「紅の豚(アニメ映画)」

総合得点
86.5
感想・評価
1212
棚に入れた
8039
ランキング
192
★★★★☆ 4.0 (1212)
物語
4.1
作画
4.1
声優
3.9
音楽
4.0
キャラ
4.1

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ネタバレ

蒼い星 さんの感想・評価

★★★★★ 4.8
物語 : 5.0 作画 : 5.0 声優 : 4.5 音楽 : 4.5 キャラ : 5.0 状態:観終わった

宮崎駿らしさってなんだ?

アニメーション制作:スタジオジブリ
1992年7月に公開された劇場版アニメ。

時代は、1929年。第一次世界大戦終結の11年後。
世界恐慌によって不景気真っ只中のイタリア王国には、
飛行艇で大空を駆け船舶を襲い、金品を強奪する空賊がいました。
そして、その空賊をカモにしての賞金稼ぎを生業にしている赤い飛行艇乗りが一人。いや、一匹?
男の名前はポルコ・ロッソ。どうみても豚。ダンディなナイスガイ。豚のくせに!

この映画は、地中海の空に自由とロマンを求めて生きた男たちの物語です。

アニメ界の巨匠、大ヒット作品メーカーとして名高い宮崎駿監督。
本人がどう思っているかはわかりませんが、

『周りの期待に応えて興行的にも大成功を収めなくていけない』
『子供たちのために良い作品をつくって感動を与えなくてはいけない』

巨匠であり続けるのは大変なことだなと勝手な想像をしながら思いをはせつつ、
ジブリでの宮崎作品しては、『紅の豚』は異色の存在だとも。

鈴木敏夫(スタジオジブリ 代表取締役プロデューサー)
によって制作秘話が書かれていますが、それが面白いですね。

当時、ジブリのスタッフは『おもひでぽろぽろ』の制作で疲労困憊な状態に。
(締め切りという概念のない高畑作品は、お金と時間と労力が途轍もなくかかるのです)

会社としては経営的な問題で、こんな大変な大作を制作中でも次回作を視野に入れなければならず、
『おもひでぽろぽろ』で、こんなに疲れてるのに続けて長編映画を作るのは酷だということで、
軽い作品を作ろうと日本航空の機内上映用の当初15分予定のショートアニメとして企画されたのが第一歩。

原作は、宮崎監督が描いたわずか5ページ×3本立ての航空機漫画「飛行艇時代」
当初のアニメの内容は、豚のヒーローが空賊を相手に大活躍して終わり!てな感じで、
ストーリー性も物語のテーマも考えてなかった様子。

ポルコが豚になった理由とか、戦争がどうとか、ファシストがどうとか、
本当は何も考えてなかったのに後付けでいろいろと付け足していったら、
93分もの長さになり、映画館で上映することになったらしいです。


映画冒頭で、ポルコが仕事の依頼を受けて向かった誘拐強盗事件の現場、
ドクロマークの飛空艇に乗って登場した、髭面に毛むくじゃらの大量のオッサンたち、空賊のマンマユート団。
空賊に人質にされた15人の元気いっぱいの幼女たち。

部下「15人もいるんですが、みんな連れてくんですかあ?」
団長「仲間はずれを作っちゃ、可哀想じゃねえか!!」

この会話だけで涙と笑いが同時に出てきますね。

人質のはずの幼女たちは、攫われるというハプニングに物怖じせずに、
喜々としてついて来ては空賊と和気藹々としてますし。
それどころか、お遊戯気分ではしゃいでる幼女たちの面倒を見きれなくて気の毒な空賊たち。
気さくでお人好しな空賊たちが楽しくて仕方ないです。

なんだろな、このノリが懐かしいです。
大監督としての地位を確立する以前の、
TVシリーズの仕事をしてた頃の古き良き宮崎アニメそのもの。
宮崎駿が演出した回の名探偵ホームズに似ていまして、
ミセス・ハドソン人質事件でのハドソン夫人とモリアーティ一味の心温まるやり取りを思い出しました。

この作品の登場人物は全員明るく気持ちのいい連中ばかりでおっさん率が高めです。
女達もよく働き強く生きている、笑顔が素敵な人達です。

うちの父親も、『紅の豚』が大好きだった模様。
この作品って大人の心をくすぐるものがあるのでしょうね。

主人公が(豚ですが)おっさんで、
かつては空軍のエースパイロットで、今は組織に縛られずに気儘に大金を手にする賞金稼ぎ。
女達には年頃の娘たちからも幼女からも老婆も関係なくモテモテ。
男達(空賊)からは、当然のように散々に僻まれる。

これって、間違いなく男の理想の生き方ですよね?ていうか、宮崎監督の願望?
ヒロインのひとりで中年主人公に惚れる純真で健康的な美少女フィオとか、
宮崎監督の理想とする少女像そのものですしね。

ついでに言いますと、映画での本ヒロインでポルコと同年代の三十路のジーナは原作には存在しない後付けであって、
本当はヒロインはフィオひとりだけでした!
36~37歳のおっさんが17歳の少女を嫁にしちゃ映画的にまずいという配慮からジーナが加えられたのでしょうね。

作品のコンセプトは、「疲れて脳細胞が豆腐になった中年男のためのマンガ映画」

なるほどー。大人の男が一番喜ぶツボを大人の男である宮﨑駿監督が心得てるわけでして、
こんな生き方を出来たら楽しいだろうなあ!と宮崎監督は大いに筆が乗ったでしょうね。
結果、子供の為の作品作りを常日頃に信条として公言している宮崎監督は、
自分の趣味丸出しの『紅の豚』を作ってしまったことを無茶苦茶に後悔したのですが、
そんな『道楽の産物』が、21世紀に『理屈っぽく』『子供のためにつくられた』
どの宮崎作品よりも、ずっと面白いというのが皮肉です。

私が『紅の豚』で一番好きなシーン。
それは、フィオが空賊連合を相手に『飛行艇乗りの名誉と誇り』を渾渾と力説する。
空賊のいかついおっさんどもが演説に心動かされる、このシーンを観ていて嬉しくて嬉しくて本当に泣けてきました。
昔の宮崎監督は、本当に素晴らしかったということが実感できる象徴的な場面です。

趣味で良いじゃないですか?趣味のどこが悪いの?
好きなことを活き活きと描かれた作品には魂が宿っています。実力がなければ只の自己満足ですけどね。
うむうむ。結局のところ、小難しく理屈で考えるよりも感性のままに勢いとノリで作ったほうが作品が面白くなることもあり、
『紅の豚』は生のままの宮崎駿を飾らず気取らず出しているからこそ、心を打つのです。

私個人としても、宮崎アニメ映画の中でも最高傑作の一つである名作だと思いました。


これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。

投稿 : 2016/04/21
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サンキュー:

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