「ゴブリンスレイヤー(TVアニメ動画)」

総合得点
85.6
感想・評価
1034
棚に入れた
4969
ランキング
229
★★★★☆ 3.7 (1034)
物語
3.7
作画
3.7
声優
3.7
音楽
3.5
キャラ
3.7

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ネタバレ

蒼い星 さんの感想・評価

★★★★☆ 3.7
物語 : 3.5 作画 : 3.5 声優 : 4.0 音楽 : 3.5 キャラ : 4.0 状態:観終わった

ゴブリンについて考える。

アニメーション制作:WHITE FOX
2018年10月 - 12月に放映された全12話のTVアニメ。

「やる夫板EX」の投稿されていたAA作品。
→投稿者自ら一般小説の形に手直しして応募。
→GA文庫から刊行されているライトノベル化したものが原作。原作者は蝸牛くも。
スクウェア・エニックスから外伝二本を含む三種類のコミカライズ作品を連載中。
監督は尾崎隆晴。

【感想】

原作小説は未読で漫画版だけ大体読んでいる状態。
同時期にアニメがスタートした『転生したらスライムだった件』のゴブリンは、
大人しく物わかりが良く協調性があり邪悪さの欠片も感じさせない素朴感だったのとは正反対に、
こちらでは徹底的に邪悪で醜く卑しい生き物として描かれているのが印象深い。

『転生したらスライムだった件』ではモンスターにも性善説を採り、
“衣食住足りて礼節を知る”文明を教えれば種族として精神的に豊かになる。
それは先進国が後進国を啓蒙するという発想であり、近代史にも例がある。

『教え導けば、相手も“正しさ”を理解してくれるだろう。』

だが、現実では制度を改め差別を撤廃し学校を建てインフラを整備して物質的に豊かになっても、
他者から与えられた文化を享受するだけであれば、精神的な豊かさに直結するわけではない。
民族には歴史の中で刷り込まれ代々受け継がれてきた特性があり、
大体が、異なる価値観の存在を認めて違いを理解する想像力の欠如から教化に失敗するのである。

教育で知識が与えられ生活改善から豊かさを知っても、心が貧しければ与えられるのが当然の権利と錯覚し、
自分が他人より恵まれないと感じれば差別だと主張し、与える側と“同等”の権利を主張する。
これが物語中でも言及されている“妬み”と“羨み”である。

だが支援をいくら与えても、その場では感謝しても、度重なる“おかわり”を要求し、
状況が変われば、金の切れ目が縁の切れ目と被害者コスプレをして裏切ることもある。

『とんでもない!』『ひどい!』『あいつらおかしいよ!』

といくら唱えたところで、相手はこちらに忖度しない。
何故ならば美徳や常識は国や民族によってバラバラであり、相互理解の障壁は絶大であるからだ。
ルーツが違っていても同じ価値観で種族の壁を乗り越えられるというのは幻想なのである。

そこで、“関わらない”“交わらない”ことによって壁を作るということは、
排外主義的ナショナリズムとして批判されることも少なくないが、
逆に心の壁を取っ払って相手を信じて受け入れるという“美しい”行為は大変危険が伴う。
“平等”と“思いやり”という概念を共有せず果実のみを欲する民族に対しては、
相手に忖度しまくった“お人好し”は何をしても弱腰と判断される悪手であり、
『こいつ相手には何をやっても痛い目に遭わない』と勝手に序列を作られて、
“盗み”“奪う”ことを当然のようにやりたい放題されるのが現実。

何が根本的な間違いかというと、『みんな気持ちは同じだよ!』アニメにありがちな台詞ではあるが、
勝手に相手の気持ちを想像して友達になろうとすれば、思ってたのと違う結果になる危険性がある。

だからこそ、“信”で繋がるのではなくて制裁付きの共通のルールや条約を作ってお互いを縛る。
守らずに一方的に破棄することは当事者間の関係悪化だけで無く周囲の信頼の失墜を意味する。
だから、文明社会の先進国は法の恣意的解釈はあっても、ルールを破ることでの口実を与えない。
だが、精神的後進国は物が豊かになっても度々無法を働く。
ごねれば平気という観念で一時しのぎで乗り切れば遡及されないという自分ルールで生きている。
何故かというと周囲の評判という概念が欠落していて情緒や欲望を法に優先するからである。
大人が子供をあやすように説明しても『イヤだ!』の精神で駄々をこねられて対話が成立しない。
そんな相手から身を守るには、“お人好し”では通用せずに食い荒らされるだけなのが現実なのである。

そして、この作品のゴブリンも、文明社会から見れば例に漏れずに法の精神を持たない劣った種族である。
力で強者に支配されたり、逆に利用することはあっても、互いに尊厳を認め合う関係を他種族と持たない。
只人が鉱人や森人などと共生できている一方で、ゴブリンは欲望と快楽に身を任せた、
人とは理知的な関係の構築が不可能な醜悪な生物として扱われている。
アニメでは描かれていないが、ゴブリンの群れの中ですらイジメや差別が横行している。
欲望と劣情を刹那的に満たし快楽を得るのみで、歴史や文化を自覚して遠くを見ることが無いのが性質であり、
そういう犯罪者そのものの思考がゴブリン世界では常識であり人間的な価値観と相反する性質が根本にある。

この物語でのゴブリンの姿は、『敵同士でも話し合えばわかる』という綺麗ごとの否定や、
安全保障に対する配慮が不十分なグローバリズムは無防備な理想主義でしかないという現実を、
フィクションの世界に持ち込んだ隠喩と言えるだろう。

徹底したゴブリンの醜さと猟奇的な殺人や性的な犯罪行為に嫌悪感を抱く者がいても仕方がないかもしれない。
だが、ゴブリンへの敗北者の残酷な末路をしっかり描写することで、決して負けられないシビアさの演出。
淡々と作業的にゴブリンを殺処分する主人公の動機づけや徹底した手口に対する説得力の構築。
作品に特異性を持たせるには不可欠であったのだろう。

個人的な感想でいえば、汚い物を討伐するヒロイズムを扱った作品は昔から存在していて、
『狼の口 ~ヴォルフスムント~』といった作品も読んでる自分から見れば、楽しめる範疇にあった。


これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。

投稿 : 2019/01/09
閲覧 : 468
サンキュー:

70

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