「天使のたまご(OVA)」

総合得点
62.6
感想・評価
91
棚に入れた
421
ランキング
4693
★★★★☆ 3.4 (91)
物語
3.2
作画
3.9
声優
3.1
音楽
3.5
キャラ
3.2

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ネタバレ

takumi@ さんの感想・評価

★★★★☆ 3.7
物語 : 3.0 作画 : 4.0 声優 : 3.5 音楽 : 5.0 キャラ : 3.0 状態:観終わった

押井監督から投げかけられた挑戦状

押井守監督が天野喜孝氏をアートディレクターとして迎え、
旧約聖書の『創世記』に記述されている「ノアの方舟」を
監督独自の解釈によって創り出された物語をベースに、
まるで視聴者へ宿題を投げかけているような作品です。

天野嘉孝氏の絵の幻想的な雰囲気そのままの、大人のためのファンタジー。
こういった作品はかなり好みですが、観終えてからしばらく考え込みました。
あれこれ討論したり調べたりするのは楽しいけれど、
ここまで深く考えさせられた作品は久しぶりでした。、

登場人物は・・・

廃墟の町に独りで暮らす、大きなたまごを抱いた幼い少女と、
どこからともなく現れた、十字架のような武器を持った少年、の2人のみ。

セリフらしいセリフは開始後45分くらいしないと登場しません。
それでも、説明的なことは一切語られないまま進行していきます。
が、2人が出会って行動を共にしている時に登場するあれこれや会話で
ほんの少し、言わんとしている輪郭が見えてきました。
でも終始、深い意味がきっとあるであろうさまざまな映像が、
闇にも似た空間の中、やや宗教的な音楽とともに次々と続きます。

自分がこの映画を観て真っ先に感じたのは、今は亡きソビエトの映画監督 
アンドレイ・タルコフスキーの撮る映像と似通ってるなと。
極力少ないセリフと登場人物。
長回しを多用した上に動きの少ないカット。
そして最大の特徴である「水」や「雨」の、様々な視点から捉えた描写。

押井監督の言葉を借りれば、「単純な男と女の物語」とのことで、
「たまごの中に何が入っているのか」という点が見所だそうです。
でもきっと、答えはひとつではない気がします。

物語の中の少女は、たまごはちゃんと孵るのだと信じており、
愛しそうにたまごをみつめ抱きしめている様子からは、
なんとなく母性の芽生えを感じさせました。

もしかしたらこの物語は、命を産み出す胎内を持つ「女」が
命を創り出す源を持つ「男」と出会い、
彼は彼女のそれまでの幻想(化石のような卵)を破壊して現実を見せつけ、
彼女を真の母体として新たな卵を生ませる話。ということなんでしょうか。

しかしそこには、まったく「愛」を感じることができませんでした。
それまで孤独だった2人が出会っても、恋をするわけじゃなく、
恋どころか、ただの通りすがりでしかないほどの感情しか見えませんでした。
自分がこの作品を観て、一番腑に落ちない点はおそらくそれです。

それと、この物語・・・
後半で冒頭のシーンに繋がるということは、
少女と少年の出会いと別れのシーンは回想だったってことになりますよね。

そう思うと、なんとなくパズルのピースが埋まっていきそうな気がするのですが
でもきっと、解釈は観る人の数だけあるのでしょうね。

あらすじを書くほうがネタバレになりそうなので、
これは押井監督の夢想の中なんだと仮定し、
登場するあれこれをキーワードとして、
ユングの分析心理学とノアの方舟についての記述から、
この物語の全容を推察していくほうが、見えてくるものがあるかなと
以下のとおり分析してみました。

観ていない方には「何のこっちゃ?」な内容ですが、どうかお許しを。。

-----------------------------------------------

〔廃墟〕や〔化石〕は、いずれも死。 

〔鳥〕 自由 逃避 巣立ち
    その卵ということは、まだこれらが叶えられてないということ。

〔鳥の化石〕自由の喪失 魂の窒息

〔魚〕 富や名誉
    その魚が幻として影のように描かれており、
    人々が魚狩りを競っているということは、
    幻の富を追い求める人間の愚かさを表現しているのではないかと。

〔卵〕 生命のシンボル

〔水〕 飾りのないありのままの姿の象徴 生命力を培う源

〔雨〕 涙を流す象徴 鬱積した感情を洗い流すという表現。

〔天使〕純粋で慈悲深くありたい象徴 死に対する恐れや母親のシンボル
    少女はこの「天使」になりたかったのかもしれないです。

〔洪水〕感情の荒れ 憎悪や悪意などのマイナス感情の象徴
    ノアの方舟についての記述どおり。

〔湧き水〕自分の希望が叶うという象徴

〔泉の水を飲む〕自分自身を肯定する欲求の高まりの象徴

〔太陽〕活動のエネルギー 生命力 精力のシンボル



《A》創世記による記述
地上に増えた人々が悪行を行っていることに神は怒り、洪水で洗い流した後、
ただ一人神と共に歩んだ正しい人であったノアに、方舟を作るよう命じ
完成後の40日40夜 再び洪水を起こして地上に生きているものの
すべてを滅ぼしつくした。

《B》『ギルガメシュ叙事詩』における記述によれば、
大洪水のあとすべての人間は粘土に変わっていた。

《C》『シュメルの洪水神話』(粘土板)における記述
大洪水が聖地を洗い流すだろう。人類の種をたやすために。
やがて洪水の後、ウトゥ(太陽神)があらわれ、天と地を照らした。


作中に登場する機械仕掛けの太陽は、おそらく
《C》の太陽神を意味しているのではないかと。
空が真っ赤に染まっていたのも納得できる気がします。
そして少女がたまごを持ったまま他の人々と同じ金属色の像になっていたのは、
《B》にある「粘土に変わっていた」に通じるものを感じます。
ということは、少年の正体は方舟漂着後、
何百年も生き続けているノアなのか?とも考えられます。
彼が海辺に佇んで水平線をみつめながら、
かつての大洪水前に出会ったひとりの少女のことを思い出してる?

少女が崖から落ちて水の中に沈んでいきますが・・・
あの水中での時間はかなりの年月を経た転生を表現している気がします。
さらに、たまごの中身ですが、結果的には方舟そのものだったんじゃないかと。
方舟がたまごに入ってるんじゃなく、
方舟に乗せたすべての価値ある生命という意味で。

ノアの方舟が辿り着けなかったもうひとつの場所、ということで、
これはパラレルワールドかもな・・と
ラストシーンをみつめながら感じたのだけれど、
矛盾点もまだ多く、実際のところはわかりません。

長文にお付き合いいただいてありがとうございました。


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声の出演: 根津甚八、兵藤まこ
監督: 押井守
製作: 徳間康快
原案: 押井守、天野喜孝
脚本: 押井守
キャラクターデザイン: 天野喜孝
美術監督: 小林七郎
作画監督: 名倉靖博

投稿 : 2012/02/29
閲覧 : 939
サンキュー:

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