「千と千尋の神隠し(アニメ映画)」

総合得点
87.6
感想・評価
1798
棚に入れた
12186
ランキング
142
★★★★☆ 4.0 (1798)
物語
4.1
作画
4.2
声優
3.8
音楽
4.1
キャラ
4.0

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ネタバレ

USB_DAC さんの感想・評価

★★★★★ 4.7
物語 : 5.0 作画 : 4.5 声優 : 4.5 音楽 : 4.5 キャラ : 5.0 状態:観終わった

日本人が大切にしてきたアニミズム

★物語
宮崎作品らしくファンタジーでありながらメッセージ性を強く感じる
作風。縦社会の厳しさや人間の私利私欲、子育ての在り方、環境問題、
人種差別、そして礼節など様々な問題を浮き彫りにし、その中で揉ま
れながら、親を取り戻す為に自我を失わずに懸命に向き合おうとする
少女の姿を描く。ごく普通の子供たちが持つ恐怖心や欲の無さ、誠実
さや優しさを見事に表現する主人公千尋。近しい子供たちに「大丈夫、
あなたはちゃんとやっていける」と監督が伝えたそのエピソードから、
千尋の様に強く優しく生きて欲しいという想いを感じる作品です。


★作画
約20年前の作品とは思えない細かさと色使い。千尋とハクが歩く花
の壁の駆抜け感は実に見事です。その後、畑で語り合う二人の背後に
描く影が身体に合わせ小刻みに揺れ動く描写など、非常に細かく描か
れています。改めて安藤雅司氏の拘りを感じる作画です。


★声優
何度観ても菅原文太さんの声は微笑ましく、優しさに満ち溢れている。
彼が言った「え~んがちょッ」「分からんか?愛だ、愛ッ!」は記憶
に残る台詞。そしてもう一人の大御所夏木さん。実に魔女らしい二面
性を持つ二役の演技は見事だったと思います。

また千尋(声:柊瑠美さん)、ハク(声:入野自由さん)を含め、他
の方々もとてもキャラクターらしい演技をされていました。


★音楽
主題歌「いつも何度でも」、テーマソング「いのちの名前」。
屈指のライアー奏者で、ソプラノ歌手でもある木村弓さんのとても優
しい歌声。哀愁漂うその歌詞の内容にとても胸を打たれます。


★キャラ
敢えて普通の少女らしく描かれた千尋。最初はあまり馴染めなかった
その顔も、時間を追う毎に誠実さと優しさ、欲の無さに魅力を感じて
いきます。時折ひっくり返る声も逆にリアルでいい。丸いつぶらな瞳
は今はとても可愛らしく感じます。

湯屋で働く男衆はカエルで女衆はナメクジの化身。蛇(龍)はハク?。
まるで三すくみの関係を示すかのようです。八百万の神々も良く知る
ものばかりで、その描写も大変個性的で面白いものがあります。

最初は千尋に対して厄介者扱いだった従者達が次第にその存在を認め、
最後の別れに神々を含め全員笑顔で手を振る姿にはとても感動ました。



[あらすじ:神々が住まう不思議な世界]
{netabare}
知らない街への引越と親友との離別。

薄桃色のスイートピーをいつまでも握り絞め、理砂との別れに拗ねる
千尋。臆病で柔弱。何処にでもいるごく普通の少女。

新居にあともう少しというところで道を間違え、やがて行き止まりに
聳える立派な赤門を見つける。好奇心旺盛な父親と共に嫌々ながら入
口の長いトンネルを潜り抜け、廃墟と化したテーマパークらしき場所
に辿り着く。何気に楽しそうな両親に対して、やはり浮かぬ顔の彼女。

その後、匂いに誘われ腹を空かした両親は、その先に見えた全くひと
気の無い食堂に立ち寄る。そして「後で金を払えばいい」、そう言い
ながら勝手に食べ物に手を出してしまう。「でも黙って人の物に手を
出すことは、とてもいけない事」。とても真面目で臆病な彼女は母親
に誘われるものの頑なにそれを拒み、無言でその場を後にした。

奥の階段を上った先で「油屋」と書かれた湯屋らしき建物を目にする。
橋を渡る途中で通り過ぎる電車を眺めていると「ここへ来てはいけな
い。早く戻れ」と一人の少年が声を荒げて近寄って来る。全く事情が
呑み込めず、文句を言いながらも慌てて両親の居る食堂へと走る千尋。
しかしそこに二人の姿は無く、何故か同じ服を着た豚が座っていた。

