「天気の子(アニメ映画)」

総合得点
84.0
感想・評価
703
棚に入れた
3025
ランキング
297
★★★★☆ 3.9 (703)
物語
3.7
作画
4.5
声優
3.7
音楽
4.0
キャラ
3.7

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ネタバレ

USB_DAC さんの感想・評価

★★★★★ 4.5
物語 : 4.5 作画 : 5.0 声優 : 4.0 音楽 : 4.5 キャラ : 4.5 状態:観終わった

狂った社会で生き抜くすべ

物語:
犠牲の上に成り立つ社会を否定するかの如く、メッセージ性を高めた問
題作品です。天候を変える能力を持つ少女を人柱、即ち犠牲として捉え、
社会のレールに抗い大切なもの(人)を守ろうとする少年との深い関わ
りを描く。この世知辛く生き難い社会、そして今まさに起こっている異
常気象を笑って受け流そうとする大勢に対し、一石を投じる非常に興味
深い内容です。

作画:
やはり雨好き?な新海監督らしく、雨と眩し過ぎる陽差しの美しい対比
に目を奪われます。精巧な背景に見事に溶け込む人物たち。田中将賀さ
ん、滝口比呂志さんが織り成す世界はもはや芸術とも言えるレベル。そ
の美しさは前作「君の名は。」を遥かに超えていると言っても過言では
ないと思います。

声優:
帆高役の醍醐虎汰朗さんと陽菜役の森七菜さん。共に声優初挑戦となる
二人。その他キャストも有名俳優(錚々たる顔ぶれ)やモデルで占めら
れています。仕上がりに関しては、個人的にはそう違和感は感じません
でした。夏美役を演じた本田翼さんに関してもそう(色々騒がしい)。
賞賛は出来ませんが、充分及第点は与えられる出来だと思います。

音楽:
RADWIMPS野田洋次郎さん(Vo&G)の爽やかで素朴さ漂う歌声が作品
にとても良くマッチしています。数ある楽曲の中で特に印象に残る2曲
「愛にできることはまだあるかい」、「大丈夫」。 雨空に差す陽の光、
晴れ上がる空を連想させる爽やかな曲です。

キャラ:
皆さんご存じの通り今作品でも前作のキャラクターが多数登場していま
す。流石に瀧と三葉の登場は僕でも分かりましたが、他にも数人登場し
ているようですので、再び視聴を考えている方は、是非その辺に注目し
てご覧になると面白いかも知れません。登場した人物の中で特に印象的
だったのは須賀圭介(CV:小栗旬さん)です。彼が語る台詞ひとつひと
つに重みがあり、時に胸を刺すようなその言葉は、物語に於いても重要
な意味を齎しています。


[犠牲と責任]
{netabare}
有名な思考実験であるトロリー問題。大切な人を救う為に大勢の犠牲は
許されるのか。大切な人の犠牲で大勢を救うことの方が果たして正しい
のか。まさしく、これが今作品で問われていることです。

もしユーティリタリアニズムに基づくのであれば、大切な人を犠牲にし
てでも大勢を助けるべきです。しかし義務論に従うのなら、人の利用が
許される筈がある訳がない。即ち、一切何もするべきではないとも言え
るのです。だが帆高は罪を犯しながらも、大切な人を救う道を選んだ。

常に社会生活に付きまとう犠牲と責任。陽菜が得ることになった特異な
力も、母が亡くなった今はそれを使う必要性はもう無い。しかし頼る身
寄りは近くに居らず、その後の手段も伝えられていない様子。残された
弟との生活の為には、歳を偽ってでも必死に働く必要があった訳です。

その後、偶然出会った帆高にビジネスを持ち掛けられ、藁をも掴む思い
でその能力を再び使うことになります。ですが、その行為自体が対価の
犠牲となり、次第に彼女自身の存在を蝕んでいく。そして最後は巫女と
しての運命に抗えず、空に導かれるが如く彼の前から突如として姿を消
す。その結果、東京の水没を防ぎ、社会及び意識もしない大勢の人達の
生活を救うことになる。

