「ヴァイオレット・エヴァーガーデン(TVアニメ動画)」

総合得点
94.0
感想・評価
2528
棚に入れた
10274
ランキング
6
★★★★★ 4.2 (2528)
物語
4.1
作画
4.5
声優
4.1
音楽
4.1
キャラ
4.1

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ネタバレ

ブリキ男 さんの感想・評価

★★★★★ 4.8
物語 : 4.5 作画 : 5.0 声優 : 5.0 音楽 : 4.5 キャラ : 5.0 状態:観終わった

僕達の罪はどうしたら癒されるのだろう

始めに、皆さんのレビューの中に設定についての不満をちょくちょく目にしましたので、レビューに入る前に、SFとファンタジーの定義について少しだけ触れておきたいと思います。(周知な方には不要ですのでたたみます。)
{netabare}
ファンタジー:物理法則を含めルールは作者が自由に作っても良い。ただし作ったルールは守る。

SF:現代のわたし達が認知している物理法則がルール。追加ルールはそれと地続きなものに限る。

ほぼ※1ル・グゥイン女史の受け売りなんですが、上の条件に照らし合わせてみると、スチームパンクというジャンルは、クラシックな世界観とオーバーテクノロジーの掛け合わせなので、間違いなく前者に含まれる事が分かります。

前々期に放送していた同ジャンルの「プリンセス・プリンシパル」でもケイバーライトなるメタなテクノロジーが登場しましたが、わたしの視点からすると、ヴァイオレットちゃんの義手についてもあれと同様で、設定云々を掘り下げる事が意味を成さない科学風味のファンタジーと解釈するのが最も適当なのではないでしょうか。

掘り下げて言えば、義手はいくつかの暗喩を含む舞台装置で、その意味する所は恐らく罪と喪失感。

リアル寄りに考えると、一次大戦以降、負傷した兵士達が失った四肢の代りに使う様になった義肢、特にペンチやフックの形をした能動義手に相当するものとも捉えられますが、どちらかと言うと本質は「オズの魔法使い」の案山子やブリキ男の藁や金属の体に近いものだと思います。

そんななので―加えて1話で既に"※2アダマン銀で出来た腕"というフレーズも出てましたし―わたしは最初からこの作品をファンタジー作品として分類する事に何の抵抗も感じませんでした。

絵に目を奪われてリアリティを求めたくなる人の気持ちも分かりますが、「攻殻機動隊」と「オズの魔法使い」の線引きは必要と感じましたので以上綴らせて頂いた次第。

前置き終わり。

※1:「ゲド戦記」の作者で有名な人。多読家。引用は(ほんの一部の)概要ですが、詳しくは「夜の言葉―ファンタジー・SF論」を参照の事。読書案内としても優秀な書です。

※2:ケルト神話に登場する神、銀の腕のヌァザを思い出しましたので、そのイメージも加わって。
{/netabare}
それでは本編について。先ず目を惹くのが何と言っても作画の美しさ。一見すると人形の様に無表情な主人公のヴァイオレットちゃんですが、その目を通して伝わってくる感情表現の精細さには毎回驚かされました。衣装、小道具、建築、背景に至るまでほぼ隙の無い描写だったと思います。

テーマはわたしが思うに、反戦やお涙頂戴などではなく、心の再生。上の注釈で挙げさせて頂いた「プリンセス・プリンシパル」の様に、世界観や設定は寓話の域を出ず、あくまでも人の心の推移を描く事に主眼を置いたアニメだと思います。義手の技術やヴァイオレットちゃんの戦闘能力の謎、政治や戦争描写の荒さについてもそうですが、童話やおとぎ話と同じ様に、描く必要の無いものは描かないスタイルに徹している様に見えました。

ただ、気になる点はやっぱりあって、いくつか挙げてみると、先ずドールが全員女性である事。男性に代筆を頼みたいという人も当然いるのではないかと思いました。他に気になったのは文化的な統一感の無いドールの服飾のデザインくらい。カトレアさんのセクシールックは特に目に痛かったです。 {netabare}最終話の胸アップも何だかなぁと…。男なんで見るとつい笑って平和だな~とか思ってしまうんですけどね(笑){/netabare}