増々頭が混乱し懸命に二人を探し回る内に、街の周りには既に水が満
ち溢れ、このままでは元の場所へは帰れないことを知る。これは夢で
あって欲しいと泣きじゃくり、その場にしゃがみ込んでしまう千尋。

次第に薄れる自身の姿と、この世のものとは思えぬ姿の神々に怯え慌
てふためく。その後、再びハクと名乗るあの少年が現れ「其方の見方
だ」と語り優しく彼女を諭す。そして丸薬を口にさせ、薄れる彼女の
姿を取り戻した。いずれ豚と化した両親にも会うことは出来ると語り、
その為には先ず湯屋で働く事が必要だと、彼女の潜入に知恵を貸す。
{/netabare}

[あらすじ:湯屋で働く千尋]
{netabare}
言われた通り釜爺がいる場所へと無事に辿り着き、「ここで働かせて
下さい」と懇願する。そこで石炭に押し潰れたススワタリを見兼ね仕
事を手伝うが、一斉に怠け出した彼等を見た釜爺に他人の仕事を奪っ
てはいけないと逆に怒られてしまう。その後、食事を持って来たリン
に大騒ぎされるが自分の孫だと偽り千尋を庇う。そしてどの道働きた
いなら湯婆婆の所に一度行けと、イモリの黒焼きを餌にリンに彼女を
預けた。去り際に彼女に礼儀作法を教わり、改めて釜爺に一礼する。

その後、彼女の粋な計らいで無事に湯婆婆の部屋に行き着き、「ここ
で働かせて下さい」としつこく願う。千尋との騒ぎに驚き暴れる坊に
手こずる湯婆婆。居た堪れず、彼女との契約と引き換えに千尋の名前
を奪い、新たに『千』と名付けた。そこで再びハクと出会い、湯屋に
向かう途中で声を掛けるが、冷たくあしらわれ落ち込んでしまう。

翌朝、ハクに誘われ両親の居る豚小屋に向かう。人であった頃の記憶
はもう残ってはいないと言われ、二人に声を掛けるがやはり気付かな
い。畑の片隅で悲しみに耽る中、失った私服をハクから受け取る。そ
して何気なくポケットに入れていた理砂からのメッセージカードを見
つめ、自身の本当の名前を思い出す。「元気を出して欲しい」と彼が
お呪いをかけて作った握り飯を目一杯頬張り、彼の優しさに触れ大粒
の涙を流しながら泣きわめく。その後、彼と別れた帰り道、橋の袂か
ら青空に昇る白龍を見つけ、いつまでも眺めていた。
{/netabare}

[あらすじ:腐れ神と河の神]
{netabare}
気を取り戻し仕事に精を出す千尋。雨が降るその夜、庭に居た『面を
被る者』に声を掛け、濡れるからと彼の為に窓を開けたままにした。

その夜、湯屋にとっては招かれざる客人である『腐れ神』が来ていた。
鼻を塞ぐ程の悪臭を放つ神を任される千尋。直前に『面を被る者』か
ら渡された薬湯の札を使い、見事身体中に刺さる川のゴミを引き出す
ことに成功する。そして最後に残された釣り糸を抜いた瞬間、本来の
姿である『河の神』が復活。「よきかな」と喜ぶ神は千尋にニガダン
ゴを褒美に渡す。湯場を去ったその床には大量の砂金が残されていた。
喜ぶ湯婆婆に抱きつかれちょっと嬉しそうな千尋。
{/netabare}

[あらすじ:カオナシ]
{netabare}
仕事を終え部屋で寛ぐリンと千尋。その時ハクの妙な噂を耳にする。

その後、あの『河の神』が浸かった後の暗い湯場で、拾い残した砂金
を夢中で探す青蛙。気が付くと湯の無い風呂桶には『面を被る者』が
いた。そこに入いるなと言いながら、まやかしで作られた溢れ出る砂
金につい目が眩み、彼に近づく青蛙は一飲みにされてしまう。

次々と砂金を生み出し、皆を叩き起こす『面を被る者』。気前の良い
客と持て囃され調子に乗る彼は、ありったけの食事を用意させながら、
やがてこの場に千尋を差し出せと要求する。

部屋に戻り、海を眺める千尋。とその時、凄まじい数の紙の式神『ひ
とがた』に追われ逃げ惑う白龍が姿を現す。間一髪部屋に逃げ込んだ
彼に一声を掛けるが、再び外へ飛び出し湯婆婆の元へと去って行った。

