「とある魔術の禁書目録[インデックス] Ⅲ 第3期(TVアニメ動画)」

総合得点
74.4
感想・評価
643
棚に入れた
3079
ランキング
890
★★★★☆ 3.4 (643)
物語
3.1
作画
3.4
声優
3.6
音楽
3.4
キャラ
3.5

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ネタバレ

なばてあ さんの感想・評価

★★★★☆ 3.9
物語 : 3.0 作画 : 4.5 声優 : 4.5 音楽 : 3.5 キャラ : 4.0 状態:観終わった

塗油するグリザイユ

原作未読。長文注意。

感想は1-2期のそれに準ずるもの。いや、それよりややマイナスかもしれない。最初にネガティブな点について触れてみたい。わたしが見るところ、いまこの瞬間に評価するとすれば『禁書目録』がどうしても厳しい結果にならざるをえない点はふたつある。ひとつはキャラクタでもうひとつは世界観設定である。

キャラクタの問題はほぼすべて、上条当麻の空々しさに帰結する。彼の白痴じみた正義マン宣言は、つねにどこまでも上滑りしている。世俗権力(学園都市)と宗教権力(諸十字教)が提示する支配の正統性を向こうにして、彼が語ることばはただただ空っぽで、「そんなの納得できない」という一点に固執するだけである。

2004年に『とある』とほぼ同時期にリリースされた{netabare}『Fate/stay night』{/netabare}の主人公もそれでいくと、かなり上条当麻に近い。どちらも上滑りする正義マンで、上滑りしていること自体にどこか誇らしいとさえ思っていそう。このふたりには対話するつもりはなく、駄々をこねて、それが通らなければ実力行使をすることしか能が無い。

ところが{netabare}『Fate/stay night』{/netabare}の主人公は、彼の「空っぽさ」にそれ相応の重みを持たせるトラウマが刻まれている。もちろん、トラウマをトリガーにしてドラマを立ち上げることは、ストーリーテリングの世界で常套手段であり、それ自体目新しさもなにもないのはたしかである。これは逆にいうと、最低限のお約束をこの子が守っていることでもある。

ひるがえって上条当麻には、トラウマらしきものは見当たらない。いやこのサードシーズンで唯一触れられたそれに相当しそうなのは「記憶喪失」だろう。ただ、それも「インデックスに嘘をついてしまって申し訳なかった」というもので、世俗権力や宗教権力の向こうを張るにはあまりにも脆弱すぎる重石である。そんなささやかな質量では上条当麻の「空っぽさ」はあがなえない。

さらにレベル0である彼の能力、イマジンブレイカーのチートっぷりである。統括理事会にせよ神の右席にせよ、敵が練り上げるロジックに対して、上条当麻の反論はロジックですらなく、ただの駄々っ子の世迷い言でしかない。その世迷い言のあとでこの主人公はただひたすらチートな暴力で敵をねじ伏せていくというのが永遠に繰り返される定型である。

各クールごとに複数のエピソードが詰め込まれて、いろんな登場人物がこれでもかというほど登場するので、その都度目新しさがあるかもと期待するものの、上条当麻がメインで絡んできたエピソードの落としどころはいつもその理不尽な暴力なので、なんというか、もう脱力するしかない。頼むからもう画面にフレームインしてこないで欲しい、・・・とさえ思うほど。

長くなったので世界観設定の問題については割愛、・・・しようと思ったのだけれどひと言だけ。物語の舞台がどんどん広がるにつれて、ストーリィがどんどん大味になっていく。たとえばシーズン1「レベル6シフト計画」ラストのバトルみたいに、最初は細かな設定がきちんと噛み合っていたのに、シーズン3のバトルはもうなんだか、バカスカビームを打ち合っているだけ。

こういうファンタジー世界のバトルはこまかなSF的設定の機微で趨勢が左右されることこそ、醍醐味だと思うのだけれど、広がり続ける大風呂敷が際限なくなった結果、週刊少年ジャンプ的インフレーションがとどまるところを知らない。絵面は派手になる一方、ロジカルな理解はすでに霧散してしまい、残るのは上条当麻のゲンコツによる暴力のみ。なんだこれ。

以降はポジティブな点を。これほど、主人公に飽き飽きしているわたしが、それでもこのシーズン3にいたる長丁場のマラソンを完走できたのは、脇役たちの魅力のおかげである。とりわけ上条当麻をサポートする準主人公の一方通行と浜面仕上は、なかなかおもしろい。一方通行の魅力は人口に膾炙するところなので浜面についてすこし触れる。

浜面こそ、レベル0らしいレベル0。無力で才能もない、レベル0の不利をしてチートな暴力を執行可能な誰かとはちがい、彼は徹底的に無力であり、深いコンプレックスがあり、重いトラウマがある。その彼が、なんとかかんとかこの希有壮大な大風呂敷にもほどがあるストーリィになんとかかんとか爪痕を残し続ける姿は、たしかに惹かれてしまう。

この浜面仕上と一方通行はとても好対照を為していて、おたがい大切なパートナを守るため、それぞれのコンプレックスと、それぞれのトラウマと向き合い、世俗権力と宗教権力の正統性にあらがっていくその道筋はすごく説得的でもある。なんなら、彼らのパートナもちゃんと魅力的なので、いっそう、イイ意味で安心感のあるドラマが進む(王道ではあるけれど)。

ひるがえって上条当麻の場合は、彼のメインパートナのインデックス自身に、そこまでの魅力が無いのも痛いところ。その正妻の位置に立つのがインデックス以外なら、もしかしたらこの圧倒的に退屈な構造もすこしは揺らいだかもしれなかったのに。・・・最後の御坂美琴の扱い、あれはないんじゃないかなあ、あのシーンは主人公にヘイトを集める以外の効果があるのか。

いずれにせよ、千両役者が脇にふたりもついているので、まんなかのおこちゃまには一刻も早く退場していただきたいと思う。コアとしての空白の周囲で物語が沸き起こるという構造も理解はできるけど、それを続けていくなら、この空白に一刻も早く重みをもたせないと、エンターテイメント作品としてはどうにもならないだろう。

端的にいうと、古いのである。いまどきの「なろう系」はたしかにオリジナリティはないかもしれないけど、定石に則ったコアへの重みの付与は粛々と行っている作品が多い。オリジネータとしての『とある』にリスペクトを払うのはやぶさかではないが、もはや、アニメスタッフの努力ではごまかしきれないほど、作品そのものの古さが綻びとなって全編を覆っている。

あとは蛇足。アニメスタッフはがんばっていると思った。シーズン1や2と比べると、画は確実にアップデートされている。レイアウトをしっかりと取っているので、画面から空間がきちんと感じられて、それが日常芝居にもバトルシーンにもプラスの効果があった。キャラデザもあいかわらず秀逸。美術もあれほど場面が転換するのによく準備できている。りっぱすぎる。

だからこそ、・・・という話。関係ないけど五和と吹寄はかわいい。かわいいからこそ、どうしたって、リソースがもったいない。

衝撃:☆
独創:★
洗練:★★
機微:☆
余韻:☆

投稿 : 2020/03/28
閲覧 : 348
サンキュー:

6

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