「革命機ヴァルヴレイヴ(TVアニメ動画)」

総合得点
74.8
感想・評価
1352
棚に入れた
6936
ランキング
863
★★★★☆ 3.6 (1352)
物語
3.3
作画
3.8
声優
3.7
音楽
3.8
キャラ
3.4

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ネタバレ

古川憂 さんの感想・評価

★★★★☆ 3.3
物語 : 2.0 作画 : 4.0 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 2.5 状態:観終わった

子供たちの視点を通じ描かれる戦争と政治

『コードギアス 反逆のルルーシュ』シリーズ構成、『ギルティクラウン』副シリーズ構成、そして本作『革命機ヴァルヴレイヴ』シリーズ構成を務める大河内一楼がこれらの作品群を通して描くのは、子供たちの視点から見た戦争と政治である。

「大人の癖に恥ずかしいと思わないんですかっ!」「全然。大人だからね」

「卑怯者!」「大人には褒め言葉だ。手段や美学にこだわるのは子供の格好つけだ。汚い手段を使っても目的を実現するのが大人というものだ。これは戦争だ。あらゆる卑怯も正義も勝利が塗りつぶす」

 以上は作中の台詞からの引用である。大河内の描く作品には、「大人=穢れたもの」という思想が通底している。しかし、ある一点についての議論を俎上に載せる場合、対立するふたつの視点を持たねばならない。例えば、作家・東野圭吾の描く『天空の蜂』という作品では原発の可否をテーマとして据えているが、原発のもたらす利益と弊害の双方を描き、最終的な結論を片方に寄せることは無かった。つまり、戦争を描く際には、攻撃の目的が正当なものである場合、一方的な略奪、政治交渉における胸裏の策謀、など様々な「視点」が必要となってくる。多角的な視点で物事を捉えることが要求されているのだ。
 本作で比重が置かれているのは、中立国ジオールから分離して独立国家の形勢を果たした子供たちの視点である。軍事国家ドルシアからの侵略は唐突かつ一方的なものとして描かれ、主義主張は描かれない。ただ子供たちを迫害する「汚いもの」として脚本の駒に成り下がっている。本来、善と悪との二元論に絞ることなど不可能である戦争を、勧善懲悪の戦隊ものと同じ描き方で描くことに、大河内は違和感を覚えないらしい。


 独立の発端に話を写す。そもそも、たかが一機の機体を交渉材料にして独立の話が進められるだろうか、という疑問がある。一応、現代の科学力を圧倒的に超越したスペックを持つ機体であるという説明を成したことで説明義務を果たしたことにしているが、それにしても他国に嘴を挟まれることなくヴァルヴレイヴの開発を完遂できたことに疑問の余地が残る。その上、何故彼らの家族は独立に肯定的なのだろうか。自分の子供が独立国家を形成するなどという戯言を言い出せば、何が何でも止めにかかるのが普通の心理ではないだろうか。大河内は、軍人も含め、大人と言うキャラクターを組み立てる能力を大幅に欠いている。
 そして、脚本として一番の問題はショーコをとりまく生徒たちにある。ショーコが独立の話を持ち出して「楽しそう」の一言で喜々として便乗する学生。そして終盤、選挙の結果「文化祭をやろう」などと言った彼女を総理大臣に立てる始末。確かに、平和ボケしている学生なら彼女の余りに脳内お花畑な発言に便乗するというのも、頷けなくはない。しかし、全校生徒の大半が彼女の行動を肯定するというのは、流石にあり得ないのではないか。選挙で彼女が当選するにあたって、彼女を代表として立てることに反対する生徒が徒党を組んで暗殺計画を立てる、というような話も描くことは出来そうだし、高校生という年齢設定にしておいて、全員が全員あのような短絡的な思考回路にされているのは、暗に新興宗教のメタファーとでもしているつもりなのだろうか。


 ネットを通じた描写が幾つかある。時縞ハルトがヴァルヴレイヴに初搭乗してドルシアの機体を退けた際、彼は英雄としてSNSのようなネット上のコミュニティで奉られる。しかし、「学生が軍人を退けた!スゴイ!」という以前に、「自国の軍隊は何をしていたんだ」という話にはならないのだろうか。コードギアスの際もルルーシュ一人が祀り上げられるという展開を描いていたが、こういった「カリスマ的主導者」を描くのにはそういった存在になるにあたる説得力のある理由が必要となるはずだが、大河内はその手順を省き、民間人が急速的にカリスマへと成長するような脚本を是とする。
 一方、同級生が敵の攻撃に斃れた際、ネット上で追悼が上がり、基金を募るという場面がある。これに関しては、現代性を象徴していて、巧いと言わざるを得ない。有名人の訃報がネットで流れ、それに対する追悼の言葉がSNS上で流れるのは今まさにみられる光景であるし、そこから基金を募って全然集まらなかったという流れも、「言葉だけでは祈るものの後は無関心」という偽善者心理を巧妙に描いている。本作において数少ない、出来の良い描写であったと思う。


 キャラ造形に関して、引き籠りのアキラと、自己顕示欲の為に行動するサキは、ステレオタイプながらも良くできているキャラクター。しかし、他の人物は基本的に突発的な心情に駆られ、行動原理に一貫性の無い人物が大半を占める。ここから展開の行く末を見えなくする手法が、果たしてゴリ押しなのか、エンタテイメント性なのかは、見る者によって意見を分かつと思われる。


 大河内の構成する物語を見ていると、遊川和彦という脚本家を彷彿とさせる。『女王の教室』『家政婦のミタ』などのドラマを手掛けた人物だ。遊川の脚本では、登場人物が場当たり的でインパクトの強い行動を連発することで視聴者の興味を引っ張る手法が多用される。大河内も、学生の独立国家や強姦など、ショッキングな展開を多発することで話を引っ張り、結果的にグロテスクな物語が出来上がる。彼の脚本の好みは分かれると思うが、『学生の独立国家』というテーマに興味があれば、本作よりも『無限のリヴァイアス』の方が、各段に質が高いので、そちらを推薦したい。

投稿 : 2016/05/03
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