慌てて湯婆婆の元へと向かう千尋。やっと忍び込んだ部屋で傷付いた
白龍を見つける。そこで『ひとがた』が化けた湯婆婆に瓜二つの姉銭
婆と出会う。そしてそこに現れた『坊』をネズミに、『湯バード』を
ハエドリに、『頭』を坊に変えてしまった。

しかし暴れる坊(頭)に一瞬気を取られ、その隙に『ひとがた』を白
龍の尾で破壊されてしまう。と同時に千尋たちは地下へ落ち、やがて
釜爺の元へと辿り着く。弱り切った白龍を心配する二人。千尋は咄嗟
に手にしたニガダンゴを彼に食べさせ、呑み込んだ契約印と身体に忍
び込んだ呪いの虫を吐き出させる。その後、千尋はハクが盗んだ印鑑
を銭婆に返しに行くと言い、釜爺から使い古しの切符を手に入れる。

その後、リンに呼ばれ、カオナシの元へと向かう千尋。凶暴な妖と化
した面を被る者『カオナシ』は、千尋に気に入られようと料理を振る
舞い大量の砂金を差し出す。しかし彼女は全くそれに興味を示さない。
その後、千尋に食わされたニガダンゴのせいで怒り狂い、食べた物全
てを吐き出しながら千尋をひたすら追いかける。リンが漕ぐ桶に乗り
駅に向かう千尋。彼女に追いついたカオナシは凶暴さが消え大人しい
姿に戻っていた。そして彼女と共に電車に乗り、銭婆の元へと向かう。

消えた千尋に怒り混乱の責任を咎める湯婆婆。彼女のお陰で助かった
と千尋を庇う青蛙。ハクは坊と千尋は銭婆の元へと向かったことを告
げ、彼等を連れ戻す代わりに千尋たちを元の世界に戻すよう懇願する。
{/netabare}

[あらすじ:銭婆の住む家へ]
{netabare}
辺りも暗くなった頃、漸く銭婆が住む沼の底という寂れた駅に着いた
千尋たち。礼儀正しいカンテラに道を案内され彼女の家へと招かれる。

銭婆に深々と頭を下げハクの罪を詫びる千尋。寛ぐ中でハクと両親の
命を心配し、湯婆婆の元へ帰ると涙を流す。掟によって自身は手出し
が出来ない。が、彼を助けたいなら忘れた記憶を思い出し、自分自身
で努力することが大切だと教えられる。帰り際、皆で紡いだ糸で拵え
た髪留めをお守りに貰い、白竜の背に乗り湯婆婆の元へと飛び立った。

懸命に記憶を辿る千尋。幼い頃靴を拾おうと川に落ち、溺れかけた自
分はある者に助けられたことを思い出し川の名を彼に伝える。彼の本
当の名前はハクでは無く『饒速水琥珀主』。今は埋め立てられこの世
には存在しない「コハク川」という川の主(神)だった。
{/netabare}

[あらすじ:神々の世界との別れ]
{netabare}
無事に油屋に戻った千尋たち。橋の上で彼女たちを元の世界に戻して
欲しいと訴えるハク。すっかり千尋を気に入ってしまった坊も「千を
泣かすな」と彼女を困らせる。仕方なく湯婆婆は彼等に従い、契約解
除の条件として難問を千尋に言い放つ。12匹の豚を前に本当の親を
探せと言われたが、ここに親はいないと即答し、その瞬間、湯婆婆と
の契約は見事破棄された。それを見て「大当たり~」と喜ぶ一同。

「お世話になりました」。湯婆婆に深々とお辞儀をする千尋。湯屋の
皆に手を振り、ハクと一緒に街の入り口まで走る。水の引いた草原の
手前で足を止める二人。「この先は決して振り向いちゃいけない」と
語り、いつか湯婆婆の弟子を辞め自分も元の世界に戻ることを決意す
るハク。彼は自らの身を持って無事彼女たちを元の世界に送り届けた。

丘を越えた先には千尋を待つ両親がいた。しかし何故かこの世界の入
り口である赤門は古惚け、それを抜けた先で後ろを振り返ると、まる
で全てが幻だったかのように、古びた石垣造りの門が目の前に広がる。
そして振り返る彼女の髪は、あの紫色の髪止めで結われていた。
{/netabare}

