「失くした体(アニメ映画)」

総合得点
計測不能
感想・評価
6
棚に入れた
27
ランキング
7713
★★★★★ 4.2 (6)
物語
4.5
作画
4.5
声優
4.1
音楽
4.0
キャラ
3.8

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けみかけ さんの感想・評価

★★★★★ 4.7
物語 : 5.0 作画 : 4.5 声優 : 5.0 音楽 : 5.0 キャラ : 4.0 状態:観終わった

想像を絶する恐怖体験と人生の素晴らしさを讃える二律背反を味わえる超傑作映画 彼が失ったのは「右手」か?それとも「体」か?

NETFLIXが独占配信しているフランス映画
ギョーム・ローランの小説『Happy Hand』を原作にジェレミー・クラパンが長篇初監督で手掛けた81分の作品です
配信に先駆ける形で1週間限定で劇場公開もされました


冴えない人生を送ってきた青年ナウフェル
彼は“とある事故”で右手を切断してしまった
事故後のある晩、医療施設の冷蔵庫から切断された右手だけが独りでに動き出して施設を飛び出す
自立した右手は街の中を人目から隠れながら彷徨っていく
ネズミに襲われたり、車に惹かれそうになったり、脅威から逃れながらも右手は“どこか”へと向かおうとする
その最中でも、確かに刻まれたナウフェルの記憶を回想していく右手
幼い日々の両親との思い出、その後の人生の躓きの連続、密かに思いを寄せる女性ガブリエルとの出逢い、そして右手切断の瞬間へと回想は進んでいく・・・


まず切断された右手が自立して動き出す・・・と聞くだけでもかなり怖いですが、今作自体とにかく緊張感で溢れる場面が連続しており、明白にスリラー映画として構成されています


自立する右手、というと『アダムスファミリー』の「ハンド」や『仮面ライダーオーズ』の「アンク」の様にコミカルに描くことも可能だったのでしょう
ですが今作の「右手」は冒頭ではイマイチ意思が感じられず、何を考えて何処へいこうとしているのか分からない
その“異物感”故に鑑賞者の不安を煽り、先の展開の見えない緊張感を出しているのです
この時点で【怖い映画】が好きな人には猛烈にオススメしたい秀作なのですが今作はソレだけじゃない


なんせ右手がパリの街を彷徨う、なので都会の景色が基本的に全て低い視線からのアオリで描かれます
このアオリが独特の異化効果を生み出し、全く見慣れない風景を映し出しているんですね
色調を落とした暗い画面や回想シークエンスでモノクロになる演出も味わい深い
さらにミニマルなエレクトロで統一された劇伴にも背筋を正して鑑賞したくなる痺れるカッコ良さを感じます
色調といい、劇伴といい、情報の引き算が上手いのでより緊張感が引き出されているのでしょう


右手の回想は幼少期から右手切断の瞬間まで順を追って進んでいくのですが、何をやっても上手くいかないナウフェル青年の冴えない人生が虚しく綴られていく様はとても悲しくて憂鬱になります
そんな最中に現れた一筋の光明の様なヒロイン、ガヴリエル
意中のガヴリエルに救いを求めるかのようなナウフェルは、徐々に前向きな行動をする様になり、やがて人生も上向きになっていってく様にも伺えます
しかし結果的に右手切断という悲劇に見舞われるのですから、これら全てのポジティブなシークエンスが悲劇への伏線でしかない、そう考えるとより恐怖心を掻き立てられるのが凄いです


しかし今作の本質は何かを喪失してしまった人生、劇中では実際に身体を欠損してしまった人生ですらも、ほんの小さなキッカケで愛おしくなるはずだ、という人生の賛歌であるところにあります
ナウフェルが失くしたのは、果たして【右手】なのか、それとも【体】だったのか
それはクライマックスでお解りいただけることでしょう
これが極限的な緊張感の後に描かれる、というのが実にドラマチックだと思いましたね
つい最近、タイトルはあえて伏せておきますが同じような半生記モノでイマイチ煮え切らない結末の作品を鑑賞したので、今作の方が数段上手いまとめ方だな、と再評価してしまいました
エンドロールには劇中と同じミニマルでエレクトロな劇伴が流れ、心地良い余韻に浸る事が出来ます


正直、久々にアニメで心臓に悪い作品を観たと思いましたw
ですがその分、鑑賞後の達成感もひとしおに大きかったです
2019年はなかなかマニアックながらも秀でた海外アニメ映画を鑑賞する機会が多かったのですが、海外作品では否応無しに今作がナンバーワンの傑作でしたね
怖い映画が苦手でなければ心の底からオススメします

投稿 : 2019/12/18
閲覧 : 376
サンキュー:

8

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