じん さんの感想・評価

4.8
物語 : 4.5 作画 : 5.0 声優 : 5.0 音楽 : 5.0 キャラ : 4.5 状態：観終わった

子供の皮を被った大人の本気アニメ

アニメーションとして映像を、音を、最大限に高めようというスタッフの意気込みが感じられた作品だった。

このアニメは原作がWeb漫画であり、一般的な知名度は低い方である。それ故かコアなファンばかり集まった、知る人ぞ知る、といったような作品であった。私もアニメを見るまでは知らない人であった。そんな漫画がアニメ化された。言葉を借りるならスタッフは原作を読むことで深淵へと導かれたのだろう。気になる人はスタッフについて調べればさらなる深みへと到達した気になれるだろう。ここでは語りが長くなるだけなので省かせてもらう。

ストーリー。王道展開といわれるボーイミーツガールで物語が始まってゆく。(l)おや？と思う方もいるかもしれない。私の解釈の中であるが、この物語の主人公は他でもないレグなのだ。冒険の主軸は最初に登場し、その後も冒険を進める意思を絶やさないリコだと思う人もいるだろうが、タイトルが""Made"in Abyss"であること、内心はレグしか語られていないこと、アビスの知識の色々がレグとほぼ同じタイミングでしか視聴者に与えられないこと等から考えられる。レグの目の前に立ちはだかる景色、音楽が視聴者にそのままぶつけられると言っても良い。ストーリーは細かい設定と謎を少しずつ与えながら進んでゆく。決して唐突なものはない。予想された展開は極めて現実的なものでしかない。時に視聴者が目を背けたくなる描写もたくさんある。このアニメは他と違って甲斐性が非常に少ない。運が良い場合はあれど簡単に成せるような描写は描かれている所を持って1つもない。それを成し遂げるのが大人などよりも遥かに難しい子供である場合、どうなってしまうのだろう。そんな不安を各話に配置しているためか、次の話は、という風に一気に見てしまえるのだ。
大きく分けると1～3,4～5,6～8,9～10,11～13という所だろう。13を単体として分けるかどうか悩んだものである。全話続けての視聴が難しいなら参考に。

次に作画だ。背景も人物もモンスターも良く描かれている。この作品の目玉というべき背景はエフェクトによる誤魔化しなど一切なく、そこにある自然として描ききっている。また描き込み量が多く自然の奥行きには目を見張るものがあった。人物において注目できるのは目である。感情によって彼彼女らの目は大きく変化する。一部の例外である白笛たちは置いておくが、彼らの目が何を探し求め思うのか、楽しむことも可能だ。また顔の震え方がリアルなのだ。アニメーションとして人物を描くポイントが分かっているな、私はそう感じた。表情の作画としてAKIRAやエヴァンゲリオンを彷彿とさせるものがある。キャラクターデザインは全く異なるが。モンスターも単なる怪物、としてではない。そこにある生き物として描かれている。これは最終話EDによく表れている。

声優の選び方も優れている。声優はキャラクターの個性を充分に出しつつも、当事者であるような声を提供してくれた。叫びに笑いなど、顔の動きに声がついてゆく。声の音階が音楽に合わせているのか、BGMに合っているのが妙である。そのため、シーンの台詞が音楽と合わせてよく分かる。

音楽はファンタジーに合うような壮大さはもちろん、繊細さも孕んだ曲調だと感じる。不気味さ、でも抗えない好奇心というのがこの冒険のテーマであるだろう。おすすめのトラックは「To the abyss!」「Underground river」である。景色にここまで合わせてくれるのかと、私を1話で大穴に引き込んだ曲たちだ。音楽の都ウィーンで収録したという。

各要素から語ってきたわけだが、この作品の魅力はそれだけでは尽くせない。他にも至るところに仕掛けが隠されている。エンタメでありながら視聴者の遊びも置いてあるアニメはまさに芸術の真髄をなすmasterpieceたりえる作品だ。冒険ものでありながら、慣れた大人をもワクワクさせてやまない作品である。冒険には数々の試練が待ち受けており、それは仕事のような決まった時間に決まった場所で決まったことをする経験では得られない。一挙一動一投足が冒険であり気を抜くことなど出来ない。我々はそれを安全なところから見て大切なものを教わる、いや、教わってしまうのだ。

アビスが持つ得体の知れない魅力とそこに挑む各々の感情を描ききった名作である。この1期だけでも、あなたの目で見て、感じて欲しい。そこに損はない。