「二度と目覚めぬ子守唄(OVA)」

総合得点
62.4
感想・評価
10
棚に入れた
35
ランキング
4769
★★★★☆ 3.2 (10)
物語
3.3
作画
3.3
声優
2.9
音楽
3.4
キャラ
3.3

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woa さんの感想・評価

★★☆☆☆ 2.0
物語 : 2.0 作画 : 2.0 声優 : 2.0 音楽 : 2.0 キャラ : 2.0 状態:----

戦後日本社会の暗部と奇形

まず衝撃を受けるのは主人公の容姿である。下の歯だけが異常に肥大した姿は一般的に考えられる「出っ歯」というよりも級友たちが表したように「化け物」であり「人間」の姿ではないというのは事実だけ言えばあながち間違いではない。(本人にその「事実」を言っていいというわけでは全くないが・・・)

彼のこの「奇形」性はおそらくアニメならではの誇張表現で、リアルな人間というよりも作品世界を象徴している存在に違いない。ではこの主人公の身体的特徴は何を表しているのか。また彼のような奇形児はどのようなものから生まれたのか?

舞台は群馬県桐生市という機業地である。時代は主人公が小学年低学年であることから1960年代だろう。つまり戦後の混乱期を脱し高速鉄道が彼の街に通ってきたように経済的には軌道に乗りつつも三里塚闘争や安保闘争といった擾乱が絶えなかった時代にこの主人公は生まれその短い生涯を送ったということだ。

ちなみに三里塚や安保といった政治運動の流れは世界的な潮流であり1968年に決定的に挫折しそれから文化面の改革、ヒッピーなどのドラッグ文化に繋がっていくのだから、このアニメのアバンギャルド的な演出はまさにそのような政治闘争の賜物だろう。

主人公の父親や祖父は戦争やその後遺症によって既に他界しており、母親は精神的に病んでいる様子で入院しており、孤児となった主人公は親戚の家で暮らしているが厄介者として非情な扱いを受けている。家庭に頼れるものが無い彼は学校にも居場所が無く級友からその容姿のために侮蔑されている。放課後はいじめっ子から逃れるために知らない街を放浪している様はまさに浮浪児のようである。

彼の行き場のない心情が次第に暴発していく時、入れ替わるように新幹線が町を吹き飛ばしながら進んでいく場面や旅客機が瓦屋根を震わせながら低空飛行していく情景を描いているのは、奇形の主人公と不均衡な都市開発(都市は華美になるのに比して人間は貧しく前近代的である)が類比関係にあることを示す。

旅客機にしても新幹線にしても手掛けたのは軍需産業であり、要するに戦争時に培った技術の応用である。そして主人公は親を戦争中に失った孤児である。どちらも戦争の悲劇・損失が生んだ存在であり、そうであるがゆえに奇形で虐げられるというのがこのアニメの基本的な主張だろう。彼の姿や都市の歪な発展は潜在的に刷り込まれた戦争が象徴する悲惨な過去を呼び起こすから忌み嫌われる。都市の中で疎外された人々の憤懣や暴力は社会的に弱い子供や女性、そして究極的に最下層である孤児にまで至るのである。

そして冒頭、主人公が出っ歯に床に打ち付けて自分自身を砕いてしまうことと最後のシーンで主人公の叫びとともに煙突が象徴する都市そのものが崩落していくのは同じことなのである。ここでいったんリセットして最初のシーンに戻るということだろう。

このようなアニメは時代的な背景がわからないと単に背徳的としか見えないかもしれない。子守唄が描く60年代というのは自分にも身体感覚として知識として全然わからない部分が結構ある。またショッキングな心理描写が多々あるのも事実である。しかし現実はもっと残酷なものに満ちているし、これはどんなにグロテスクな描写を含んでいても絵にすぎないのだ。なんとか規制やらで、このアニメのような作品が自主制作でしか流通しないとすれば大きな損失である。

戦争孤児や都市開発というものは別に日本に限ったことではないし、現在進行形で行われ続けているのだから、ショッキングな描写は商業ベースに乗せられないとしてもこのような問題意識はもっと広く今のアニメ全般に共有すべきなんじゃないだろうか。

単に萌えだとかロボだとか、そんなのだけがアニメだとすれば日本のアニメも一般の人が思っている以上に早く壊滅するに違いない。アニメというジャンルが目覚めるような子守唄になれなければこの作品もこの作品を作った製作者も報われないだろう。

投稿 : 2014/11/21
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サンキュー:

4

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