「あまんちゅ!(TVアニメ動画)」

総合得点
69.6
感想・評価
506
棚に入れた
2335
ランキング
1711
★★★★☆ 3.5 (506)
物語
3.4
作画
3.6
声優
3.5
音楽
3.6
キャラ
3.5

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ossan_2014 さんの感想・評価

★★★★☆ 4.0
物語 : 4.0 作画 : 4.0 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 4.0 状態:観終わった

暗喩としての呼吸

前期にはオートバイの部活アニメがあって少し嬉しかったのだが、今期はダイビング部活ものが登場して、これまたちょっとうれしい。

本作を観た視聴者ならば、今後、「ウェットスーツを脱いだら下はタキシード」のような描写に遭遇した際には、「そこはドライスーツでなきゃダメだろ!」と是非ツッコんでやって頂きたい。
「スキューバダイビングの資格は、ライセンス(免許)ではない」、「エア・タンクは〈酸素ボンベ〉ではない」、と並んで、ダイバー3大ツッコみポイントの一つだ。
ツッコめばダイバーの振りができるかもしれない(笑)

本作内では、さすがにこれらのポイントをクリアして、正確に表現されている。



あまりダイビングが焦点化される描写がなく、一見して日常もののように変化のない生活が描かれるような印象を持たれがちだが、物語そのものの中に、ダイビングが中心的なモチーフとして構造化されているように思う。


スキューバダイビングには様々な楽しさがあるが、作中でも描かれていたように、自分の頭上の遥か上に水面を見上げながら海底で呼吸をしているという只それだけのことに、まず素朴に感激したものだ。
思い切り大げさな言葉で表現すれば、本来の自分の生存可能圏ではない、異世界に身体ごと侵入したような感覚がある。

おそらく、作者も同じように感じているのではないか。
だからこそ、友人関係という「生存圏」から切り離され、見知らぬ町の学校という「異世界」に投げ込まれる主人公の前に、他ならぬスキューバダイビングを用意したのだろう。


物語は独特のスローテンポで流れてゆく。
まるで日常もののように変化のない学校生活のようだが、それは違う。
このリズムもまた、ダイビングを構造化している表れだ。

物語の序盤で先生は言う、ダイビングの鉄則は「水中で呼吸を止めない」ことであると。

呼吸を止めてしまうと、外圧の変化で肉体が損傷してしまう。
が、呼吸をしつづけていれば、体内/外の圧力差は自然に調整されて危険はない。呼吸し続けるだけで、安全に泳ぎ続けられる。

そして教本が教えるスキューバの呼吸の基本は、「ゆっくりと、深く」呼吸すること。

スローな物語のリズムは、見知らぬ町という「異世界」の外圧<プレッシャー>の中で、主人公が「ゆっくりと、深く」呼吸をし続けていることを表現している。
呼吸を止め、日常もののように静止しているのでは決してない。
「呼吸」によって「内圧」が変化することを、主人公は受け入れる。新たな友達や仲間に導かれることによって。

緩やかではあるが確実に、主人公と周囲の環境は変化している。
ゴンチチのギターがリズムに良くマッチしていた。

最終話の海洋実習で、「中性浮力」という呼吸で浮力を微調整するテクニックが未熟である描写もまた、主人公の「呼吸」が、まだ少し不器用である暗喩なのだろうか。


いささか青臭いともいえる物語だが、ダイビングを媒介にしていることで、楽しく視聴することができた。
ダイビングスポットが近所にあり、ダイビングプールまである高校という恵まれた環境の割に、ダイビング部員が少ないことが些か不自然ではあるが。
(ダイビングの描写は、機材なども含めて、正確であったことは記しておく。
特にレギュレーターやインフレーターから出る空気の音は本物そのものに聴こえた)




ところで、物語とは離れたところで、ビジュアル的に違和を感じさせる表現がチラホラとあった。
制服のデザインは置いておくとして、クラブのマスコット(?)やキャラのギャグ顔のような部分に。


アニメのキャラ設定書では様々な表情があらかじめ作画され、中には別人のような落差のあるシリアス/ギャグ顔が設定されている場合も多い。
「別人」のようなビジュアルであっても「同じキャラ」であると了解されるのは、表現の描写/読解において、「同一人物の表情の変化を表現しているものとしてみなすこと」という一種の「文法」が存在するからだろう。

マンガでまず成立したと夏目房之介が指摘したこの「文法」を、いつの間にか「学習」して身に着けているからこそ、通常であれば、そうとうに極端な顔の崩れや、逆にシリアス化であっても戸惑うことなく同一人物であるとして認識する。
「文法」は一種の「約束事」であるから、人間の認識の仕組みとして自然に同一人物として「見える」のではなく、「学習」しなければそうは「見えない」という事だ。

本作でビジュアル表現に混乱を感じさせたのは、何かしら「文法」に抵触する部分があったためなのだろうが、普段は完全に無意識化している「文法」を改めて意識化させるような、ちょっと不思議な経験だった。

投稿 : 2016/10/02
閲覧 : 331
サンキュー:

9

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