「劇場版 響け!ユーフォニアム ~誓いのフィナーレ~(アニメ映画)」

総合得点
87.6
感想・評価
402
棚に入れた
1862
ランキング
142
★★★★★ 4.3 (402)
物語
4.1
作画
4.5
声優
4.3
音楽
4.4
キャラ
4.3

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ネタバレ

画王 さんの感想・評価

★★★★☆ 4.0
物語 : 3.0 作画 : 4.5 声優 : 4.5 音楽 : 5.0 キャラ : 3.0 状態:観終わった

これがラストじゃない

 映画を観て第2期からのストーリーが、チャイコフスキーの交響曲第4番をモチーフとしていることを確信できました。よく練り込まれた原作を、美しい吹奏楽部の青春アニメとして見せてくれたアニメーターに敬意を表します。「フィナーレ」というタイトルからこの映画がシリーズラストのような印象を受けますが、交響曲をモチーフにした一連のドラマのフィナーレという意味で、次回作の製作も決まっているようです。京〇ニ作品に込められたメーセージを素直に受け止めれば、人生や孤独に絶望する必要なんてありません。希望をもって次回作を待ち続けたいと思います。
 ここからは、チャイコの交響曲第4番第四楽章フィナーレに合わせて映画のあらすじを振り返ります。作曲家本人が曲想を解説したメック夫人宛ての手紙を参考にしているのでググって下さい。(テレビ版第2期の続編なので、一~三楽章のレビューはそちらを参照して下さい。)ドラマを演出するのは加部ちゃん先輩、みっちゃん(新入生)、奏ちゃん(新入生)、そして1~2期を通して成長した主人公の久美子先輩です。
 第一楽章で提示された交響曲の曲想は次の通りです。「幸福の追求(絶望からの逃避)は目的を貫くことを妨げる、それは変えることのできない運命である」。この曲想を各キャラが抱える問題(運命)に置き換えてみます。

・加部ちゃん先輩は、顎関節症によりトランペットを続けること(幸福の追求)が絶望的になり、コンクール出場という目的を失う。
・みっちゃんは、自分の実力が正当に評価されていないと感じて人間不信(絶望からの逃避)になり、吹奏楽部を続ける目的を失う。
・奏ちゃんは、コンクール金賞を逃したトラウマから人間不信(絶望からの逃避)になり、コンクール出場という目的を失う。

一方で久美子は、この運命に陥ることのない決意を奏ちゃんに語っています。
「あたしね、上手くなりたいんだ、ユーフォニアム。」
「(上手くなりたい理由を)そんなの考えたことない。」
自分のやりたいことを後先考えずにやってみるということですね。現実には、高校生になると具体的に進路を決めなければならないので、それほど余裕はないです。しかし劇中では、楽器初心者の葉月先輩や実力で劣るさっちゃんは部活を続けています。数々の困難が待ち受ける人生においてそれが必要なことであると、チャイコは第四楽章で訴えています。
 それでは、第四楽章フィナーレの楽想を見てみましょう。「自分自身が楽しくないなら、人々の中にとけこみ歓楽を共にするべきだ。しかし人々の幸福で自分が満たされようとする刹那、再び不幸な運命が襲いかかる。その運命は無邪気に我々を弄ぶだけで、顧みるいとまもなく過ぎ去る。これで世界は悲哀に沈んでいると言えるのか、いや幸福もまた存在する。人々の幸福を喜ぶことができれば、自分はなお生きていけるのだ」。この楽想を、久美子とともに運命に立ち向かう各キャラに置き換えてみます。

・加部ちゃん先輩は、マネージャーとしてみんなをサポートし久美子に自分の想いを託す。
・みっちゃんは久美子に諭され、みんなにとけこみ吹奏楽部を続ける。
・奏ちゃんは久美子と夏紀先輩に諭されオーディションに合格し、みんなとコンクールに出場する。

 チャイコの4番は、ベートーヴェンの5番「運命」より地味で、運命に対する華々しい勝利に感動することはできません。アニメの京都大会もダメ金で目標の全国金賞には遠く及ばず(人々の幸福で自分が満たされようとする刹那、再び不幸な運命が襲いかかる)、エンディングとしては納得いかない内容です。しかし、華々しい勝利を治めることができるのは社会の少数派です。ベートーヴェンも私生活ではそれほど幸運には恵まれませんでした。そのことを考えると運命に打ち克ち、幸福を自分の力で掴み取るだけでは生きていけません。チャイコのフィナーレは現実的で、生きていく上で必要なことですし、ベートーヴェンのフィナーレは人生の終幕で感じられればいいことでしょう。
 映画は尺足らずの消化不良で、テレビ版に比べてドラマに引き込まれません。新キャラのキャラ付けに前半を費やして、ドラマの核心は各キャラのセリフ説明で終わるため「めんどくせぇー奴等」という印象しか持てません(キャラを理解するには、それなりのコミュニケーションが必要です)。久美子先輩の成長を見せつけるために、無双の働きでわずらわしい後輩をあしらい問題を解決させるので、視聴者が完全に置いて行かれます。雨の中をズブ濡れになりながら先輩と後輩で追いかけっこして訓示くさいセリフを絶叫するのは、青春ドラマの反則技で感動する人がいるのか疑問です。いっそうの事、人間不信のカワイイ奏ちゃんを主人公に据えた方が感情移入できます。ドラマの主役を絞って新入生視点から久美子先輩を追いかけた方が、説教くささも出ないでしょう。主人公気取りの先輩なんて、イタすぎてアニメで見たくないです(超高齢化社会を現出させた某国の大人達を見ているようです)。
 それにしても、新入生キャラをクローズアップするスマホ撮影シーンは「何ですか、これ・・・」です。次回作はこのキャラ達で行きますよ、という暗示ですかね。アニメ史に残る傑作だった第2期とリズ鳥に比べて少し残念な本作ですが、交響曲のフィナーレを反映させた内容は90分の中でわかりやすく構成されています。

投稿 : 2020/04/02
閲覧 : 176
サンキュー:

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