「もののけ姫(アニメ映画)」

総合得点
90.4
感想・評価
2043
棚に入れた
13274
ランキング
54
★★★★★ 4.2 (2043)
物語
4.2
作画
4.3
声優
3.9
音楽
4.2
キャラ
4.1

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ネタバレ

USB_DAC さんの感想・評価

★★★★★ 4.7
物語 : 5.0 作画 : 4.5 声優 : 4.0 音楽 : 5.0 キャラ : 5.0 状態:観終わった

解決策や希望など、そもそも描かれていない

物語:
先ず圧倒的な情報量と思想的な奥深さが、この作品にはあります。しかもこ
の環境破壊などと言う解決不能なテーマに対して、良心的な救済や宗教的な
カタルシスなどは一切無い。解決策は自分で良く考えろと言う訳ですね。

確かにそうです。明確な解決策を理解して実行していれば現代の環境問題な
どとうの昔にバランスが取れている筈ですから。文明の発展にブレーキを掛
けて迄、人類は環境の改善に進もうとはしないし、そもそも現代生活を送る
だけで絶望的な環境に一歩一歩近づいている。そうなる前に皆でやれること
をやれ、きっとそう言うことなのだと思います。例えそれが気休めでも、最
善を尽くせば進行を遅らすくらいは出来ると。

因みに、その後に監督が発表された詩集に記されてる「アシタカ聶記」の内
容に、それを匂わせるメッセージがあります。興味がある方は是非。

作画:
わずか数分のカットに1年7か月も制作に掛けたという、蠢く祟り神の描写。
1秒間に24枚必要とされるコマの多さと手書きへの拘りは、驚きを超え感
動すら覚えます。呪われた紋様一匹一匹に命を吹き込むそれは、まさに「も
ののけ」の住まう世界。とにかく冒頭から圧倒される映像でした。そしてイ
ノシシの群れが走るシーンもまたナウシカのオームの群れを彷彿とさせ、と
ても迫力があるものでした。

声優:
アシタカ役はナウシカでアスベルを演じたお馴染みの松田治洋さん。真直ぐ
で男らしいアシタカそのものでとても魅力的な声です。そしてエボシ役を演
じた田中裕子さんもまたクールで頭脳明晰、民を束ねる頭目に相応しい演技
だったと思います。その他キャストもとても役にハマった演技をされていた
と思いました。

音楽:
日本を代表するカウンターテナーの米良さんが歌う主題歌「もののけ姫」。
彼の美しい歌声はもとより、監督が作詞されたというこの短い詩を読み解く
と、矢尻を向けた対象への生と死の葛藤と、欲にまみれることを恐れ戸惑う
アシタカの優しい心を感じることが出来ます。また、この曲をバックに犬神
とアシタカが語り合うシーンは何度見ても胸が熱くなります。

キャラ:
慈悲深い犬神に命を救われ一族として育てられたサン。森を侵した過ちから
逃れる為に生贄として親から捧げられ、人としての人生を奪われた。そして
森を守護する母の娘として気高く、そして優しく育った彼女はまさしく「も
ののけ姫」。誠実なアシタカと並び、その壮絶な彼女の生き様は圧倒的な存
在感があります。



[あらすじ]
{netabare}
人々が生きていくために他の命を狩る行為。そこに欲望というものがあって
はならない。古来から人々はそのことを知り伝え、絶つ命を尊び、そして神
を祀り、村の掟としてそれを守ってきた。

飛礫を食らわせた人間への憎しみに震え、悍ましい祟り神と化したナゴの神
を迎え撃つアシタカヒコ。見事打ち倒すものの右腕を祟りに蝕まれ呪われた
者と化してしまう。それは時に爆発的な力を与える代わりに、彼の命を奪い
やがて死に至るもの。

村では英雄と称される傍ら、禁忌を犯し不浄な神に呪われた者として名を変
えられ、大切な髷を切り落とし、掟に従いヤックルと共に二度と戻らぬ覚悟
でこの村を去って行く。そして老巫女に言われた通り不穏な気配を察し、こ
の目でそれを確かめんと西の国を目指す。

