「十二国記(TVアニメ動画)」

総合得点
88.1
感想・評価
1680
棚に入れた
9089
ランキング
130
★★★★☆ 4.0 (1680)
物語
4.3
作画
3.7
声優
3.9
音楽
3.9
キャラ
4.0

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ネタバレ

101匹足利尊氏 さんの感想・評価

★★★★★ 4.5
物語 : 5.0 作画 : 4.0 声優 : 4.0 音楽 : 5.0 キャラ : 4.5 状態:観終わった

半端で浅ましい人の心をも受け止める懐の深い大河ファンタジー

原作小説はEpisode8の「黄昏の岸 暁の天」まで購読。
ただ実質第一巻のミステリー小説「魔性の子」や、
短編集等は未読なので、読了率は七割程度でしょうか。

私が異世界転生ストーリーを物色する際は、
チート、ハーレムより、厳しさや世知辛さが目立つ異世界をつい選択してしまいますが、
その嗜好の礎を築いたのは『十二国記』の読書&視聴体験で間違いないと思います。


文明レベルはせいぜい中世中国の随唐レベルでしょうか。
流されて来た“蓬莱”(日本)の普通の“海客”に至っては言葉から通じない。
貧困や妖魔が蔓延る異世界で生き残るのは容易じゃありません。

萌えだのハーレムだの望むべくもなく、
強いて癒やしがあるとすれば、モフモフなネズミの半獣・楽俊(らくしゅん)くらいしかいない。
(楽俊には本当に癒やされます。本物の知性は人の心を救うのです)

流石に選ばれし主人公くらいは超人的な能力を獲得しますが、
それらは無双するための無償提供ではなく、重たい責務や使命と引き換え。


“天帝”が人に作り与えし、この異世界。
子が木に実り生まれ落ちる。
領土面積がほぼ均等に対称形に配された十二の国家。
と言う異様な概要が創造主の存在を確信させる世界観。

十二体の麒麟(きりん)とそれらに選ばれし十二人の王。
漢字の姓名に官職名。建物、衣装、風俗。
設定の骨格は古代中国風の伝説、君主観などでしょうか。
ただ本作は上辺だけ拝借するのではなく、君主の徳とか、器量とか、
心の風景が、国家の盛衰を左右し、国土の有様を決定付ける。
中華王朝の精神的支柱になった部分にまで向き合っていると唸らされます。

官として“昇仙”した人々には天から不老長寿が付与されますが、
彼らは永遠にも等しい時間を、
己の不徳が、国土の荒廃に直結する重圧を背負って生き続けねばなりません。
それでも官はまだ、嫌になれば辞めれば良いのですが、
王に至っては、麒麟と共に国家と一蓮托生しなければなりません。


人々の心情と国家の命運が一体化した本作では、
世界について考えていけば、必然、人の心を深く掘り下げることになります。
その描写は人間が目を背けたくなるような、
人の心の不完全で卑しい部分まで容赦なく炙り出します。
ですが、その痛みを伴う心理描写にこそ私は強く惹かれ感動するのです。

清くあれ。正しくあれ。人を信じよ。偽善をするな。
凡百の道徳はそう説諭しますが、人間はそう簡単に聖人君子にはなれません。

強い権力を与えられれば堕落したり腐敗したり、
責務に耐えかねれば諦観し政治や民を放棄したり。

不信が裏切りを生み、それがさらなる不信を招く。
所詮、人間なんて打算で動く生き物でしょう?
疑心暗鬼に陥ったその浅ましい心は、僅かに差し出された救いの手をも払いのける。

大体、全能であるはずの天は、何故かように中途半端な人間に世界を託したのか?
天は人を掟で縛って弄んでいるのではないか?絶対なる天が人を救えば良いじゃないか!
そんな恨み言も出るのが人間なのです。

本作はそれらを全部受け止めて尚、人間は如何に生きるべきかを問い続ける。
その懐の深さが、世界の広さ以上のスケール感を生み出しているのだと思います。


いくつかの原作エピソードのオムニバスで構成されたアニメ版。
中でも私のお気に入りは「風の万里 黎明の空」

{netabare}景国。己の未熟さ故、官吏の顔色ばかり窺って、自己嫌悪に苛まれる景王。

才国。蓬莱から流されて来て百年。“飛仙”からの苛めが続く中、
“海客”の自分だけが蔑まれていると言う不幸病をこじらせ、
同じ海客の王・景王だけが希望と捻くれる鈴。

芳国。行き過ぎた法治主義により苛烈な厳罰を民に強いる王である父の庇護の元、
不自由も何も知らず過ごしていた環境から、父王の打倒により転落し、
恨み辛みを募らせ、同じ年頃で景王となった少女を逆恨みする祥瓊(しょうけい)。{/netabare}

心に割り切れない感情を抱えた三者三様の女性の運命がやがて交錯し、
心と景国に光が差していく、大河ドラマ感が堪らない名エピソード。

特に長い心の不穏と国の暗雲が続いた末に晴れ間とフレンズの和が広がる、
第三十九話はゼロ年代前半のアニメシーンの中でも、私の心に残る神回です。


正直、本作の心理描写に刺され、抉られながら、全四十五話の長旅を完走するのは
しんどいと挫けそうになることもあると思います。

原作既読組だった当時の私も、最初の「月の影 影の海」上巻末尾に当たる、
ドン底シーンをもう一度喰らうのが嫌で、
放送当初は、原作とは違うキャラが出るから云々と言い訳して逃げ回っていたくらいですw
(アニオリの二人のメインキャラ男女は元々原作者に構想があった設定だったそうですが、
付け加えられた絡みはそれなりに不自然で評価は可も無く不可も無くw)

けれど長く苦しい旅路の果てに、きっと人生の糧になる感動が得られると思うので、
どうか三十九話までは、何とか辿り着いて欲しい。

来月、18年ぶりの続編長編小説(全四巻)刊行を前に改めてオススメしたい。
人のあり方について深く問われる傑作大河ファンタジーです。

投稿 : 2019/09/16
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サンキュー:

39

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