「聲の形(アニメ映画)」

総合得点
88.7
感想・評価
1496
棚に入れた
7399
ランキング
101
★★★★★ 4.1 (1496)
物語
4.2
作画
4.3
声優
4.2
音楽
3.9
キャラ
4.1

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ネタバレ

をれ、 さんの感想・評価

★★★★☆ 3.8
物語 : 3.0 作画 : 4.0 声優 : 5.0 音楽 : 4.0 キャラ : 3.0 状態:観終わった

問題提起作品(但し問題には触れません。)

2018年末に某BS局で放送されたの機に、録画してあったことを思い出して視聴記念書込。

  まず提起されていると思われる諸問題の、所謂いじめ、障がい者との恋愛や友情、ダイバーシティ、障害ポルノや障がい者(非)聖人説など、について言及する意思がないことを明記することから始めます。理由は、それらに対して当事者経験の欠如から状況の想像力が不十分に感じられ、揺るぎない意見を持てないからです。従って、この物語の問題提起の仕方についての個人的な感想を、キャラのリアリティ、物語、学校という不完全システムの3つについてだけ述べることにします。
  
  まずキャラのリアリティ、そんな人が現実に存在しても不自然に感じないということです。主要登場人物は、主人公でいじめの加害者/被害者の石田将也、ヒロインで難聴でいじめの被害者西宮硝子、それからサブキャラのヒロインの妹だけど少年風の西宮結絃、自称主人公の親友の永束友宏、主人公に密かに好意を持つ植野直花、傍観者で状況の消極的同意者の川井みき、ヒロインの最初の理解者であるがいじめ被害者の佐原みよこ。
  まず主人公ですが、何故いじめていた人に会おうと思ったのでしょうか。ノートを返さないといけない理由はどこにあったのでしょうか。さらにもう使う状況がないであろう手話を何故習ったのでしょうか。これらは物語を進行上不可欠ですが、動機不明の主人公像を作り上げてしまいます。そして、それらに目を瞑ったとして、実現できたお話、例えば主人公とヒロインの和解と恋愛感情といったこの話の流れは、私には感動できるほど良いものでもありませんでした。
  ヒロインに関しては、イジメられても微笑んでいられるのは、経験的にそれが周りとのコミュニケーションでの彼女的最適解だったのでしょう。これで知性を疑うのは哀し過ぎると思いますが、終盤以外では受動的過ぎて、人形のように感情や思考がない存在にときどき思えることがありました。それは意図したことならばそれでもいいのかもしれませんが。なお全サブキャラに関しては不自然な言動や行動は特に無かったと思います。
  
  二つめは、物語についてですが、納得し難い点が2つあります。一つは、自死を主人公のみならずヒロインも企てることの意味です。特にヒロインの方は唐突で物語の都合上多くの視聴者の同意を得るために主人公がヒロインに対しての贖罪に値する状況を作りたかったのでしょうが、ヒロインを愚者にし過ぎていると思います。また、身代わりに大怪我をした主人公の治癒の成り行きは不自然です、完治するまであるいは完治後も少なくともしばらくは痛みが残る筈でしょうから、ずっと寝ていてただ目覚めただけでのような表現では不自然な感じがしました。
  次に、同窓会的友情ごっこをする必然がなく、何度も集まることに違和感を感じます。いじめられていた人に会ってその場にいたいでしょうか、少なくともトラウマのようになっている人がそこに居たら逃げ出したくなるのが普通だと思います。実際作中でアイスクリームを買う場面の描写でそのようなことがあったと思います。
  
  三つめは物語内のことだけではなく現実世界も恐らくそうなのだろうと思いますが、学校や教師には、いじめという現象を防止/解決するのではなくむしろ促進する機能があることです。何故将也がしたいじめを防止することはできなかったのでしょうか。それはいじめが発生していることを見逃したか、無視したとしか言いようがないと思います。いじめ問題が保護者からの糾弾で校長から見過ごせなくなった時に初めて対策が取られましたが、それは犯人探しと裁判のように罪を確定し、いじめ加害者から被害者になるという罰を押し付ける結果になり、いじめそのものは形を変えただけで残りました。事なかれ主義で、子供たちの心理の専門性のかけらも感じられない教師からは、また教師の専門性を管理する立場を全うできてるとは思えない校長からは問題が解決の可能性は見えてきません。これはこの作品のほとんどの登場人物に本質的な非があるように描れていないのとは対照的に学校側には憤りを感じるように描かれていると思います。この作品の暗示的メッセージは学校といういじめに対して不完全なシステムの糾弾にあるような気がします。でも、これは暗示的ではなく明示的にもっとわかりやすく提示すべき議題だと思ます。なお、近年のリアル学校には少数ながら非常駐のカウンセラーがいると聞いたことがあります。勉強以外のことを教師に期待するのではなく、コミュニケーションを学ぶ場やそのための十分な質と人数の専門家が学校に必要な時代に来ていると私は思います。

  最後にこの作品が取り扱った問題はもちろん真剣に議論されるべきですが、娯楽作品という枠組みの中で、多くの人の目にそういった問題が目に触れられるようにしたことはとても意義深いと思います。しかし、個人的な物語への不満があり、それは自死の話を、特にヒロインには結び付けて欲しくはなかったことです。繰り返しになりますが、ヒロインを愚弄し物語を安っぽくしているように感じ、それ故物語の評価をあまり高くはできません。
  それから、いわゆる作品クオリティについて付け足しておきますが、非常に高いレベルにあり、作画は安定していて美しく、音響も素晴らしいと思います。どの声優さんたちも自然で感情がよく伝わってくる演技で、特にヒロイン役の早見沙織さんの演技は、この難しい役を素晴らしく演じ切っていたと思います。

投稿 : 2019/02/24
閲覧 : 333
サンキュー:

15

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