[ハク]
{netabare}
名がある川と名があまり知れぬ小さな川。ハクはそんな小さな川の神。

幼い頃に千尋がコハク川で溺れた記憶が失いかけた為、ハクは俗世に
戻れなくなった。開発に伴う川の埋め立て。小さな川で遊んだ記憶も、
埋め立てや土地を離れることで、人々はその存在さえも忘れてしまう。
千尋が取り戻した記憶で彼が例え俗世に戻れたとしても、川そのもの
が失われた今、行き場を失う可能性は非常に高い。そして完全に人の
記憶から消え去ることで、その一生は終わりを告げる。湯婆婆が彼を
八つ裂きにすると言う台詞。きっとそれは失われていく自然への愁い
と社会の現実を暗示しているのだと思います。
{/netabare}

[釜爺]
{netabare}
湯屋でひとり多忙を極めるボイラー担当の釜爺。まるでクモの様なそ
の身体つきは2本の足と6本の腕を持つ。まさに忙しい時には人の手
が欲しいという思いを具現化した存在。ハクに次いで千尋を思う、厳
しくも心優しき達者な老人。個人的に大好きなキャラです。
{/netabare}

[カオナシ]
{netabare}
千尋が銭婆の元へ旅立った際、電車の乗客たちは体が薄れ、顔の表情
が無い描き方をしていました。監督がその後明かしたカオナシの正体
を「電車に乗る人々」と答えたことからも、その想いが感じられます。
社会で生きる多くの現代人が、自我の意思を殺し、その社風に染まり
切る。そして表情は希薄な癖に欲望だけは大きい。自我を失わない千
尋に憧れ、後を追い、漸く居場所を見つけたカオナシは、千尋との別
れ際に手を振り微笑んでいる様にも感じます。社会を彷徨う彼の様に
は決してならないで欲しい。そんな監督のメッセージを強く感じます。
{/netabare}

[アニミズムと言霊]
{netabare}
日本人が抱くアニミズムの思想。「生きとし生けるものすべてに魂が
宿る」と信じられ、古くから八百万の神々と呼び崇められてきました。
幼い頃から何気なく慣れ親しんだその信仰心も、時代と共に少しずつ
荒廃してきている。何故か劣化していた出入り口の門や荒れ果てた鳥
居と足元の祠、また川の主であるハクのことも、まさしくそれを暗示
している様にも思えます。自然と共にある信仰心が薄れた結果、自然
破壊が進み、それを止める手立てさえ見失っているのかも知れません。

また千尋が「消えろ」と叫んだ結果、自身の姿が透ける描写がありま
した。日本にはアニミズムと同じく『言霊』という発した言葉に魂や
力が宿り、自身や周囲に影響を及ぼすという思想があります。それは
時に災いを招き、時に幸せを呼ぶ。千尋がハクの本当の名前を語って
彼に勇気を与えたように、言葉にはとても不思議な力がある。だから
こそ気持ちは常に前向きであるべきなのでしょう。

※因みにアニミズムとはアニメの語源でもあります。
{/netabare}

[感想]

当たり前ですが、人々が暮らしていく為には働かなければなりません。
サラリーマンであれば、会社の都合に合わせ転勤さえする必要があり
ます。例えそれは子供にとっては勝手な都合であっても、親たちにし
てみれば家族の生活を守る為の、謂わば避けられない大切な事情です。

釜爺との出会いや湯屋での厳しい奉公も、この世界を通じて社会の簡
単な仕組みを彼女の様な世代に優しく語り掛けている。幼い子供は誠
実で穢れが無い。だからこそ、それに一早く気付かせ、いつか立派な
人間として成長して欲しいという願いが込められているのでしょう。

また両親が豚になるというあの描写は、世の中の理を無視し私利私欲
に生きてしまうと、あの様な醜い姿に変わってしまうかも知れないと
いう大切な教え。そして親が居なくなることの悲しさや苦しみも同時
に伝えているのかも知れません。

今の子共達は「生きる力」が衰えていると語る宮崎監督。社会や親か
ら過剰に守られ、あまりに危険から遠ざけられ過ぎていると。本来子
供たちは生命力が溢れ出ているはず。今日の楽で豊か過ぎる環境の中
で失ってしまったその力を、どのようにして呼び覚ますのか。千尋を
通し湯屋で懸命に働きそして困難を乗り越え、様々な神や化身たちと
臆せず接することで、その可能性と希望を描いているのだと思います。

千尋の成長を観た多くの子供たちに監督の想いが伝わったことを願い、
そしていつまでも古き良き文化が失われんことを。



以上、拙い長文を拝読いただきありがとうございました。


2019.12.21 誤字修正
2019.12.21 誤字再修正
2019.12.22 誤字再修正

投稿 : 2019/12/22
閲覧 : 376
サンキュー:

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