神」を利用し「宗教」によって異世界の人々を導いていこうとする征人の決意は、作画のレベルこそ低いもののシンプルに先が気になる展開だ。
【ココも面白い:宗教嫌いが作る宗教】
人が神を信じ、宗教というものに没入するのは何なのか。それは「奇跡」である。自分しか知らないような悩みを見透かし助言を与え、ときには現代医学では治らないような病を治し人の命すら蘇らせる。そのような奇跡を見せることで人は神の存在を信じ、宗教に没入する「信心」が生まれる。
この流れを本作は丁寧に描いている。本物の神であるミタマの力を信者に見せ、ときに「詐欺的」なテクニックで、ときには前世の知識を利用し人の心を征人が掌握することによって、神も宗教も知らない異世界人に信心を芽生えさせていく。
悪徳宗教ならその後は霊感商法などで信者たちから金銭を巻き上げていくのだろうが征人は違う。行き場の無くなった自身を受け入れてくれた、おバカで性欲旺盛な分、陽気で大らかな『カクリ村』の住民を守りたい・救いたいと彼は本気で思っている。
征人が立ち上げた『救世御霊教』の教義は「自由」唯1つだ。信ずる者は皆、不便を感じず命が脅かされることもない。神であるミタマを信ずる心が彼女の喪われた力を取り戻させ、全知全能の神である彼女がその力で信者たちに「施し」を与える。力の増した神の御業によって信者はさらに増えていく──
このサイクルによって、これまで中世ヨーロッパ時代程度の生活水準しかなかったカクリ村には{netabare}耕運機、田植え機、コンバイン、液晶ペンタブレット、パソコン、果ては水道や電気といったインフラ設備{/netabare}まで導入されて生活がとびきり豊かになる。神の力というチートを用いて拠点を劇的に発展させる様はぶっちゃけ【なろう系】に近いものの、先述の『このすば』ノリや特異な世界観によって不思議と観れる展開になっている。
【ココも面白い:皇国の終焉と宗教戦争の勃発(1)】
この世界に「神」は存在しない。だが、その神の代わりに説明不可能な技術や力を提供しているのが「皇帝」だ。皇帝とはなんなのか、皇帝が提供する力とはなんなのか。
本作は異様にストーリー進行が早い。余計な日常パートなどは無くメインストーリーだけを淡々と進めつつ、そこにバカバカしいギャグや下ネタを入れている。そして中盤であっさりと「真実」が明かされる。この国を管理していた「皇帝」の真実、そして主人公である征人の真実だ。
{netabare}この作品は正確には異世界転移ではない。征人が死ぬ直前に願いをミタマが叶えてくれたに過ぎない。
『神も宗教も存在しない世界に生まれ変わらせてみろよ』
そんな彼の望み通りに異世界ではなく、遠い遠い地球の「未来」へ移動した1人と1柱。現代文明は『高度科学文明』へと発展に至ったが滅び去り、新たな文明と「秩序」がこの未来に興されている。皇帝も人が造り出した、ある種の「偽りの神」だ。
そんな偽りの神はあっさりと滅びる。旧世代の人類が自らを管理するために生み出したシステム──ディストピア──が崩壊した世界で、征人は自身の立ち上げた宗教──「自由」を維持することができるのか。{/netabare}
【ココも面白い:皇国の終焉と宗教戦争の勃発(2)】
中盤で真実が明かされるものの物語の方向性はあまり変わらない。征人たち以外にも神を名乗り新興宗教団体を作り上げるものが現れる中で、彼は他の宗教団体をも取り込もうと動き出す。
{netabare}『アルコーン』は皇帝という偽りの神の下で動いていた存在だ。人類を統括するために各々が活動していたものの、偽りの神は征人たちによって倒され彼らも自由になる。己の欲望を叶えようとする者、忠義が失くなりし者──各々が個々の思想を胸に動き出す。
特にダキニはアルコーンとして人類から愛を奪っていた。皇帝が人工的に人間を造り出していた世界で、人が本来持つ「愛」と「生殖本能」は邪魔である。皇帝の命令に従うしかないアルコーンであった彼女は自らの能力を使い人類から愛を奪っていったが、その行為では自身の存在意義との「矛盾」も蓄積されていったのである。
