「さらざんまい(TVアニメ動画)」

総合得点
72.5
感想・評価
312
棚に入れた
1233
ランキング
1108
★★★★☆ 3.5 (312)
物語
3.3
作画
3.7
声優
3.5
音楽
3.6
キャラ
3.4

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ネタバレ

タケ坊 さんの感想・評価

★★★★★ 4.6
物語 : 4.5 作画 : 5.0 声優 : 4.5 音楽 : 4.5 キャラ : 4.5 状態:観終わった

愛の鬼才が現代人の「繋がり」を問う

☆物語&感想☆

2015年に放送された「ユリ熊嵐」から4年余り…
思えばイクニ作品との出会いは「ユリ熊嵐」が初めてのことだったわけですが、
あの時受けたインパクトは本当に大きく衝撃的だった。
あれから色々作品を観てはいますが、純粋に感動できる素晴らしい作品は数あれど、
あの時受けたインパクト以上の作品とは出会えていない。
やはりイクニが作る作品はワン・アンド・オンリー、彼にしか作れないのだと、
本作を観た後でも思った次第。

さて、本作1話目を観て思ったのは…なんやねんこれ?と。
これはもちろん彼の作品に於いては良い意味で想定内。
1話観て大体の物語の道筋や、目的、方向性が分かるものが多いなか、
イクニ作品に於いては意味不明、予測不可能なのが特徴でもある。
(最後には感動的な結末がある事はファンなら知っている)

これは自分が思うに、ある意味イクニが視聴者を振るい落としに掛けているのだと思う。
1話から尻の中に突入する画はシュール過ぎ、正直観るものを当惑させるに充分なものだったし、
どうやら出てくるキャラが殆ど男ばっかりでBL的な要素があると察知した視聴者を、
早急に撤退させるに充分な要素が揃っている。
前作で言うなら「百合」でアレルギー反応を起こさせ観るものを振るいに掛けた訳だが、
このような、1話観て訳が分からなくて、BLとか百合要素くらいで切るくらいの視聴者には、
どうせ観ても作品の本質やメタファーの意味合いなどは理解できないだろうから、
観なくて結構と言うことなのだろうと思う。

彼の作品の特徴として、明確なテーマを掲げ幾つかのキーワードを繰り返し使用する点がある。
本作においてはテーマが「つながり」キーワードは「欲望」「愛」など、
これらの言葉が本作中何回も何回も繰り返された。
難解なイメージのあるイクニ作品だが、本作のキーワードであり彼の考える「欲望」は、
自己中心的なエゴイスティックなもの、
に対して「愛」が見返りを求めない無償のもの、と先に捉えておくと、
彼の作品のもう一つの特徴でもあるメタファーの意味が解らなくても、
(例えば頻繁に登場した㋐の意味なんかが解らなくても)
物語の内容自体は過去作品と比べれば比較的理解しやすかったのではないかと思う。

キャラクターが発する言葉の真意や、映像のメタファーの分析をしなければ、
彼の本当の考えや思いは窺い知ることが出来ないと思うけど、
{netabare}10話のサラとハルカの会話の中で、
「この世界は再び試されようとしている、繋がっているのか繋がっていないのか」
11話の「喪失の痛みを抱えてもなお、欲望を繋ぐものだけが未来を手にできる」
「大切な人がいるから悲しくなったり嬉しくなったりするんだね。そうやって僕らはつながってるんだね。」{/netabare}
という台詞は物語の前後の繋がりから考えると、
珍しくストレートに彼のメッセージが現れた部分として受け取れるのではないかと思う。
そこから考えるものは各自人それぞれだろうと思うけど、
何かしら観た人それぞれが実際の「つながり」を考えさせられるような、
本作に於けるイクニのメッセージは随所に見られたのではないだろうか。
恐らく本作では過去作よりもイクニは意図的に視聴者にメッセージを解りやすく伝えたかったのだろうと思う。

そうは言っても、やはり相変わらずメタファーを読み解くのは難しい。
解らなくてもいいけど解ると更に面白い。
個人的には何となくこういうことなんかな?何となく意味ありそう、位な軽い感じで、
ネットで分析されている記事なんかを見てなるほど、
とか答え探しをしたりするのが楽しいし、
そういうライトな楽しみ方もありなんじゃないかと思ったりしている。
その上でもう一度作品を観返してみると、なるほどと納得できてまた面白い。

