「School Days-スクールデイズ(TVアニメ動画)」

総合得点
80.9
感想・評価
3070
棚に入れた
14068
ランキング
422
★★★★☆ 3.4 (3070)
物語
3.5
作画
3.3
声優
3.4
音楽
3.4
キャラ
3.4

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ネタバレ

たばこ さんの感想・評価

★★★★★ 4.1
物語 : 4.5 作画 : 4.0 声優 : 3.5 音楽 : 4.5 キャラ : 4.0 状態:観終わった

良作。スクールデイズの考察。(詳細ネタバレアリ)

ラストのトンデモ展開ばかりが注目されて、単なる「エログロ系アニメ」と認識されがちなこのスクールデイズであるが、個人的にはこれ、そんじょそこらのアニメとは比べ物にならないくらい良くできたアニメだと思う。

考察に入るまえに、大まかなあらすじ。

「主人公である、誠は高校入学をきっかけに、偉大なヤリチン男へと変貌を遂げる。しかも、優柔不断で押しに弱い、偉大なヤリチンである。したがって、とにかく女が寄ってくる。それを断らない。ひたすら、女とやりまくる。結果、それが災いして、刺殺されて、最後は首だけになる。」

これが、あらすじである。笑

確かに一見すると「トンデモ展開」のラストシーンなのであるが、見終わった多くの人は「トンデモ」とは感じなかったはずである。

「なにこれ?全然意味分からん」
とはなっていないはずである。
どちらかというと、
「いや、まあ、わかるけど、これはやりすぎじゃない?」
といった感じじゃなかろうか。

このアニメの評価ポイントはまさしくこれ。

●トンデモ展開のラストをトンデモ展開じゃなくするために必要十分な「理由付け」がなされていること。

しかもその理由づけが、

●視聴者(つまり、あなた)にも当てはまること

この2点につきる。
これが上手くできているからこそ、「まったく意味が分からん」ということにならない。特にこの2点目こそが重要で、

もっと言うと、実は

あなたは誠に成りうるのであるw
あなたは世界に成りうるのであるw
あなたは言葉に成りうるのであるw
あなたは乙女に成りうるのであるw
あなたは刹那に成りうるのであるw
あなたはひかりに成りうるのであるw

何を言ってるんだこいつ?と思ったかもしれないが、ちゃんと理由がある。

ここで、各メインキャラがどんな人物だったのかを改めて振り返ってみる。

●誠
確かにこいつ、単なるヤリチンのクズに見える。同情の余地もないどころか、理解さえできないかもしれない。しかし、よくよく考えてみると、彼の欠点は程度の差こそあれ誰にでもあてはまる。彼に象徴される「人間の欠陥」のひとつは、「現実逃避」である。とにかく面倒くさいことからは逃げたい。本当は解決しないといけないことがあるのに、目の前におっぱいがあったらそれにしゃぶりついてしまう。まあ、おっぱいにしゃぶりつくかどうかは意見が分かれるにしても、誰しもやらないといけないことをほったらかして、目の前の安直な快楽に逃げるということは経験としてあるはずだ。誠の場合はそれがおっぱいだったに過ぎない。例えば、テスト前日に徹夜で勉強しようと意気込むものの、ふと気づいたら本棚から取り出した漫画を全巻読破して、夜が明けていたとか。授業とか会社をサボって、パチンコ行っちゃったとか。仕事もバイトもせずに、家で一日中アニメ見て、「アニコレ」なんかのサイトにレビュー投稿しちゃってる、とか。(私のことではないですよ。笑)
ま、とにかく、こう考えてみると、単純にこの誠を「悪者」として断罪できない。あなたが神様や仏様じゃないのであれば、この誠と同じなんである。だから、あなたも一歩間違えればこの誠のようなチンカスに成りえるのである。

次、
●世界
彼女は誠に比べると比較的視聴者からの理解が得られやすいキャラだったのではないだろうか。まあ、最終的には誠を刺殺する殺人鬼と化すわけだが、そこに至るまでには、誠に浮気され、(想像だが)妊娠の告白をしてまでつなぎとめようとしても、結局は誠に裏切られてしまう。思い誤って刺殺、というわけだ。しかし、彼女の本当の闇はこれではない。彼女に象徴される人間一般に共通する欠陥は、「背徳」である。平たく言うと、「他人の不幸で飯が旨い」とか、「他人を蹴落としてでもいいから自分が得をしたい」とか、そういった薄暗い人間の根源的な闇である。彼女の場合、誠をゲットするため、言葉を誠に紹介する体を装って、その実ちゃっかり自分が誠と「お近づき」になっていたり、さらには、親友である刹那の誠への恋心を利用して、誠の情報集めを口実に席順を変えてもらったり、とにかく、打算的な行動を取る。もっというと、(想像)妊娠の告白も、高校生に過ぎない誠が妊娠したと知ったら苦悩するであろうことを知りつつも、誠をつなぎとめるため、自己保身のため、彼を陥れているわけである。誠を刺殺した理由も、「誠だけが(私を残して)幸せになるなんて許せない」と、実に自己本位な理由で殺害を実行してしまう。そして、もっともタチが悪いのは、本人はそれを「無意識下」におしやって、自分自身も騙している。気づかないフリをしている、ということである。
この背徳は、やはり、誰しも思い当たるところである。
どんなに聖人ぶってる人間でも、自分が心底嫌っている人間が不幸になったら心のどこかで「スカッ」としてしまうものだ。心当たりがまったくないという人がいれば、あなたは今すぐキリスト教の洗礼を受けて入信するといい。立派なキリスト候補間違いなしである。しかし、普通の人はそうじゃない。普通は、自己保身に走るあまり、「本当は良くない」と思っていることでもやってしまった経験があるはずである。さすがに具体例をここに書くと私がそれをやったと勘違いされそうなので控えるが、いずれにせよ何らかの心当たりがあるはずである。しかも、それに上手い言い訳をつけて自分の罪悪感を隠してしまっていることも多々あるはずだ。だから、あなたも一歩間違えればこの世界のような異常な殺人鬼に成りえるのである。(もちろん、私にも当てはまるが。)

