「虐殺器官(アニメ映画)」

総合得点
74.2
感想・評価
251
棚に入れた
1843
ランキング
910
★★★★☆ 3.8 (251)
物語
3.8
作画
4.0
声優
3.8
音楽
3.7
キャラ
3.6

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ネタバレ

ドリア戦記 さんの感想・評価

★★★★☆ 3.9
物語 : 3.0 作画 : 4.5 声優 : 4.0 音楽 : 4.5 キャラ : 3.5 状態:観終わった

言葉が狩るもの

原作からして人を選ぶ作品。SFが難しいとか内容が高度とかそういうのではない。
ちょっと癖のある作家なので読みにくい人がいるのでは。
アニメも原作の「分かり辛さ」を踏襲している。

内容を簡単にまとめると特殊部隊に所属する主人公が
言語に隠された「虐殺の文法」を駆使し
世界中でテロを起こすテロリストに遭遇する話。
自分の周りさえ平和であれば良いという人々の身勝手さと社会的無関心が
テロや戦争を他国に追いやっているという主張。


社会批判性を内包した小説やアニメは多くあるが
社会描写を積み重ねるより、登場人物による観念論の乱れ打ちなので
世界観の把握に人によっては苦労するかも。
例えばホーガンの『星を継ぐもの』のように
1つ1つの検証を積み重ねていくSFが好きな人なら
ちょっとこの作品は合わないだろう。

知り合いは「セカイ系」と評していたけど、
セカイ系が「僕とあなたの閉じられた世界」で収束するのに比べ
こちらは主人公の延々と続く内的思索であり
読んでいると言葉に翻弄されそうになる。
客観的事実の積み重ねではなく
良くも悪くも「ボクの思索がすなわち世界へと続く」という作風。
また「虐殺の文法」という飛び道具を出したにも関わらず
見切り発車で詰めが甘く、結局「虐殺の文法」とは何であったのか
多方面からツッコまれた経緯を持つ。
読んでいればなんとなくだが、おそらく言葉の持つ危険性について訴えたかったのだろう。
言葉を操るものが人を操り、如いては戦争に追いやるという歴史の事実
(実際は経済的側面が強いが)
を強調するためのガジェットとして「虐殺の文法」を設定したのだろうが
SFとしても論理的な詰めの甘さが目立つ。

雑と言えば雑なのだが、社会批判性を孕む場合
目前の客観的事実に捉われると視野狭窄
もしくは長期展望のない短期的な見方に陥りがちだが
内容やテーマは茫洋としながらも
今現在、アメリアや世界で起こっている「分断」を
結果的に10年以上前から予測していたことになり、ジャーナリスティックな側面を持つ。
皮肉を言えばどうとでも解釈できる主観的な点もジャーナリスティックと言える。

ただこの作品の主張である、人は自分と自分の周りさえ平和であれば
充足を感じる生き物であり、メディアで報道される他国の国民の不幸は所詮他人事、
国内でも集団に分かれ、
その集団に所属するもの同士の存続と充足がSNSを通して強化されつつある現在
作者の主張やテーマは無視できないものとなっている。
人は自分の見たいものしか見ないと言ったのはカエサルだが
情報もたとえ手を尽くして検証したとしても
己の見たいようにしか解釈しないのが人というところか。

投稿 : 2019/12/09
閲覧 : 229
サンキュー:

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