「本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~(TVアニメ動画)」

総合得点
79.3
感想・評価
513
棚に入れた
2041
ランキング
497
★★★★☆ 3.6 (513)
物語
3.8
作画
3.4
声優
3.7
音楽
3.5
キャラ
3.7

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ネタバレ

ドリア戦記 さんの感想・評価

★★★☆☆ 3.0
物語 : 3.0 作画 : 3.0 声優 : 3.0 音楽 : 3.0 キャラ : 3.0 状態:今観てる

子供だまし?

タイトルに釣られてアニメを3話まで視聴。
原作は1巻の途中まで読みました。視聴が終われば感想を上書きします。
いま、キャンペーン中のKindleUnlimtedに入れば原作は無料で読めます。
まあ、元々はなろう系でWEBで連載されていた作品なのでキャンペーン対象になるんでしょうね。


【原作について】
原作は読みやすい文章です。原作者は本をよく読んでいた人らしいですが
近年日本語能力そのものに疑問符が付きやすいラノベ作家のなかでかなりまともです。
『十二国記』の小野不由美と比較されていましたが、また違う。
小野不由美は後半になると漢語交じりのかなり端正な文章を短編で書いていますが
そういう端正な文章ではない。癖のない人気ブロガーのような
良い意味で小学生でもわかる読みやすい文章を書くのでラノベ向きでしょう。

ただ若干なろう系のようで、なろう系でない逸脱したところがあるんです。
世界観を作ろうとしているところです。
確かになろう系異世界転生なんですが、
やや本物の中世ヨーロッパの歴史や民俗史の知識を入れている。
そこがただのゲームの世界からコピペしまくったよくある異世界転生モノではない。
がっつり中世史を勉強した形跡もなく、
いろんな本を読んで参考にしたんだろうなあという程度ですが
『狼と香辛料』の原作者と同じくらいは勉強しているんじゃないでしょうかこの人は。

例えば1巻の最初の方に排泄物を「おまる」に入れて
窓から道に投げ捨てる描写があるんですが
まんま昔のヨーロッパも同じことをしていました。
また原作では最初に主人公は猛烈な頭のかゆみに悩まされるんですね。
体を洗う習慣が中世ヨーロッパでは途絶えていたからなんですが
そこも指摘しています。

『テルマエ・ロマエ』でローマには公衆大浴場があったことは
日本でも知られることになりましたが
その伝統は中世ヨーロッパで途絶えてしまっているんです。
日本人でイタリアの郷土史を研究している方がフィレンツェにいるんですが
その方が面白い連載記事を書いています。
どうも「お風呂」が中世ヨーロッパでは日本の歌舞伎町のような発展を次第に遂げて
混浴で酒を飲み食いしながら乱交していたんじゃないか?
明らかに歌舞伎町オーバーな事案ですが、そんな資料が残っているそうです。
腹が出たおっさんがおねーさんと風呂で酒を飲みながらいちゃこいている絵画が残っています。
公衆浴場が次第に性風俗先進国日本の「フーゾク」と同じように
風呂で売春を斡旋するような機能を持ちはじめ
激おこしたキリスト教会が「おフロはまったくもってけしからん!」ということで禁止し始めた。
中世ヨーロッパではある時点から、風呂が庶民の生活から消え始めたようなのです。

で、かわりにやってきたのが、シラミとノミです。
シラミだらけの頭の痒みに耐えかねて、毛皮の襟巻を上流階級は巻くようになった。
シラミが毛皮に乗りうるようにするためだったという説があるそうです。
中世ヨーロッパの「シラミ問題」はけっこう有名なんです。
この本はさりげなく、触れているんですね。

もう1つ、「なぜ主人公は本にこだわるのか」
中世ヨーロッパでは、本=知識は修道院などで筆写されるのみで
一部の人間しか触れられないものだった。活版印刷ができる前です。
できても依然、本=知識は教会や権力者の独占物でしたが。

「本の文化」が成り立つには、こうした具体的な本が作られることと
読み手がいるということが前提になります。

文字が読めて、それを読むだけの時間と財力がある人間がいるということは
社会にそれだけの余剰生産がないとできないことなんです。
古代ギリシャやローマは奴隷制度によって、余剰生産が可能になり
多くの高等遊民=ニートが発生し、それによって哲学や科学が発展しました。
しかし中世ヨーロッパになって社会の豊かさがガタっといったん落ちるんですよね。

また戦争や交易で外部と行き来があったために絶えず流れ込んできた
知識や文化は中世ヨーロッパでは修道院を中心に蓄積されます。
知にアクセスできるのは限られた特権階級だけだった。

故に知識を持っているということは、
中世ヨーロッパでは主人公がチートできる要因にもなりかねず
原作はそこにさりげなく触れています。
まあ、如何せんなろう系レベルなんですけど。


【アニメについて】
非常に不思議でたまらないのですが、
アニメでは原作のこうした世界観にあまり配慮した形跡がありません。
なろう系異世界物と唯一の差別化できる点なのですがね。

監督は大ベテランの宮崎駿氏よりやや下の世代で
脚本家も40代以上の方でしょう。
異世界テンプレに慣れ親しんだ世代でもない。
かと言って、「勉強する」ってことを知らない新人でもない。
転生した5歳の女の子のほんわか成長談にする気なのでしょうか?
それって監督が一番嫌う「子供騙し」では?

通常、活字で書かれた世界をアニメの映像にするには、
とんでもない勉強量が必要なんです
例えば、他の中世風のアニメで肉屋が持っている包丁を
「中華包丁」の形にしていて失笑したことがあります。
また中世ヨーロッパをモデルにした世界観なら
食事ではスプーンもフォークもなくて、手掴みで食べていたはずです。
辛うじてナイフが食卓に添えられていました。
服装、靴、髪型、全部当時の資料や絵画を読んだり勉強していないと原画にできない。
また少しでも中世ヨーロッパについて知っていたら、
原作者の隠れた意図に気が付くでしょう。
原作のエッセンスを抽出するならもう少し考えても良いだろうにと思います。
宮崎駿氏、高畑勲氏ならやったでしょう。

アニメしか見ない、漫画しか読まない製作者が増えた結果が
テンプレ化した演出とストーリーなのでしょうか。
最近のアニメ製作スタッフの大部分は
異分野の勉強をしない、異分野の本を読まないことで
自分で自分の首を絞めているように思えます。

最後まで見ないとわからないですが、先行きが不安な滑り出しです。

投稿 : 2019/10/25
閲覧 : 282
サンキュー:

4

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