もののけ姫であるサンもまた、生贄として神に捧げた生き子でありながら犬
神の哀れみで生き長らえ、民にとっては禁忌を犯す者として恐れられる。

そして女人禁制である多々良場で盛りの女性に鞴を踏ませ、鉄の神である金
屋子の神に抗い、毒の飛礫を作っては山神の命をつけ狙うエボシ。

互いが同じ神に抗う身でありながら、アシタカは共に生きる道を探り、片や
サンはシシ神を崇め、人間は森を汚す生き物と忌み嫌う。一方で呪われし者
を村に匿い、優しさで民を束ね敬われるものの、山神に愛する夫を奪われた
エボシは毒の飛礫を作り、森に手を掛け神々を憎む。

やがてこの者達を巻き込みながら大きな争いが起きる。手練れであるジコ坊
達の策にハマり、多くの犠牲を払い敗れ去る山神と乙事主。我を忘れた乙事
主はシシ神の首を狙う人間とは知らず戦士が戻ったと喜び、其奴等が化けた
イノシシ共を引き連れ、祟り神と化しながらシシ神の元へと向かう。

その後、乙事主に飲まれたサンを救い出す犬神。そこに生と死を司るシシ神
が現れる。しかし戦に傷つき祟り神と化した乙事主と犬神には命は与えるこ
とは無かった。それはただひたすら憎しみに駆られ、我を失う哀れな者への
神の思し召しであるかのように。

シシ神の首を撥ねるエボシ。それを見てサンは怒り狂う。犬神は残された命
を振り絞りエボシの右腕を食らう。そしてエボシを助けるアシタカが許せぬ
も、シシ神の首を取り戻すためならと彼に手を貸すサンと山犬。

奪われた首を求めて多々良場を目指すデイダラボッチと化したシシ神。触れ
る物全ての命を奪い、次第に朽ち果てる大地。その後、アシタカとサンによ
り首を取り戻したその神は、朝陽と共に新たな命を大地に芽吹かせる。

やがて目を覚まし、この地で生きることを決意するアシタカと再び山へと戻
るサン。「共に生きよう」きっといつか解り合うことは出来ると頷く二人。

幽かに残されたアシタカへの呪いの傷跡。それは村人への大切な戒めとなり、
神に生かされた証として永遠に人々の心に刻まれる。
{/netabare}

[感想]

文明の発展と共に失っていく自然の恵みとその調和。そして人類がこの世に
いる限り、永遠と繰り返される破壊と創成。その問題を見事に表現し提起し
た作品だと思います。

宮崎駿監督が照葉樹林文化論をこよなく愛し、ペンネームを使い時に啓蒙活
動を行っていることはあまりに有名な話です。そして、叶精二氏が記された
「もののけ姫」の基礎知識という記事に以下の様な一節があります。

”太古の日本が覆われていた照葉樹林。それは温暖な気候と水分を多く含む
地にしか発生しない。その最大の特徴は森の蘇生力である。いくら樹を伐っ
ても砂漠化はせず、人間が手を加えなければ、数十年で元の森林に戻ってし
まうのだ。「産業や文明が崩壊した後に森になる」という『風の谷のナウシ
カ』以降の宮崎監督作品のイメージは、ここに原点がある。”

朽ち果てた大地に一瞬で新たな息吹が目覚めるという描写は、実際は人々が
一切手を加えず、数十年、または数百年掛けてやっと取り戻せるものなので
す。今後二人が共に理解し合い森を守っていったとしても、次の世代、また
その次の世代で漸く叶う長い道のり。だからこそ人は私利私欲に囚われず常
にこの二人の様に語らい、失われたものに対して残された可能性を信じ、常
に最善を尽くす努力が必要なのだと思います。

しかし15世紀頃と思われるこの舞台の後は、激しい戦火の時代がやってく
ることになる。それを承知の上で彼等に「生きろ」と語っている訳です。来
るべき困難な時代に彼等はどう立ち向かうべきなのか。それは今の時代に置
き換えても同じなのかも知れません。そのことを改めて考えさせられる、と
ても深い作品です。



以上、拙い感想でした。


2019.11.04  初回投稿
2019.11.05  誤字修正

投稿 : 2019/11/05
閲覧 : 317
サンキュー:

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