「響け! ユーフォニアム(TVアニメ動画)」

総合得点
90.9
感想・評価
2897
棚に入れた
12900
ランキング
32
★★★★★ 4.2 (2897)
物語
4.1
作画
4.4
声優
4.1
音楽
4.3
キャラ
4.1
ネタバレ

フィリップ さんの感想・評価

★★★★★ 5.0
物語 : 5.0 作画 : 5.0 声優 : 5.0 音楽 : 5.0 キャラ : 5.0 状態:観終わった

揺れ動く高校生たちの心情を、吹奏楽を通して鮮やかに描いたマスターピース

大人になる一歩手前の高校生の真っ直ぐな気持ち、
自分の信じる価値観、思い通りにならないもどかしさ。
そんな感情を吹奏楽部の活動を通して表現した名作。
今さらだが、個人的にはこの作品に出会ったことで、
また本格的にアニメを見るようになった。

アニメーション制作:京都アニメーション、
監督:石原立也、演出:山田尚子、
シリーズ構成:花田十輝、
作画監督:池田晶子、原作:武田綾乃

主人公は、ユーフォニアムという低音のマイナー楽器を担当する
吹奏楽経験者の黄前久美子。
1期では久美子と高坂麗奈、2期では鎧塚みぞれと傘木のぞみ、
久美子と副部長の田中あすかを中心に物語が進んでいく。
この作品が優れているのは、高校生同士の距離感の描き方が
リアルに感じられることだ。
それは、原作者の武田綾乃が作品執筆当時に現役の大学生だったことが
大きな要因だと思う。
数年前までは、登場人物と同年代だったというわけで、
執筆するにあたり、周りの友人たちや実際の高校の吹奏楽部員たちに
取材を行い、リアルを積み重ねていったという。

しかし、正直言って、アニメでここまで地味な主人公は、
他作品ではいないのではないだろうか。
見た目と性格があまりにもパッとしないどころか
「思ったことが口に出てしまう」という癖くらいしか
分かりやすい特徴がない。
ただ、ユーフォニアムや吹奏楽に対する気持ちが揺れ動いていたり、
知り合いが少ない高校を選んだり、控えめな性格だったりと、
かなりリアルに近い設定だ。
これは武田綾乃が自分の友人をモデルにしているからで、
私にとってはアニメキャラのテンプレートから外れた、
ある意味好感の持てる人物像だった。

1期は久美子が中学時代に麗奈に対して言い放った
「本当に全国に行けると思っていたの?」と
麗奈が叫んだ「死ぬほど悔しい」という
気持ちのギャップを埋める物語となっている。
このふたりの関係性を中心にしながら、
弱小吹奏楽部が新任顧問・滝昇の指導によって、大きく変化していく様と、
部員同士の関係性、「上手くなりたい」という
部員の気持ちを丁寧に表現している。

{netabare} 久美子と麗奈の距離間が少しずつ縮まっていく様子がいい。
気の弱い久美子は、麗奈に話しかけようとするのだが、
過去の出来事が引っかかって、なかなか上手くいかない。
ある日、河原で幼馴染の秀一と新任顧問である滝昇について
噂話をしていたところを麗奈に聞かれてしまい、
険悪な雰囲気になってしまう。
翌日、麗奈のほうから「昨日は言い過ぎた」と告げられ、
そのまま別れようとするところで、久美子は直感する。

「このまま何も言わなければ、また後悔する」と。
久美子は決心して、自分たちも噂話をしていて良くなかったこと、
そして、練習が中止になった日、麗奈が吹いていた
「新世界より」のトランペットで、とても元気づけられたことを
伝え、走ってその場を後にする。
人との関係性というのは、適切なタイミングで思いを相手に伝えないと、
ずっと変わらないことがある。
そんな状況をふたりが交差する瞬間にスローモーションで表現している、
とても好きなシーンだ。
この回から久美子と麗奈は近づいていく。
電車で偶然出会って、少しの間、ふたりで歩くときのぎこちない空気感や、
久美子の話し方がとてもリアルだ。
麗奈が「黄前さんらしいね」と言って、久美子に好印象を持っていることが
感じられたときの様子などは、こちらまで楽しい気持ちにさせてくれる。
この辺りの表現は、黄前久美子役の黒沢ともよがとても上手いと感じた。

そして、ふたりの関係性が劇的に変化するのが8話で、
多くの人がレビューしているだろうが、私もこの回を見て、
完全に気持ちを持っていかれてしまった。
あがた祭りで起こる葉月と秀一の出来事、
それに並行して麗奈と久美子は大吉山に登る。
中学時代にあったわだかまりもここで霧消する。
そして「特別になる」という麗奈の宣言に久美子は圧倒され、
同級生の気持ちの強さに尊敬と親愛の念を抱く。
その後、ふたりで「愛を見つけた場所」を吹く。
奥華子が作曲した美しいメロディにのって、大吉山の街並みや、
ほかの生徒たち、葉月と緑輝が出会うシーンなど、
それぞれの様子がとてもドラマチックに映される。
最後には久美子と麗奈が寄り添いながら曲を奏でるシーンで終わる。
この回は、何度繰り返して見たか覚えていないほどだ。