あらすじは、戦場で人を殺め、そして同じ様にして大切な人を失った少女ヴァイオレットが、手紙の代筆をしながら人の心に触れ、自分の心と向き合いながら、閉ざされてしまった人間性を取り戻していくというもの。

過度なストレスに晒されると、顔から明るい表情が消え、心が麻痺した様な状態になる事は、ブリキ男を名乗るわたしだけに心当たりのあるところ。中学時代にいじめに遭っていた時、近しい間柄の人と死別した時、過去の罪に苛まれた時、わたしもそんな顔してたなぁと(汗)虚無と倦怠、空白を埋める様に時折襲ってくる不明瞭な悲しみや怒り、後悔の念、作中では火傷、あるいは業火とも表現されていましたが、登場人物達の打ちひしがれた表情、取り分けヴァイオレットちゃんの苦悩する姿は痛々しくも鮮烈でした。

人は無知ゆえに過ちを犯しますが、すぐにそれを罪とは気付かず、雑草や土くれを踏む様にして、何食わぬ顔でその上を通り過ぎて行く事の出来る、むしろそれを宿命としているとさえ言える残酷な生き物です。

人との繋がりや知識の積み重ねを通して視野を広げ、自らの積んできた業と対峙した時、身を裂かれる思いをしたという経験は、特に大人の方ならば覚えのあるところではないでしょうか。

罪との向き合い方、折り合いの付け方は、人それぞれですが、わたしの知っているものを二つだけ挙げさせてもらうと、一つは時と気晴らしに身を任せ、忘れる努力をする事。もう一つは内省を重ねる事。わたしは大抵両者を併用してますが(汗)最終的には必ず後者を選ぶ様にしています。罪を分析して身に刻めば、それは教訓となり、同じ轍を踏む"確率"を減らせるので…。

ヴァイオレットちゃんの「もう誰も殺したくありません」という言葉は、決意であって、約束の言葉ではありません。彼女はこの先も、恐らく大人になっても、繰り返し繰り返し過ちを犯す事でしょう。それでもなお生きて、学びつつ、迷走し、手探りで人の心を綴り続ける彼女を、どうして疎ましく思う事が出来ましょうか。素直過ぎて、恐れを知らぬ、この機械の腕を持った少女にわたしはすっかり魅了されてしまいました。


キャラについて。ゲストキャラを含めてほぼ全てのキャラに愛着を感じましたが、中でも、たくさんの痩せ我慢と嘘を重ねながら、ヴァイオレットちゃんに助けの手を差し伸べ、温かい目で見守り続けたホッジンズさんが素敵でした。大人の鏡と評してもお釣りが返って来そうなナイスガイだったと思います(笑)

音楽について。OP、劇中音楽共に最高なのですが、やはりエンディングの「みちしるべ」が浮いてしまっていました。曲も歌詞も良いのですが、茅原実里さんのキャラが強過ぎるので、物語の余韻を消してしまっている印象がありました。本編と切り離されて以降はそれ程気にならなくなりましたが、私的には初回(2話目)から結城アイラさんの歌う「Violet Snow」(CMで流れている曲)で良かったのではないかと思います。残念。


総評として、アニメ作品の多くが主人公を加害者ではなく被害者として、罪人ではなく潔白な人間として描いている中で、本作は、無知は罪となりうるという事、人の業は消せないという事、そして傷心から再生までの道のりを、一人の少女の成長を通して寓話的に描いた、傑作と評しても良いアニメだったと思います。美しい作画からなる登場人物たちの表情、繊細で豊かな心の表現にも突出した魅力がありました。

罪は決して贖えないけれど、癒される必要はあるはず。本編を全て見終えた後、ある物語の中で聞いた、心の安寧を求める罪人の言葉がふと思い出されました。

投稿 : 2018/04/09
閲覧 : 692
サンキュー:

62

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