「機動戦士ガンダム Twilight AXIS 赤き残影(アニメ映画)」

総合得点
65.0
感想・評価
25
棚に入れた
127
ランキング
3448
★★★★☆ 3.5 (25)
物語
3.2
作画
3.8
声優
3.7
音楽
3.5
キャラ
3.6

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けみかけ さんの感想・評価

★★★★★ 4.7
物語 : 4.5 作画 : 4.5 声優 : 5.0 音楽 : 4.5 キャラ : 5.0 状態:観終わった

濃縮された物語の中に秘められた新しい『ガンダム』の可能性…「だからオイラも愛しているよ…1人のガノタとして…」

当初は連作ピクチャードラマの企画だったものが発展し、サンライズ初のWEB小説として「矢立文庫」レーベルの記念すべき第1作となった小説をアニメ化した作品
ピクチャードラマからあれよあれよという間に話が大きくなり、小説のプロモーションビデオ程度に考えていたアニメでしたが遂には30分弱の作品としてスマホアプリで先行配信
再編集されて劇場公開という数ある『ガンダムシリーズ』の中でも異色の作品となっています
ちなみに記憶が正しければ映像化された『ガンダムシリーズ』で主人公が女性なのは現時点で『スターゲイザー』とコレくらいでしょう


原作小説のダイジェスト的な内容であるが故に『ガンダム』の特に「宇宙世紀シリーズ」に詳しくないとサッパリ理解出来ないと思います


舞台となるのは宇宙世紀0096、『ガンダムUC』の数ヵ月後
小惑星アクシズが地球圏を完全に離れることが確定した為、地球連邦軍から調査団が派遣されることとなった
もちろんその思惑は惑星をも動かしてしまったサイコフレームの調査と回収にあった
その一団の中には、元ネオジオン軍でMS開発に携わっていたMS技師のアルレット
彼女の作るMSのテストパイロットを務めていたダントンの姿もあった
アルレットはシャアに心酔していた為、自らが手掛けたシャア専用機であるサザビーを最後に一目見たかったのである
しかしそんな彼女らに所属不明のガンダムタイプが突如襲い掛かる
ダントンはアクシズに残されていた試作機でガンダムに戦いを挑むのだが…彼には、人を撃つことが出来なかったのだ


まずこの企画の原案を手掛けたのは『蒼き鋼のアルペジオ』などで知られるArkPerformanceで、宇宙世紀の『ガンダムシリーズ』に散りばめられた可能性を繋ぎ合わせてミッシングリンクの様な話を作れないか?というアイデアの下、
①『ファースト』でフラナガン機関から生まれたニュータイプの生き残りにパイロットとしてではなく、他の道に活路を見出した者がいたのではないか?
②『Ζ~逆シャア』までにアクシズ内にはネオジオンの試作機が無数に残されていたのでは無いか?
③『0080』に登場したガンダムNT-1(俗に言う「アレックス」)を引き継いだ機体が存在したのでは無いか?
④後の『F91』に登場するクロスボーンバンガードには前身組織があったのでは無いか?
という一連の可能性に答えたのがこの作品といえます


①はアルレット自身がララァと同じフラナガン機関の出身であり、そこでシャアと出会い、パイロットではなくMS技師になったこと
②はシャア専用機として作られていたザクⅢ改の登場やR・ジャジャの登場、そして第一次ネオジオン戦争時に設計され途中廃棄されたとした今作オリジナルのMA、アハヴァ・アジールの登場(『逆シャア』世代には聞き慣れた名前ばかりですなw)
③は今作に登場するガンダムAN-01トリスタンのモチーフがまんまアレックスだということ
④はこのトリスタンのパイロットで強化人間のクァンタンが「シャルンホルスト(コスモバビロニアの母体となったブッホ・コンツェルン創始者)」の名を口にしたことがそれぞれ相当します


