「言の葉の庭(アニメ映画)」

総合得点
85.8
感想・評価
1993
棚に入れた
9498
ランキング
215
★★★★★ 4.1 (1993)
物語
3.9
作画
4.6
声優
4.0
音楽
4.0
キャラ
3.8

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101匹足利尊氏 さんの感想・評価

★★★★★ 4.5
物語 : 4.5 作画 : 5.0 声優 : 4.0 音楽 : 4.5 キャラ : 4.5 状態:観終わった

あくまでも人間が雨天に想いを寄せる……新海監督・美術の極み

多くの物語世界において登場人物はしばしば全能のアルケミストになります。
俺が悲しめば土砂降りになり、君が笑えば晴天が広がる……。
天気は心情描写の手助けをするセットの一つに過ぎません。

その点で新海監督作品は一線を画しています。
基本的に天気は自然現象。圧巻の背景作画で表現された、
時に触れたら切れそうなくらい美しい空模様は、
人の気持ちを汲み取らず刻々と変化し、淡々と季節を重ねて行く……。

圧倒的な自然の営みを前に、人の想いは消え入りそうなくらい繊細。
見方によっては極端な情景描写と心理描写のバランスが醸す切なさ。
それらに胸を締め付けられる感覚こそ新海作品の醍醐味だと私は思っています。


雨の新宿御苑などを舞台にした本作。
雨が空の匂いを運んでくれる。
何より雨の朝にはあの人に会える。
ついでに天の如く高くて手が届かない大人の世界をもたらしてくれるかも。
少年は雨に様々な意味を見出し、大勢に反して、
雨天に心躍らせる青い心をざわつかせます。

でも別に少年が色めき立っているから雨は降るのではありません。
雨は梅雨だから降っているのです。

涙雨、歓喜の雨、ロマンチックな雨……。
勿論、こうした解釈も可能です。
けれど、それは人が抱いた気持ちを、
確固たる自然現象が鏡のように映しているに過ぎない。

そんなままならない天気に想いを寄せて来た人々の営みを、
日本の古典からも発掘し、物語に補強しつつ描いた傑作中編映画。


それでも、終盤……
腰の重たい天気が、積み重なって極まった二人の気持ちに
少しだけ動かされた気がしました。
空が動いて、心も動く。グッと来るクライマックスです。

けれど、それもきっと気のせい。
その後は、また淡々と四季が巡って行くのです。


近年、大衆にも認知されて来た新海監督。
今後は描く天気も人の心情に素直に従う、
誰もが取っつきやすい空模様になっていくのかもしれません。

その一方で、私には、相変わらず空気読まずに降ったりする
雨に打たれたい。刺されたい。こんな欲求も捨て切れずにいます。

そんな捻れた願望を胸に、ふと灰色の空を見上げてみた。
篠突く雨が煙る、六月の朝……。

投稿 : 2018/06/15
閲覧 : 609
サンキュー:

58

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