そんな中、本作を検索してると{netabare}ラスト3人死亡説{/netabare}
みたいな驚きの解釈、考察も出てるじゃないですか。
根拠を見ていくとなるほど、そういう考え方もあるなと興味深かったし、
こういう楽しみ方が出来るのもイクニ作品ならではだなと思う。

☆声優☆

前作と比べると人気実力共に安定した声優の豪華な顔ぶれでキャスティングもドンズバ。
レオ&マブに宮野、細谷さんという起用は腐女子も納得だろうし、
宮野の演技は特に素晴らしかった。
個人的にはハルカ役に釘宮さんを起用してくれたのが嬉しい。
そういや前作でも起用されており役柄も少々似ているのは気のせいだろうか。
恐らく何らかの意図があるに違いない、と思ったりもするけど、
単にイクニが自分同様釘宮押しなのかも知れない笑

豪華な顔ぶれのなか、驚いたのはサラ役で起用された帝子という人。
聞きなれない人やなと調べてみると、
監督がプライベートで知り合ったインディーズバンドのヴォーカルらしい。
つまり女優でも声優でもない言わばド素人の起用と言うことになるが、
こんなことを広告代理店やスポンサーに影響を受けやすい、
ノイタミナ枠でやってのけるイクニはやっぱり凄いと思う。
イクニ曰く「振れ幅が欲しかった」とのことだが、
特徴的で不思議な印象の声は作品内で非常に良い効果が出ていたと思う。

☆キャラ☆

1クールオリジナルの場合、キャラが多くなると当然存在感が薄くなる事が多いが、
この辺りもイクニはしっかりと解っているなと思う笑
各キャラクターの過去~現在に至るドラマ、想いが全て丁寧に表現されていたと思う。
BLに興味のない自分にもレオ&マブの思いには思わず涙

☆作画☆

純粋に人物の造形、背景の美しさや浅草の再現性はかなり高く、
劇場版作品でも充分通用するレベルだったと思う。
キャラクターと全く繋がりのない通行人などの所謂モブに関しては、
記号のような扱いで描写されていたのも印象的だった。
またイクニ独自の奇抜な演出に合わせたCGや実写映像の挿入、
アニメでは珍しくEDには実写映像にVFXを組み合わせるなど、
やはり作画面に於いても並の監督にはない、個性やセンスが際立っていると感じる。

☆音楽☆

前作はイクニがEDの歌詞を書いたり、作品の世界観への拘りも非常に感じられたので、
所謂アニソン歌手が歌わないノイタミナ作品において一抹の不安もあったのだが、
この点に関しては杞憂に終わった。
OPは繋がりをテーマに、この作品のために書かれた曲で開放感がある良曲だったし、
EDはレオ&マブの関係なんかを想起させる歌詞だったり、曲としてよく出来ていた。
AパートからのOP、BパートからのEDへの繋ぎがとても良かったのも好印象。
最終話はEDの後にOPを持ってくるのも良い演出だった。
その他劇中曲の「さらざんまいのうた」や「カワウソイヤァ」は繰り返されたことで中毒性があり、
サラ役の帝子が歌う自身の楽曲「放課後カッパー」もインパクトが有った。

劇伴は「輪るピングドラム」「ユリ熊嵐」同様に橋本由香利さんが担当。
この人の最近の仕事では「3月のライオン」が本当に素晴らしかったけど、
本作でも劇中曲含め良い仕事だった。
この人はどんな作品にでも合わせられる柔軟性やセンスを持っていますね。


繋がりたいけど、繋がりは脆く壊れやすい。
現代におけるSNSやネットでの繋がりなどは、最たるものだろうし、
本作を観てもそれはイクニの言いたいことの一つとして受け取れる。
「あにこれ」での繋がりも、自分は度々放置してしまうし、正直いつ終わってもおかしくない。
他人に読んでもらいたい、認めてもらいたい、共感してもらいたい、
そんな欲望をどれだけ持ち続けられるだろうか。
記事を書くという行為はその労力に比べれば見返りは殆ど無い、それは愛だと言えるかも知れない。
自分はどれだけアニメを愛しているのだろうかと。。
イクニのメッセージが胸に突き刺さる。

投稿 : 2019/08/04
閲覧 : 354
サンキュー:

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