STONE さんの感想・評価

4.0
物語 : 5.0 作画 : 3.0 声優 : 4.5 音楽 : 3.5 キャラ : 4.0 状態：観終わった

食べることは、命を奪うこと

　原作は未読。
　北海道の農業高校が舞台ということで、「もやしもん」(東京の農大)と「動物のお医者さん」
(北海道の大学の獣医学部)に似たようなテイストを感じたが、こういう専門的な世界は普通の
暮らしをしている分にはなかなか知ることができないため、それが垣間見られるのが楽しい。
　前述の2作品などは舞台が大学ということもあってか、主人公の進むべき道が割とはっきり
していたのに対して、本作の主人公である八軒 勇吾はまだ先が見えていない状態。
　大蝦夷農業高等学校に来たきっかけこそ一種の現実逃避だが、ここでの経験が彼を少しづつ
変えていっているようで、その辺の成長過程がよく描かれていたように思える。
　高校ならではの仲間とワイワイやっている描写も楽しげだが、そういったことからも色々な
ことを学んでいっているようで、八軒が変わっていくだけでなく、八軒によって回りも変わって
いく展開はなかなかいいものがある。
　更にこの高校生達を見守る教師を始めとする大人達も魅力的で、この大人達の言葉は心に残る
ものが多かった。

　全体を通じて、印象的だったのは「食べるということは、命を奪うということ」。
　のっけから鶏の首を切るというちょっとインパクトのあるシーンから始まるが、その後も
豚丼との出会いから、その豚丼を食べるという展開を中心に、随所にこのテーマに即した内容が
描かれる。
　「殺して食べるために、愛情を持って育てる」。矛盾しているようで、理に叶った、それで
いてある種のジレンマを生み出しそうな行為だが、そもそも殺して食べるという前提が
なければ、飼うこと自体意味を成さない。
　このことに対して、あっさり割り切れる人、八軒のように葛藤する人、更に命を奪うという
行為がイヤでベジタリアンになる人、色々だろうが、個人的には八軒や吉野 まゆみの発言の
ように「やっぱり肉は美味い」という部分が、ベースになってしまう。
　普段はあまり意識することがなかったが、食肉という行為は間接的に命を奪っているわけで、
改めてこういうことを考えるいい機会になった。

　重いテーマとは逆ベクトルで印象的だったのは、食に絡んだ内容が多いため、やたらと腹が
減る作品だったこと。
　序盤の卵かけご飯、中盤のピザ作り、終盤のベーコン作りなどが特に印象深く、ベーコンに
至っては自作までしてしまった。

　設定や展開自体は良かったが、演出の問題か、流れなどがしっくりしない部分も個人的には
多かったかな。
　あとばんえい競馬や巨大ハーベスターなど迫力が必要な映像は、ちょっと物足りなさを感じて
しまった。

　重いテーマを含みつつもあまり堅苦しくなく、更に適度な笑いもありで、硬軟のバランスが
良かった作品。