8話を境にして物語は大きく動いていく。オーディションが行われた結果、
トランペットのソロパートは、3年生のパートリーダーである
中世古香織ではなく、1年生の麗奈が吹くことになり、吹奏楽部は大混乱。
滝昇と麗奈が昔からの知り合いだったことも明らかなになり、
部内は疑心暗鬼に陥る。
香織を崇拝する吉川優子との間で諍いが起こり、
最終的には再オーディションが行われることになる。

この話での主役は、もちろん麗奈なのだが、
彼女と争う立場の香織についてもしっかりと描写されている。
優子が度々思い出すシーンで、「上手ですね」と優子が話しかけると、
香織が「上手じゃなくて、好きなの」と言う、
淡い色で描かれたシーンは、香織のこれまでの努力や想いを考えると
胸が締め付けられる。
争うふたりをそれぞれの視点からしっかり描いており、
部員たちが吹奏楽に真摯に向き合う姿が、とても心に残った。

また、オーディションでのトランペットの聞き比べシーンが絶妙で、
本当に上手く作っている。
何となく聞いていると、どちらが優れているかよく分からないほど、
両者とも上手いのだが、よく聞いてみると、麗奈のほうの音が太く、
音を伸ばしたときのヴィブラートがとても印象的なのだ。
個人の趣味だけなら、香織の音のほうが綺麗で好きだという意見も
あるかもしれない。
それだけ繊細な表現をしている。音が主役の作品なので、
こだわりを感じさせる良いシーンだった。
既出だと思うが香織のほうは洗足学園の音大生、
麗奈のほうはプロ奏者の上田じんが担当している。

久美子が自分の演奏に苦悩するところも12話で描かれている。
原作にはない、追加された話なのだが、
この回を入れたことで、全体がとても上手くまとまったと思う。
自由曲の「三日月の舞」で追加されることになった
ユーフォニアムの部分を久美子がどうしても上手く吹けない。
滝から指摘されて、必死に練習するのだが、
最終的にはそこの部分は久美子だけが吹かないという
曲構成にされてしまう。
久美子はそれが決まった帰り道に悔しさのあまり、
泣きながら宇治橋を疾走し、鴨川に向かって「上手くなりたーい」と絶叫。
「死ぬほど悔しい」とつぶやく。
その時、久美子の頭のなかで、中学生のときに麗奈と一緒に演奏した
「地獄のオルフェ」が流れ、麗奈が中学のコンクールのときに
自分に告げた気持ちを初めて実感するのだ。
視聴者は、ここで初めて久美子と麗奈が同じ気持ちになったことを
理解する。秀逸な回だったと思う。

そして、最終回も出色の出来だった。個人的には12回までで、
十分に満足していたのだが、
最終回は、これまでの回を吹き飛ばすくらいの卓抜の完成度だった。
まず、最初の12分間を起床して電車に乗り、学校に到着して楽器を運搬し、
会場に到着、演奏が始まる前までを描いた構成にしたことが英断だった。
もちろん、作画のボリュームの関係で演奏シーンを
それほど長くできなかったという事情もあったのだろうが、
ここの12分間によって、視聴者までが本番までの緊張感を
存分に味わうことができた。
実際、私は放映時に前半を見ていて、手に汗をかくほど緊張した。
本番が始まるときの眩しさを感じさせるような光の色合いも素晴らしい。
自分が舞台に立っているような感覚を味わわせてくれた。
もちろん、吹奏楽を演奏するシーンも完成度が高い。
ピストンを押す動きなどにきっちりと音を合わせるなど、
アニメーションでこれをやるとかなりの手間がかかると思う。
演奏シーンの迫力には本当に驚かされた。
作画崩壊などが相次ぐアニメ業界において、
1クールのTVアニメでここまでできるのは京都アニメーションくらい
しかないだろう。「凄い」のひと言に尽きる。 {/netabare}

また、さんざん論じられたことだと思うが、
画面における陰影のこだわりが半端ではない。
その時のキャラの置かれた状況を光と影によって表現している。
顕著なのは11話のオーディション前に久美子と麗奈が話すシーンで、
悩んでいる様子の麗奈はずっと影に入っていて、
全体的に暗くなっているのだが、
決意した瞬間に影から出て、顔に光が当たる。
1期では一瞬のことなので、初見だと分かりにくいが、
2期だと優子とみぞれによって、より分かりやすく、
効果的に演出している。

そして1期は特に劇伴がよりドラマの完成度を高める効果を発揮している。
オーディション前に久美子と麗奈が話すところで流れる
「去来する想い」や、オーディション後に香織が「吹けないです」と
言うところの「重なる心」、大会当日に準備する教室で流れ、
こちらの緊張感を高めてくれる弦楽器が特徴の「一途な瞳」など、
その場の雰囲気を一気に変えてくれるほどの力のある曲が
いくつもあるのだ。

