「ヴァイオレット・エヴァーガーデン(TVアニメ動画)」

総合得点
94.1
感想・評価
2532
棚に入れた
10299
ランキング
6
★★★★★ 4.2 (2532)
物語
4.1
作画
4.5
声優
4.1
音楽
4.1
キャラ
4.1

U-NEXTとは?(31日間無料トライアル)

ネタバレ

空知 さんの感想・評価

★★★★☆ 3.9
物語 : 3.5 作画 : 4.5 声優 : 4.0 音楽 : 3.5 キャラ : 4.0 状態:観終わった

戦争が背景の悲しい物語で泣けるのですが、うーん・・

原作未読。

私は京都アニメーションの作品は好きですし、高く評価することが多いです。ですが、少し厳しいレビューになると思います。


1. 絵について

まず、絵から感想を書いていきます。常にトップランナーとして走っている京都アニメーションらしく、形容のしようがないほど綺麗です。

ですが、下記の理由から"5"は付けられませんでした。

絵によって、露出が1段から2段程度高い場合があり、ハイキーな映像が目立ち、時にいわゆる「白飛び」している絵が多かったように感じます。

窓を背景とする逆光のカメラワークが今までの京都アニメーションの作品より多かった?ような気がします。

また、被写体以外の背景に白っぽいフィルター処理を施しています。
京都アニメーションの作品では「光」を丁寧に描くことを重視してるため、必要なエフェクトですし、映像を綺麗に見えさせるための加工であることは理解できますが、多用しすぎだと感じました。

同様に、照明のない夜間の映像では、「黒つぶれ」した絵にならないように、フィルター処理によるエフェクトが施されており、絵に白っぽい膜が一枚かかったような絵が多すぎました。

私は、これらのグレーフィルターが気になって仕方ありませんでした。

デジテル処理で様々なエフェクトを掛けるのは当然ですが、
あまり度が過ぎると"くどさ"を感じてしまうものです。

総監督、美術監督、撮影監督などが話し合った上でのことでしょうから、素人があれこれ言うべきことではありませんが、普段からRAWファイルをフォトショップやレタッチソフトでいじっている者からすると、「どうだ綺麗だろ」というやや傲慢な姿勢をうっすらと感じてしまったというのが本音です。

レタッチに凝りすぎた写真がコンテストで入賞を逃すのに似ています。

超絶綺麗な絵だと感じながらも、京アニの絵で"5"を付けられないという、とても皮肉な結果になりました。


2.音楽について

OP,EDとも内容にふさわしいとても良い曲でした。
ただ、EDに関して率直に言うと、歌い手の声質と歌い方が、
EDの曲調には合っていませんでした。余韻に浸っている時に、
EDが邪魔になったこともあります。
私はあまりOP,EDに関しては細かなことを言わない質なんですが、
この作品のEDの歌手に関しては起用ミスだと思いました。


3.ストーリーについて

{netabare}

ヴァイオレットがどのような幼少期を過したのかは触れられていませんが、12歳程度になっても言葉を話せなかったようですね。

兵器として扱われていた彼女は、言葉も話せず、結果、人間としての感情の欠落があった。

しかし、少佐だけは彼女を人として扱い、言葉を教えます。
ヴァイオレットにとっては、少佐の命令だけが全てであり、
少佐の存在だけが心の拠り所だったわけです。

何の考えもなしに多くの人を殺めてしまった罪悪感から、
少佐なき世界で彼女がどのようにそれを乗り越えて生きていくのか。

この作品は、自動手記人形となった彼女が、その仕事を通じて
他者の悲しみに接し、その悲しみに共感しながら少しずつ人としての感情を取り戻していくストーリーです。

よって当然、「自己が犯した罪にどう向き合って行くか」という大きな
問題にぶち当たるはずです。

この作品は、信仰に繋がっていくほどの重いテーマを持っています。
兵士ゆえに人を殺めたとはいえ、彼女の心から罪悪感がなくなることはないでしょう。

単に「少佐が言った愛してるという言葉を知りたい」という問題だけに焦点を絞ってしまうと、矮小なストーリーになってしまいます。

脚本でも、それを意識しており、
第1話において、社長から「君は燃えている。やけどしているんだ。
でも、これから君は少しずつ、やけどしていることに気づくだろう」と言われる部分がありました。
第1話ですから、プロットとしてこれは重要な要素となります。

この作品では、「愛している」という言葉の意味を知るだけではなく、
少佐がずっと心の中で思っていて、ヴァイオレットに伝えたかったであろう

「人を殺すことに平気でいてほしくない」という少佐の思いをやがて
ヴァイオレットが知るという、この二点だけはしっかりと描写するはずです。

そう思って観ていました。


第7話(仕事帰りの船中の部分)

「私は燃えています。私が殺してしまった人々にも、その人を愛する人がいたのではないか」と彼女は実際に苦しんでいます。

これは非常に強い後悔であり、罪悪感を伴った感情です。
第1話の社長の言葉通り、矢張りヴァイオレットは罪の意識に目覚めます。

しかし、最終話まで観ると、

その罪の意識にどう向き合って行くのかが描かれていないように感じられるのです。

自動手記人形として、人の心を咀嚼して素晴らしい手紙を書くことで償いをするというのが本作の解決方法なのでしょうか?

そのあたりを明確にせずストーリーが終わってしまった気がします。
ヴァイオレットの少佐に向けた手紙の中に、自分が犯した罪への言及はありませんでした。

「生きて、生きて、生きて、その先に何があるかわかりませんが生きていきます」

という言葉はありましたが、第7話で気付いて、更に成長したであろう彼女から、罪の意識をきちんと手紙に書かせるべきだったと私は思います。

彼女を責めているのではありません。
戦争ですから、命令に従った個々の兵士の罪を問うのは酷に過ぎます。
あくまで、ストーリーの流れとして扱うべきテーマだと思うのです。

ところが、「今では愛してるという言葉の意味も少し分かるようになりました」と手紙を書くことで終了してしまっている。


「愛しているという言葉の意味を知りたい」という動機で自動手記人形になり、「愛しているという言葉の意味が少し分かるようになった」というオチで終わってしまっていたように感じました。

これでは単に感傷的な物語として終わってしまったと言われても仕方がない。

戦争によって人を傷つけ、自らも傷つき、
同時に大切な人を亡くした孤独な幼い心。
それでも前を向いて歩いていこうとするヴァイオレット。

そりゃ、誰だって泣けちゃいます。特に第10話などは。

ですが、なんだかなぁ・・。

実に評価の難しい作品になってしまったものだなぁと感じています。
賛否両論あって当然ですが、私は京都アニメーションのファンにも関わらず、好意的なレビューを書くことができないという結果になってしまいました。

{/netabare}

よほど骨格がしっかりしたストーリーでなければ、
戦争を題材にして視聴者を泣かせにかかるというやり方は禁じ手のような気がします。

投稿 : 2018/04/06
閲覧 : 508
サンキュー:

51

ヴァイオレット・エヴァーガーデンのレビュー・感想/評価は、ユーザーの主観的なご意見・ご感想です。 あくまでも一つの参考としてご活用ください。 詳しくはこちら
ヴァイオレット・エヴァーガーデンのレビュー・感想/評価に関する疑問点、ご質問などがございましたら こちらのフォーム よりお問い合わせください。

空知が他の作品に書いているレビューも読んでみよう

ページの先頭へ