「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ(TVアニメ動画)」

総合得点
72.4
感想・評価
736
棚に入れた
3395
ランキング
1148
★★★★☆ 3.9 (736)
物語
3.8
作画
3.9
声優
3.8
音楽
3.9
キャラ
3.8

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ネタバレ

sekimayori さんの感想・評価

★★★★☆ 3.4
物語 : 3.0 作画 : 4.0 声優 : 3.5 音楽 : 4.0 キャラ : 2.5 状態:観終わった

身も蓋もねえな

火星の少年兵が手に入れた古い大戦の遺物・ガンダム。
彼らはそれを駆り、火星独立運動の象徴たる少女を地球まで護衛することになる。
孤児が作った家族、そのたどり着く先とは。

2期途中の数話を見逃しちゃったんですが、1期の2期のネタバレ感想メモをまとめて。
色々考えてたら、①プロットについての感想と②キャラの物語に対する感想が真っ二つに割れちゃったまま修復不能になりました。
具体的には、
①2010年代のガンダムとして見せたいものは感じ取れたし、プロットは好き(ただしかなり言葉足らず)
②身も蓋もなさすぎ&粗雑。キャラの行く末には美学もカタルシスも感じない
ってのが率直な感想。
全体として、不器用なガンダムだったなぁと。
4クール付き合ったことに見合う感動は……うん……。
{netabare}ビスケットが退場し、1期ラストでミカが右手(文字を書く手)の機能を失った時から予想はしてましたが、そのまま最後まで突っ走るとは思いませんでした。 {/netabare}


■プロットは好き
{netabare}これ、終始一貫して「持たざる者」と「持てる者」の物語ですよね。
社会の最下層、誰に対しても「持たざる者」である鉄華団が、上を目指して這い上がっていく。
でも、最底辺の孤児がセブンスターズという「持てる者」の最上位者に勝利するなんて、さすがにアメリカンドリーム(笑)としても無理筋なわけで。
それでもなんとか、命を犠牲にしながら、漸進的な改革という名の希望を掴んで次代につなげていく。
ミカが農業を志していたことからも、鉄華団の世代は枯れつつも種が蒔かれ、次の世代が新たな花をつける、というモチーフが全体を覆っていたんでしょう。
実際、彼らが繋ぎ咲かせた花(ヒューマンデブリ廃止&火星の経済的独立)は、客観的には大きなものだったと思うんですよ。

なぜ今、「持てる者」と「持たざる者」の物語なのか。
冷戦終結から30年弱、宇宙世紀が描いたようなイデオロギー闘争の時代は遥か昔。
「ポストモダン」「大きな物語の終焉」みたいな言説もとっくにキャッチーさを失い、かといって文化の衝突、テロリズムの応酬にも飽きてしまった(もうすぐイラク戦争から15年ですって奥さん!)。
また、テロリズムは00で扱い、「文明の衝突」より大それたこと(種族間の衝突)も劇場版00でやってしまった、というガンダムシリーズ内部の事情もあったのでしょう。
そこに持ってきたのが、同一体制内での、経済的・社会的に再生産された「勝者と敗者」の物語。
経済格差や教育格差の固定が取りざたされて久しい現代のリアリティを意欲して、純粋に経済的・知能的な階級闘争(この言葉を使って良いのか浅学にしてわかりませんが)じみた争いをモチーフにした、ということなのかとも思います。
で、結局その社会構造を設定して、何を伝えたかったのか。
「いまの社会ってこんなもんだよね」という諦念か、はたまた「それでも声を上げることで漸進することはできる」という希望か。
結論として、鉄華団の反乱の帰結は改革のドライビングフォースになっているのだから、後者なのだと思います。
あくまでも「持たざる者」、自分たちは逆襲に成功せず路傍の石と朽ち果てるというのは、言ってみればかなり身も蓋もない。
でも、彼らが得たもの、次につないだものは、彼ら自身が滅んだとしても、その輝きを失うことはない。
「持たざる者」のささやかな抵抗、若さと無謀さを武器にした反抗により、まっとうな権利を勝ち取るという結末、私は好きです。

ただし、すげー言葉足らずな部分が。
鉄華団の家族としての物語にフォーカスした結果、巨視的な視点へのガイドが足りなさ過ぎた。
具体的には、セブンスターズの腐敗問題、ラスタルの政治的信条や鉄華団への評価、クーデリアの具体的な政治活動みたいな、ポリティカルな描写が欠落しすぎていたと感じます。
イデオロギーを描かないからといって、政治(=「影響力を行使し、行使される関係性」が一つの定義だったはず)が存在しないわけじゃないんですから。
同じ言葉足らずさで、マクギリス事件終結後の顛末が、ナレーションで軽く流されてしまったのも痛い。
なんだか「結果的に」「ちょろっとクーデリアと話をしただけで」「ラスタルのお情けによって」結果がもたらされてしまったように感じられかねない。
鉄華団が散った価値、政治というパワーゲームに与えた影響が直観的に理解しづらく、鉄の華の種子が芽吹いたことに感動しづらかったのは、単純にもったいねえなと。{/netabare}


■キャラの物語には不満
{netabare}細かいドラマ部分の脚本の粗さ、全体としての間延び感は正直閉口ではあったけど、揚げ足取りはダサいのでやめます。
ただ、それ以上に気に入らなかったのが、キャラの物語として身も蓋もなさ過ぎた点。
正直、鉄華団周辺のキャラが物を考えなさ過ぎて、「滅びの美学」を体現できてなかった。

彼らは孤児(オルフェンズ)で軍人、少年兵として戦場で生きたことしかない「持たざる者」。
学校教育も、社会教育も受けていない。
無垢な彼らが、魑魅魍魎渦巻く政治と経済の世界に乗り込み、夢破れて果てながらも上部構造に風穴を開ける、という物語を制作陣は意図しているはずなのは理解できる。

ただ、クレバーさが勝利に直結する世界で、無垢さを強調しすぎても、「キャラはバカなんだから仕方ない」とのシラケにしか繋がっていない。
もちろん視聴者の後知恵、結果論なのはわかってます。
そうはいっても、オルガとか単に「俺たちは上に行くんだ」という強迫観念の操り人形にしか見えなかったのはきつい(野望をどう実現させるか、考えることが何より大事なはずなのに)。
仁義は脳死の恭順じゃないぞ。
エンタメとして、視聴者がプロットの身も蓋もなさにシラケないような熱量が必要だったにもかかわらず、プロットを語るキャラの物語自体がさらに身も蓋もなかった。
これは致命的だったように感じます。
やっぱりビスケットが失われ、ミカの右手という教育の機会が失われた時点でいろいろ決まってたんだなぁって思っちゃう。
あと、破滅に突っ走る子供たちに対するメカニックのおやっさんやメリビットさんの態度は、私が青臭いのは承知のうえで、はっきり嫌いです。
大人の責任を軽々と放棄できるほど、あの世界の命の価値は小さいんだなと。 {/netabare}


だめだ、せっかく久々に書いたのに愚痴多めになった、すみません。
格闘戦の迫力とか機体のデザインとか音楽(最後のOP除く)とか、ライドの顛末の描き方の冷徹さとかは好きです、本当に。


【個人的指標】 55点

投稿 : 2017/12/17
閲覧 : 514
サンキュー:

17

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