ちなみに今作、回想が度々挟まれ時系列が何度もの交錯する構成になっていて20年近い年月の中が一瞬で切り替わるのですが、その中でアルレットの容姿がほとんど変わっていない(それどころか童顔過ぎる)のはニュータイプ実験の副作用でほとんど老化しない身体になってしまったからだそうです
この時間経過の程はダントンの容姿が(アルレットとは対比的に、皮肉にも老いという形で)度々変わることで逆に判断できます


本編を観ていただくと分かる通り、シャアに心酔しているアルレットと、彼女と実の親の様に接してきたダントン
二人の長い年月を経てもプラトニックな関係性でいる辺りを、短い時間の中に凝縮して描き出しているというドラマ性がまず一番の観どころと言えるでしょう


そして何よりMS戦が短い時間の中でガッツリ押し込まれているのも良いですよね
『ファースト』、『0080』、『0083』、『Ζ』、『ΖΖ』、『逆シャア』と宇宙世紀シリーズのほとんどの作品のMSの要素を何かしら取り入れているのがファンには堪らない


今作が初監督作となった韓国出身でサンライズではもはや名手といえる奇才のアニメーター、金世俊(キム・セジュン)氏は重厚なメカ描写を得意とされながらも、今作ではキャラ作画やMAのデザインを含め、メカ作監の阿部慎吾氏と合わせてほぼ半分以上の原画を二人で手掛けられたそうな


この方、昨今の日本のテレビアニメの(主に深夜アニメのキャラ作画のスクショを指してギャーギャー言う)作画厨騒動に懐疑的なお考えをお持ちな様で、(実験的な表現、個性的な作画を主に指して)70~90年代のジャパニメーション黄金期を復権させようとしてるらしく、その考えにはオイラも諸手を挙げて賛同したいので今後も是非監督業を続けて頂きたいところです
演出面ではエピックやダイナミックといった大袈裟な方向よりもヒューマンドラマをドギュメンタリータッチで描くことに注力されてる様ですね
キャラも描けて、メカも描けて、考えもしっかりしてる、と来たらアニヲタとしては歓迎するしかないでしょ!


そういえばメカの方ですが、トリスタンをコアとするクレヴェナール(デンドロビウム的なヤツをイメージしてください)の武装の1つでかつてこれまでどのモビルスーツも持っていなかった未知の兵器が登場するのも魅力的でした
現時点での詳しい解説はサンライズ谷口理Pですらお茶を濁すほど曖昧なものですが、とりあえず公式では“ビームポッド”と呼称されるソレにご期待下さい!
あと『ユニコーン』を彷彿とさせる“めちゃくちゃ強いバイアラン”が観れるのもバイアラン好きにはポイント高いですw


ところで声優のキャスティングはオーディションでなくボイスサンプルからの選考だったそうです
アルレット役の清水理沙さんは満場一致
ダントン役の阪口周平さんは某有名声優に決まりかけてたところを金監督が阪口さんを推したことで覆ったそうな
谷口Pは短い作品なので断られるか心配だったそうですが(笑)お二人はモチロン、キャストは皆「宇宙世紀の『ガンダム』出れる、モビルスーツに乗れる」ことを声優にとっての“誇り”だと仰られておりました
特に阪口さんは『逆シャア』世代でジオン派な上、まさか“赤い機体”に乗れる日が来ようとは、と感無量だった模様
クァンタン役の増田俊樹さんもガンダムに乗れた!という喜びも束の間、思わず清水さんに「ファンネル!」という叫びを言える声優は幸せなんだぞ!?と説教したそうなw


2018年で『逆シャア』公開されてから30年が経ちます
ディープなガノタになるほど、『逆シャア』ってある意味掘り起こさなくても良い作品じゃないですか?
中途半端な終わり方でもアレが余韻に浸れるんだよ、と
ある種の聖典なわけです
しかしそんな聖典に続きを作ってしまったのが今作なワケですよ!それもとても素晴らしい形で!
短い中に情報量がギュッと詰め込まれた作品ではありますが、だからこそ何度観返しても良い、むしろ味が染みてくる、スルメのような『ガンダム』に仕上がった思いますね

投稿 : 2018/01/03
閲覧 : 775
サンキュー:

3

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