次、
●言葉
この子は一見すると、100%ピュアな被害者っぽい印象である。何も悪くなさそうだ。実際、彼氏の度重なる浮気に加え、クラス内での陰湿ないじめ、さらには彼氏の友達からの実質的なレイプを経験している。可哀想っちゃ可哀想である。が、しかし、実はまさにこの「100%ピュアな被害者っぽい印象」こそが彼女の最大の欠陥に他ならない。なんでこんな印象かというと、彼女に象徴される欠陥が「閉塞」だからである。とにかく、自分の世界に閉じこもるのが彼女である。エヴァンゲリオンのシンジに近いキャラである。見終わった人なら分かると思うが、彼女、ATフィールド全開なのである。例えば、誠が浮気しているときも、その気になれば、自分から誠に直接「浮気しているのか?」と問い正すことだってできたのである。しかし、彼女はそれができない。誰に何を言われても「誠君の彼女は私なんです」の一点張り。発狂後なんかは、「この番号には現在おつなぎできません」のアナウンスに対してひたすら妄想をしゃべり続ける始末。最終話で、誠からの再告白を受けて若干理性を取り戻すも、結局誠が殺害された後は元の木阿弥で、世界を刺殺し、誠の死体から首を切り落としてその「首」と一緒に船上クルーズを楽しむ閉塞っぷりである(ラストは「やっと二人きりになれたね」でエンド。)。誠や世界のように「積極的に」誰かに害を与える存在ではないが、どうやったって人と関わらざるを得ない現代社会においてこの極端な消極性は、間接的には人に害を与える存在となりうるわけである。そして、これも実は誰にでもあてはまりそうである。とりわけ、最近急増しているニートがその典型例だ。家にひきこもって一日中パソコンをいじっているわけである。別にニートじゃなくて、働いている社会人でも、心当たりがあろう。会社付き合いの飲み会は嫌気がさすだろうし、会社では表面だけ取り繕っても、家だと家族に当り散らしたり、自分の趣味の世界にひたすら没頭したりなど。もちろん、好きなプラモデル作りにひたすら没頭する人がいたとして、それを悪いと言うつもりはないが、その没頭の極端な例がこの言葉なのである。だから、あなたも一歩間違えればこの言葉のような精神異常者に成りえるのである。(もちろん、私にも当てはまるが。)

最後に、
●その他の女キャラ(ひかり、乙女、刹那)
彼女らは、なんとか一歩間違えずに済んだ運のいい女たちである。たまたま、誠や言葉や世界にならずにすんだ、いわば、誠・言葉・世界予備軍なのである。もっと言うと、この世界に住む大多数のあなたたちである。あなたたちの中から、一歩間違える人がでてきて、それらが誠・言葉・世界になるのである。(事実、世の中は殺人者とか精神異常者が多数存在する)。
このアニメ、誠・言葉・世界の3人だけでも物語の進行上何の問題もないのだが、これら「その他の女キャラ」が存在することで、よりリアルに「紙一重感」が演出されている。つまり、誠・言葉・世界の「やばい奴ら」と、ぎりぎり踏みとどまった「やばい奴ら予備軍」との対比である。この「その他の女キャラ」達も、実に醜い裏切り行為に走るw誠のように、現実逃避するし(乙女がそれ)、背徳的だし(ひかり)、閉塞的である(刹那)。彼女らは、間違いなく誠・言葉・世界の3人に運よく成らなかっただけである。たまたま、である。


以上、長々と書き連ねてきたが、結局、このアニメが言いたい(と私が考えている)ことは次のことである。


あなたは誠に成りうるのであるw
あなたは世界に成りうるのであるw
あなたは言葉に成りうるのであるw
あなたは乙女に成りうるのであるw
あなたは刹那に成りうるのであるw
あなたはひかりに成りうるのであるw

そして、私も、である。

このアニメの評価すべきは、ここらへんのアニメ世界にとどまらないやばさを、リアルに表現しているところにある。

まさに、他人事、じゃないのだ。


●おまけ考察「なぜ、学園が舞台、なのか」
こういうグロイ愛憎劇ってのを学園を舞台に展開したアニメはほとんど例が無いのではないだろうか(少なくとも私は知らない)。ピュアな学生が壊れていくというグロさを際立たせるための演出を狙ったものかもしれないが、もっと言うと、これ、大の大人(例えば40-50代のサラリーマン)が主人公だった場合、なんとなくインパクトに欠ける気がする。というのも、大人の不倫は珍しいことではないし、色恋沙汰で殺人を犯すってのもすでに有り触れている。(現実世界でもそうだし、推理小説などの舞台設定でも同じ)。だから、高校生を主人公にして、その本来的な異常性を際立たせようとしたんじゃなかろうか。そう遠くない場所で日常的に繰り返される不倫や、殺人。我々はそれに変な意味で慣れてしまっているのであろう。一方で、それは我々とは関係ないどこか遠くの世界で起きているものだとタカをくくっている。自分だけは大丈夫。自分が人を殺したり・殺されたりするわけがない。しかし、そうではない。我々も紙一重なんである。それを気づかせるためには、高校生に殺人を犯させる必要があったのだ。

投稿 : 2012/03/04
閲覧 : 7310
サンキュー:

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