偽りの神がいなくなったからこそ、彼女は人類への愛という名の「エロス」を取り戻そうとしている(笑) シリアスにやればいくらでもシリアスになりそうなところをギャグと下ネタで覆い隠すのがこの作品らしさでもあり、セクシーシーンには「作画開放」も見せるものの結局観た人から「せっかくエロいシチュエーションなのに作画が悪い」と言われる始末である。
その点を補完するのがやはりベテランの「女性声優(役者)」さんたちだろう。ダキニの能力で催眠や発情、そして「淫紋」を受けてしまった女性キャラたちから淫らな喘ぎ声や快楽に堕ちた台詞が発せられ、それらを演技するのがざーさんこと花澤香菜やあおちゃんこと悠木碧なのだから、控えめに書いて「最高」であり本作でしか聴けない「オンリーワン」だ(笑){/netabare}
きちんと世界観が作り込まれた作品だからこそ、この絶妙なバランスの要素が面白さに変わり、キャラの魅力やストーリーの面白さに繋がっている。
【総評】
全体的に観て作品の制作予算はかなり少ないだろうなと感じる作品だ。OPの映像は本編のシーンをずっと使い回しするほど余裕がなく、シーンの所々で謎のドット絵を差し込み通常の作画枚数を極力減らし、モンスターなど作画コストがかかりそうなものはアニメ画から浮いてしまうほどテカテカとしたフルCGにする。なるべく作画コストがかからないように、作画枚数が増えないように──このように考えていたであろう制作側の苦肉の策が作品から感じてしまう。
通常ならこの低クオリティの作画は欠点でしかないのだが、この作品の場合は一周回って「個性」に仕上げている部分もある。特に第4話のシーンはあまりにも斬新で、思いついても1クールアニメではやらなそうなことを1シーンとして押し通しており、この強引な「画作り」の数々が妙な笑いに繋がっている。
これだけ作画が悪く、明らかに予算は少ないのに出演声優はやたらと豪華だ。榎木淳弥、鬼頭明里、花澤香菜、上坂すみれ、緒方恵美、悠木碧、高橋李依、小松未可子、小清水亜美etc…声優だけ見れば『鬼滅の刃』か『呪術廻戦』でも始まりそうなメンツである(笑) そんな豪華声優陣が演じているのに作画がボロボロというのにもギャップが生まれており、セクシーなシーンで声優さんたちがセクシーな演技をしてるのに、作画がアレなせいでギャグにしか見えない。
音楽面は、クライマックスに向けて良さげな挿入歌やBGMが増えるのだが、収録面が残念。{netabare}ダキニが優位に立ち得意気な論調、彼女の術で淫紋を付けられて発情するヒロインたちの盛った言葉に喘ぎ声、迫るヒロインたちに慌てふためく主人公の悲鳴諸々が全てごちゃ混ぜになって流れるので折角“オカズ”にも使えそうなシーンがうるさくて台無しである。{/netabare}
そんなシュールな作画や音楽で彩られるストーリーは意外にも真面目だ。神や宗教といったものを嫌悪した主人公が異世界で神や宗教の概念を広める。この矛盾が主人公の魅力になっており、世界観も独創的なものをしっかり描いているからこそ観れる部分がある。中盤であっさりと異世界の真実が明らかになるが、その上で敵も味方も“自分たちの宗教を広める=世界征服(平和)”の目標が定まり、競い合っていく中で誰がこの異世界を支配するのかという新たな展開を生んでおり、面白い。この「宗教戦争」という部分を突き詰めてシリアスに振り切ればかなり高尚な作品になったかもしれないが、その路線を早々に諦めて品の無いお色気を入れたのが残念でもあり魅力的でもある。個人的にはこのすばの他にも『NEEDLESS』や『キリングバイツ』という作品らが脳裏に蘇った。
放送中に何度か万策尽きて放送が延期になっており、作画のクオリティが「あえて」の演出ではなく「ガチ」で限界だった所も面白い作品だ。本当にスケジュールも予算も足りずに苦肉の策で色々やっており、その色々を楽しめてしまう。なんとかこの『カミカツ』のアニメ化を成立させようと、なんとか作画枚数が少ない中でも面白いものに仕上げようとしている制作側の「愛」を、観れば感じ取ることができるだろう。
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