「名探偵コナン から紅の恋歌(ラブレター)(アニメ映画)」

総合得点
73.5
感想・評価
157
棚に入れた
1107
ランキング
1009
★★★★☆ 3.9 (157)
物語
3.8
作画
3.9
声優
3.8
音楽
3.9
キャラ
3.9

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ネタバレ

キャポックちゃん さんの感想・評価

★★★☆☆ 2.4
物語 : 1.0 作画 : 2.5 声優 : 3.0 音楽 : 3.5 キャラ : 2.0 状態:観終わった

低迷する日本アニメを象徴

【総合評価☆☆】
 質的に低迷する日本アニメの現状を象徴する作品である。欠点を列挙しよう。
 (1) 流行り物をストーリーに取り入れた。しかし、扱いが皮相的で、単なる話題作りにしか思えない。
 本作でフィーチャーされたのが、映画『ちはやふる』のヒットで知名度の上がった競技かるた。脚本家は、序歌などについて多少は勉強したようだが、競技かるたが高度に洗練された知的スポーツであることを理解していない。鋭い聴覚、機敏な動き、詠まれた歌を覚える記憶力、機先を制するための知略など、さまざまな能力を複合的に鍛錬して、初めて一流のプレーヤーになれるのであり、素人が大会に出場していきなり優勝できるような甘いものではない。本アニメでは、レギュラーの一人が、「実は競技かるた部にも所属していた」という(明らかに後付けの)設定をでっちあげて活躍させるが、あまりに白々しい。
 (2) 過激なアクションが連続する。しかし、見た目に派手なだけで、エモーショナルでない。
 序盤のテレビ局を手始めに、建物が炎上・崩壊する中でコナンらが必死に脱出を図るシーンが頻出する。しかし、どう見ても命を落とす状況なのに、コナンや蘭が死ぬはずもなく、トリッキーな仕掛けを駆使してあっさりと脱出に成功する。危険度を高めれば、観客がハラハラドキドキするだろうという、安直な発想に基づいた不出来なシーンである。サスペンスを盛り上げるには、見る者の共感を呼び起こさなければならないのだが、「情報不足のせいで登場人物が行き違う」といった演出上の工夫が足りない。
 (3) ミステリで味付けをした。しかし、謎解きが論理的でなく、爽快感に欠ける。
 百人一首の札が犯行予告に添付されるなど、ミステリアスな要素をあれこれ盛り込むものの、解決編で明かされる真相には、論理性も必然性もなく、「なるほど、そうだったのか」と腑に落ちることがない。犯行に爆弾が用いられる理由も不明で、派手な爆発シーンを描きたいからとしか思えない。ラスト近く、一連の事件の大元となる出来事が明かされるが、20世紀初頭に著された古典的ミステリで何度も採用された展開で、ミステリ・ファンなら、クライマックスに入る前にオチが予想できるだろう。
 (4) 曰くありげなゲストキャラが登場し気を引く。しかし、内面描写が乏しいまま、あっさり退場させられる。
 アニメでの初登場となるのが、競技かるた高校生チャンピオンの紅葉。和服と京都弁の似合う美人で、登場した瞬間にははっとさせられる。だが、鍵となる平次との関係については、同じ台詞を繰り返すだけ。人間としての厚みが表出されず、最後はギャグで落とされるという情けない役回りである。もっとも、原作漫画では遅れて登場するレギュラーなので、劇場版であまり大立ち回りさせられないという事情があったのだが。

 このように欠点が多く、アニメとしては、劇場版の初期作品(こだま兼嗣が監督した第7作あたりまで)はもちろん、テレビ版の優秀作と比べても見劣りする。ただし、それだけならば、単に出来の悪いアニメとして無視すれば良いだけの話である。問題なのは、シリーズ中「中の下」ないし「下の上」の出来なのにもかかわらず、ダントツトップの興行収入を稼ぎ出した点である。
 ヒットした最大の理由は、アニメが面白かったからではなく、単に、金を出してアニメを見る人が増えたからだろう。
 映画の観客層のうち、ある世代から下は、アニメに対して「大人が見るのは恥ずかしい」とか「教育上よくない俗悪なもの」といった偏見を持たない。このため、年々、アニメの観客層が分厚くなる。アニメビジネスを画策するプロデューサーたちは、こうした客の歓心を買う仕掛けを込めた作品を量産し、儲けを増やそうとする。(1)~(4)の前半に記したのは、そうした仕掛けの典型である。
 ここ数年、作品の質に対するこだわりを持たず、客を喜ばせて金が稼げればいいと考えるプロデューサーが、アニメ業界を主導する。彼らの手になる作品が濫作気味に制作され、それなりの興行成績を上げているが、これを見て日本アニメが好調だと考えるのは早計だろう。優れたアニメを生み出しているのは、片渕須直、湯浅政明、細田守、新海誠、庵野秀明(アニメではないがアニメ的な『シン・ゴジラ』を制作)ら、アニメビジネスの枠からはみ出た俊才たちである(新房昭之のように枠内で活躍する人もいる)。『劇場版 名探偵コナン』を含む近年のビジネスライクな作品を見ると、日本アニメが質的に低迷しており、むしろ危機的と言ってよい状況にあると感じられる。

投稿 : 2018/04/28
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サンキュー:

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