この作品は2015年の放映から、ずっと楽しませてくれていて、
それだけの魅力が詰まっている。
吹奏楽とそれに懸けた高校生たちの想いを実感できる、
見事なアニメだと思う。
また新作が作られても、全く引き延ばしの感じはなく、
常に高いレベルで安定している。
(2018年4月初投稿)

(2019年8月3日追記)
{netabare}ユーフォ1の印象的なシーンとして
よく挙げられるのが8話と12話だ。
8話は大吉山に登って久美子と麗奈の友情が深まる重要な回。
そして、12話は原作にはないオリジナルの話として作られ、
ユーフォ1を全13話の1本のアニメとして
評価するのに絶対に欠かせない回となっている。
その12話の演出と絵コンテを担当し、
京アニのプロ養成塾の講師も務め、
若手アニメーターの教師的な役割も担っていた
木上益治さんが先日の放火事件で
亡くなっていたことが公表された。61歳だった。

映画の『ドラえもん』、『クレヨンしんちゃん』、
『AKIRA』での原画を担当していたことでも知られ、
多くの有名テレビシリーズを手掛けた。
京都アニメーション入社後は、
原画、演出、絵コンテ、作画監督として
ほとんどの作品に参加し、まさに京アニを支え続けてきた人物。
アニメーターとしては多田文雄(文男)、
演出家としては三好一郎と名前を使い分けていた。

ユーフォシリーズのコメンタリーを聞いていると
木上(三好)さんがいかに京アニのクリエイター陣から
絶大な信頼を得ていたのかが分かる。
トップの石原立也や山田尚子らの監督陣も
木上さんの適切なアドバイスには
いつも耳を傾けていたようだ。
あの山本寛でさえ、木上さんのことは
尊敬していたと聞く。

ユーフォ1の12話では、シリーズ全体に
関わる素晴らしい仕事をされている。
特に久美子が「上手くなりたい!」と叫びながら
宇治橋を疾走するシーン。
橋の手前から走り出して右へとカーブし、
通行人を掠めながら駆ける動きは圧巻だ。
木上さんは絵コンテで細かく指示をしている。
リアルタイムでの視聴当時、ネットなどでは
「何だこれ!」「凄すぎる」という絶賛の嵐だった。

そして、久美子の頭の中では
麗奈が「メチャクチャ悔しい!」と涙を流した中学時代の
コンクール曲「地獄のオルフェ」が鳴り響き、
ここで、ようやく久美子と麗奈は、
完全に気持ちを分かり合えたのだった。
1話で「本当に全国に行けると思ってたの?」
から12話に至る久美子と麗奈のストーリーとして
完結した形になっている。
視聴者をハッとさせる見事な演出だった。
そう考えると13話の位置づけは、
もはや、おまけともいえるのかもしれない。

もうひとつ見逃せないシーンは、
久美子が学校に携帯を忘れて取りに行く場面。
滝と久美子は話しながら教室に行き、
携帯を発見して帰るときに滝が
「あなたの『できます』という言葉を
私は忘れていませんよ」と久美子に告げる。
この言葉を入れることを提案したのが木上さんだった。
滝の人間性を知ることのできる重要なシーンで
作品にさらなる深みを与えている。
京アニにおける木上さんの立ち位置を考えると、
このセリフを入れたことにとても納得する。
おそらく木上さんはユーフォのキャラクターで
滝にいちばん想いを寄せていたのではないか。

京アニの良心ともいえる重要な役割を担い、
若手アニメーターを支え続けた人物だった。

木上さんの仕事
https://i.imgur.com/IK1NOgU.gifv
https://i.imgur.com/6KsUD8n.jpg
https://i.imgur.com/OanDBvo.jpg
https://i.imgur.com/CiqVJAx.jpg
https://i.imgur.com/ThCPCxT.jpg{/netabare}

(2021年4月17日追記)
※もう1ヵ月も前の話だが、
原作の武田綾乃が『愛されなくても別に』で
第42回吉川英治文学新人賞を受賞した。
ノミネートされていたのは知っていたが、
加藤シゲアキのニュースばかりだったので落選したと思っていた。
初期の作品から成長とともに読んできたので、
何か近所に住んでいる女の子が賞をとった気分。
今後もユーフォの短編なども含め、良作の執筆に期待。

『響け! ユーフォニアム 5th Anniversary Disc
~きらめきパッセージ~』は、短編小説の内容が
声優付き、演奏付きで楽しめる。
誰が話しているのかの説明がないので、
TV版を鑑賞して、キャラ名と声優が一致していないと
理解するのが難しいかもしれない。
短編が映像化されないのは残念だが、
十分に堪能させてくれる。「壁ドン」のネタは、
声優付きの演出だったから、より楽しめた。

投稿 : 2021/04/17
閲覧 : 809
サンキュー:

134

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