「少女終末旅行(TVアニメ動画)」

総合得点
83.6
感想・評価
963
棚に入れた
3865
ランキング
310
★★★★☆ 3.8 (963)
物語
3.8
作画
3.8
声優
3.8
音楽
3.9
キャラ
3.8

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ネタバレ

ブリキ男 さんの感想・評価

★★★★★ 5.0
物語 : 5.0 作画 : 5.0 声優 : 5.0 音楽 : 5.0 キャラ : 5.0 状態:観終わった

学者のチトと詩人のユーリが見た死にゆく世界の風景

ゴトゴトゴトゴト、ガラガラガラガラ、チトとユーリを乗せた鉄の箱、※1ケッテンクラートが迷路の様な都市をさまよいます。二人はどこへ行くのでしょう?


文明が崩壊し、植物も動物もどこかへいってしまった遠い未来のどこかのお話。

終末ものでは定番のロードムービーの体を取りつつも、明確な目標、目的地は定められておらず、二人の旅は行き当たりばったり。チトとユーリはただただ生きる糧を求めて、脈動を止めた都市の抜け殻、広大な廃墟を探索します。

バイオレンスやミステリーなどの派手な娯楽性はあらかた取り払われており、その後に残ったものを淡々と見せる作風の様です。

世界観について、書物の言語が※2日本語の変形であるのと、ケッテンクラートおよびドイツ風装備の取り合わせは不思議に見えますが、これについてはある種の翻訳と見なして、取りあえずわたしはスルーする事にしました。原作者のつくみず先生が二人の乗り物としてケッテンクラートを採用した理由も「プライベート・ライアンに出てたのを観て二人で旅をするのに丁度いい」と思ったからという程度らしいので。

作中の雰囲気はあまりSF的ではなく、どちらかと言うと夢や寓話に近いので、こういった点はすんなりと受け入れられるのではないでしょうか?
{netabare}
視点を変えてリアルな分析をすると、主人公の二人以外は何もかも死に絶えてしまった世界の様に見えて、2話には魚、3話にはカナザワ、6話にはイシイと、生き残っている動物や人がちらほら。曇った空と荒廃した都市、アルビノ(白子とも、遺伝子疾患の一種)の魚は核戦争後の未来を暗示しており、生存者は多くない模様。とは言え、短い旅路の中で一匹の魚と2人の生存者に遭遇したという事実は偶然とは捉えづらいので、案外生き延びた人々が集落の様なものを作っているという事もあるのかも知れません。あるいは外界は無傷で隔離地域のお話だったりして。ただヒト以外の生物、植物、虫、動物の姿が見えないのは気になります。(魚がいるならどこかにいるんでしょうけど‥)

他のあれこれについて

バッテリー切れ無しのカメラのテクノロジーは一見スゴイ気がしますが、太陽電池、あるいは惑星探査機、昔はペースメーカーにも使われた実績もある原子力電池の類という事が考えられます。特に後者の技術を用いれば、理屈的には数百年、数千年単位の寿命を持つ電池の開発も可能であるとされています。

神仏習合の成れ果てとも言える4話の3体の神と蓮の組み合わせなんかも、何となく数十年後というよりは、数百年後の未来の風景を思わせました。
{/netabare}
キャラについて、下を向いて歩くちーちゃんと、上を向いて歩くユーリが対照的で、性格表現にメリハリがあります(笑)また以下はキャラ全般に言える事ですが、穏やかで優しげな表情が特徴的。喋る口調についても、語調はのんびり、トーンは低め。この辺は疲れや諦めの表現とも取れますが、デフォルメの効いた丸っこいキャラデザなので悲壮感が薄くなっている様です。もし精密な人物表現だったら、見ているこっちまで暗~い気分になってしまうかも知れません。{netabare}特に大人キャラの倦怠感割り増しのリアルカナザワとかイシイとか想像するともう‥(涙){/netabare}

音楽について、静かなシーンが多く、機械の駆動音、鉄骨や道路の軋み、水の滴り等の効果音が繊細に耳に響きます。良いスピーカーを通して聴けば臨場感満点なのでオススメです。絶望の中にやわらかな光が差すようなBGMの使い方も秀逸でした。

OPEDは本編とは打って変わって絵も音も元気に満ち満ちていますが、使用されている音源が一部レトロゲーム風な所為もあってどこか哀愁が漂います。もしやと思ってYoutubeを覗いてみたら、既にファミコン音源による両曲のアレンジヴァージョンをアップされている方が何人かいました(笑)

ED「More One Night」のアニメーションはつくみず先生が全て一人で製作されたそう! びっくり仰天な才能を持ったお人ですね。


とても良く出来たアニメなので、観れば分かるとだけ言いたい所ですが、それだとレビューにならないので(笑)総評として何かしら述べるなら、あまりリアルに描くと悲惨さのみが際立つであろう文明崩壊後の未来を敢えてぼんやりと表現する事で、失われたもののありがたみと、その代わりに手に入れたものの尊さを同時に俯瞰出来る構図を、見事に浮き立たせている作品と言えるのではないでしょうか。

手に入れるべき地位もお金もない、従うべき義務も規律もない、生きるために生きる。どこか狩猟採集時代の人類を思わせる、呑気で屈託のない二人の少女が送る危うくもほのぼのとした旅日記。

最後まで見届けたいと思います。


※1:音からしていかにもドイツ語ですが、ケッテン(Ketten)は鎖、つまりキャタピラの事で、クラート(krad)はクラフトラート(Kraftrad)の略。クラフトラートは二次大戦当時のバイクの通称だそうです。因みに現代ドイツ語では バイクの事をモトラッドと言う様です。今期の他のアニメで聞いた事のある様な単語ですね(笑)

※2:よく観るとちーちゃんの日記は全部仮名で、発電所、河童、粉などの漢字もあちこちで使われていますね。ちーちゃんが仮名のみを使っているのは学習程度が低いと言うよりは、日本古来からある風習の復興の様にも見えました。

投稿 : 2017/11/22
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サンキュー:

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