「聲の形(アニメ映画)」

総合得点
88.7
感想・評価
1496
棚に入れた
7400
ランキング
101
★★★★★ 4.1 (1496)
物語
4.2
作画
4.3
声優
4.2
音楽
3.9
キャラ
4.1

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ネタバレ

岬ヶ丘 さんの感想・評価

★★★★★ 4.2
物語 : 3.5 作画 : 4.5 声優 : 5.0 音楽 : 4.0 キャラ : 4.0 状態:観終わった

本当の聲を聞く

原作既読。原作はコミックですが先に読んでおいた方が作品の色が分かりやすく、映画の方もすんなりと物語に入り込めると思います。原作にしかない場面も多くあるのでおすすめです。また非常に重たいテーマを扱っている作品でもあるので、事前に心の準備が必要という人(自分もでした)にも原作も手に取ってもらいたいです。

物語は人によって解釈や評価が別れやすい内容だと思います。聴覚障がいやいじめといった難しいテーマ、複雑な人間描写などこれまでエンターテイメントとしてのアニメがあまり突っ込まなかった、あるいは突っ込めなかった核の部分を丁寧に描いていたと思います。
私のこの作品への第一印象は、ヒロインが聴覚障がいをもっているといった難しい題材をよくアニメにしようとしたな、という純粋な驚きでした。ただその後原作を読み、映画を視聴していく中でこの作品の訴えかける本質的なメッセージを少しですが理解できたような気がします。

確かに本作は聴覚障がいをもったヒロインと出会った主人公が彼女をいじめ、彼もまたそれが原因で学校で孤立し、最終的に死を考えるようになる。そこから二人が再会し物語が展開されていくわけなので、「障がい」というのは本作の大きな要であり重要なテーマではある。ヒロインの言語発声、手話など一つ一つのシーンが非常に繊細に描かれており、取ってつけたような話題目当ての安易な設定で扱っているわけではないことも伺える。アニメーションで障がいのリアルを描くという意味での映像的な価値は非常に高いと思います。

しかしそれ以上に大切なメッセージは個人的には、「人と人がどう向き合うのか」という万人にとっての本質的なテーマだと感じます。人と人が繋がることの難しさを描く上で、ヒロインは重要なキャラクターだと思います。ヒロインは人間誰しもが感じる人と人が付き合う難しさや苦しさを描くうえで、普遍的で核になる部分を担っており重要なキャラです。
人間は皆不完全ですし、私は人間は健全や障がいといった枠に簡単に線引きできるものではないと考えています。そのうえでヒロインの存在が作品のテーマ性を別の角度から考えるきっかけになるのかなと感じました。

また主人公の将也も過去にヒロインをいじめていた経緯から評価の別れる部分もあるかと思いますが、個人的に大切なキャラクターだと思います。将也が周囲から孤立しているときに周りの人間の顔に×マークがつく演出はとても印象的でした。これは将也は体に特に不自由はなく自由に物を見て、声を聴くことができます。けれど他者のまなざしや本音からは常に目を背け、耳を閉じてしまっている状態と解釈すれば、彼もまた誰かの本当の声を聞くことができない一人の男の子。誰かの声を聴くということはヒロインにとっても主人公にとっても、とても大切で難しいことなのかなと思いました。

その他キャラクターに関しては特に植野や結弦は重要なキャラクターで、色々な意味で物語や人間関係に踏み込み、物語の厚みを増してくれたかと思います。植野の言動は一見乱暴で無理解な側面もありながら、障がいとは何か、人の繋がりとは何かを深く考えされられる重要なキャラクターだと思います。また永塚君も将也にとって大切な友達で、重たい人間関係の中でそれを軽く感じさせてくれる明るくいいキャラクターでした。

演出面ではかなり重たい物語を扱うわけで難しさは相当あったと思います。作品のもつ本質やメッセージ性はそのままに、より多くの人に見てもらえるように全体的に優しく淡く柔らかい光の演出が目立ち、ときに明るい場面効果を用いながら映像としてどう表現するかと試行錯誤しながらも、物語と真摯に向き合っている誠意を感じました。

本作のラストは原作の最終回とは異なりその前の場面で締めくくられていましたが、映画としては綺麗なまとめ方だったと思います。尺の都合という部分もあるとは思いますが、それ以上に一つの作品としてこの作品をまとめあげるならここか一番いい場面だという結論だと思います。文化祭の場面将也の周囲の人の×マークが全て剥がれ、彼らの表情や声が聞こえる中、涙しそれを拭う主人公の姿がとても印象的でした。主人公が一歩踏み出した瞬間だと思います。

物語に関して細かいことを言えば、ヒロインは主人公に好意をもつ展開がやや急であったり、一部のキャラクターが十分掘り下げられていないといった思いもあり、満場一致で素晴らしい作品とは言えない部分も正直あります。
ただそれ以上にこの作品は恐らく実写ではなかなか世に出にくい種の作品かと感じ、漫画やアニメーションという媒体だからこそ表現できた部分が多々あったと思います。数ある媒体の中でアニメーションだからこそできる表現やメッセージを模索し、今後のアニメーションの可能性を広げていくという意味で重要な転換点になる作品だと感じました。

投稿 : 2018/08/04
閲覧 : 211
サンキュー:

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