しかし、そもそも陽菜がその犠牲の上に立つ必要があったのでしょうか。

そして帆高は彼女を救うべきでは無いのでしょうか。
{/netabare}

[問われる罪]
{netabare}
近年世界的に見られるゲリラ豪雨等の異常気象。本来、その対応や責任
は社会全体、又は国家にある訳で、一人の巫女が背負う必要などある筈
がありません。拳銃を使ってでも彼女を救おうとした帆高の行動は、社
会的に見れば当然間違った選択です。しかし正義感で語るならば、決し
て間違いとは言えない筈です。彼女を連れ戻そうとした帆高を、須賀が
涙を流しながら手助けした理由もきっとそこにある。そんな気がします。

光を追うと言う口実で島から逃げ出し東京に来た。所謂家出です。そし
て流れついた先で偶然拳銃を発見してしまったものの、追われる身から
警察に届けられる筈も無く、護身用として所持してしまう。そしてその
後も若さゆえに様々な犯罪を繰り返し周囲を振り回す。この時点で、帆
高は社会から逸脱した存在なのは確かです。そんな行動を取る主人公に
同情の声がある訳も無く、非難の声が上がるのも当然と言えば当然です。
{/netabare}

[残された選択と自由]
{netabare}
しかし、彼女と出逢い好意を抱いた彼にとって、実家に戻ると言う選択
肢は無い。既にもう後戻りは出来ないのです。そして、残された道はた
だ一つ、ここで生きていく為に、犠牲になった彼女を取り戻すという事
だけ。無知で無謀、若さゆえの行動ではあります。ですが仮に立場を変
えて見れば、きっと大切な人の為に同じ様な行動を取る、または思い描
き悩むのではないでしょうか。人命を尊重する気持ちがあれば尚更です。

その後、口で言っても分からない連中に囲まれた中で、捕まらずに屋上
に向かう為には、あれしか方法は無かった。彼にとっては、東京が海に
沈むことよりも、彼女の命の方が尊い。それは誰が見ても明らかです。

社会から逸脱した者だからと言って、誰しもその選択肢を奪うことなど
出来る筈も無く、常に自由であるべきです。

そして彼は彼女を連れ戻し、やがて東京は海に沈む。
{/netabare}

[そして「大丈夫」になる]
{netabare}
その後、罪を受け入れ人生をリセットした帆高。時は過ぎ、大学進学の
為に再び須賀の元を訪れます。当然の様に彼に背中を押され陽菜を探し
求める帆高。そして必然であるかの如く、最初に出会ったあの坂で見事
再会を果たし歓喜する二人。余りにベタな演出で若干閉口はしましたが、
この結果だけを見れば、決してあの時の彼の選択は間違いでは無かった
と思うのです。

国家や社会が対策を施さない限り、言い方は多少悪いですが、放って置
いてもいずれ雨によって東京は水没する。立花婦人が語った様に以前の
東京の姿(江戸時代以前)に戻っただけです。それはあくまでも自然現
象が引き起こす災害なのです。そもそも命の犠牲によって成り立ってい
る社会生活など、あって良い訳がないじゃないですか。w

そして帆高が最後に語った「ぼくたちは大丈夫だ」と言う意味深な台詞。
確かに水没によって住居や職場を失った人々にとってみれば、無神経な
発言で怒りを買うのも当然の事なのかも知れません。しかし、それは事
実を知らない、または知りつつも無関心を装う、ある意味狂った社会の
大勢が抱く浅はかな感情だと思うのです。

事実を知り、そして唯一の理解者である須賀が語る「人間年を取ると大
事なものの順番を入れ替えられなくなる」と言う台詞が、その全てを物
語っている。そんな気がしてなりません。

そして陽菜との再会によって感じた共に歩める希望と光。それが自身に
とっての「大丈夫」となり、大切な彼女に願う「大丈夫」に繋がってい
くのだろうと思います。

若者よ、時にその意思を迷わず貫き通せ!
{/netabare}

[最後に]

やはりこの作品、放映後に新海監督が語った通り、かつてない程の賛否
を予想するとても複雑で濃い内容でした。個人的には監督らしい作品だ
と思いましたし、感じるものも多い内容でしたが、正直まだまだ物足り
ない部分があるもの確かです。いつの日か再び視聴を行い、感想を補う
ことが出来ればと今は思っています。


以上、拙い感想でした。


2019/10/27  配点等修正

投稿 : 2019/10/27
閲覧 : 229
サンキュー:

21

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