「映像研には手を出すな!(TVアニメ動画)」

総合得点
80.0
感想・評価
583
棚に入れた
2214
ランキング
465
★★★★☆ 3.8 (583)
物語
3.8
作画
3.9
声優
3.8
音楽
3.7
キャラ
3.9

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ネタバレ

フィリップ さんの感想・評価

★★★★★ 4.1
物語 : 4.0 作画 : 4.0 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 4.5 状態:観終わった

創造する人々

アニメーション制作:サイエンスSARU
監督:湯浅政明、キャラクターデザイン:浅野直之、
音楽:オオルタイチ、原作:大童澄瞳

何かを一から作り出すときの高揚感。
制作で直面する妥協。
仲間たちと創作を終えたときの達成感。
限りある時間のなかでの苦悩。
観客の反応に対する喜び。
様々な感情が画面を通して表現される。

設定やイメージボード、演出、監督を担当する浅草みどり、
キャラクターと動きを手がける水崎ツバメ、
プロデューサーとして全体を仕切る金森さやか、
という芝浜高校に通う3人の女子高生が主人公。
誰1人が欠けても作品は完成しないが、
逆にいうと、3人が中心にいれば、
アニメーションを作ることができるという
理解しやすい設定になっている。

作品全体に流れているのは、
作り手の頭の中、創造力についてだ。
登場人物それぞれが、自分を形作っているルーツを
想起しながら行動するため、
キャラクターがより鮮明に浮かび上がる。
設定を考案する浅草みどりは、
自分の考えた世界を形にするために絵を描いている。
設定がいちばん大切なのだ。
そこにやがて「演出」という表現も加わる。
みどりの世界では、全てがアニメーションにつながる。
一度湧き上がった創造の泉が形をなし、
現実を水彩画風のアニメーションが侵食する。
この表現は、単純にとても楽しい。

金森さやかは、代々続いた親戚の酒屋が
消え去ってしまう現場に居合わせたことで、
マーケティングにこだわるようになる。
不利な条件の商売であったとしても、
人が求めるものを考えることで、
成功することが可能であることを学ぶ。
大切なものが失われるところを二度と見たくない。
そんな心情がシンプルな映像で表現される。
金森の特異な存在が、物語を進める原動力となっている。

いちばん共感したのは水崎ツバメの回だった。
特に7話は、何度も観てしまうほど気に入っている
人にはそれぞれ行動する原理がある。
{netabare}ツバメの場合、祖母がお茶を庭に捨てたときの
動きが全ての始まり。{/netabare}
人をつき動かす瞬間を目撃した。
そんな気持ちになる。
何かに気づいたり発見したときの胸の高鳴り。
全身の毛穴が広がるような
自分にとっての最高の「喜び」を見出すのは、
とても幸せなひとときだ。

何をもって「かっこいい」と思うのかは人によって違う。
しかし、良くも悪くもアニメは
全て作者が意識したもので出来あがっている。
強く意識しているものとしていないものとでは、
画面を見たときの印象が全く違う。
どこで、クローズアップや望遠で見せるのか、
どのように動くのか、そのときの構図は?

実写ではなくアニメーションでなければならない理由。
突き詰めると、動きの細部に注目するかどうか。
そのことによって、より強いインパクトを
視聴者に与えることができる。
アニメーションにとって何が重要かを
この作品は教えてくれる。

---大半の人が細部を見なくても、
私は私を救わなければいけない。
動きの一つひとつに感動する人に
「私はここにいる!」って言わなくちゃいけないんだ---

水崎ツバメの言葉。
これは正しくクリエイターという生き物のことだ。
そこには、こだわりとプライドが滲んでいる。
私は間髪入れずに7話を再視聴してしまった。
人の心を動かすものは理屈や損得だけでは計れない。
自分が面白いと思うことに対して
労力を惜しまずに行動できる人こそが
新しいものを作り出していくことができる。
何て素晴らしい物語だろう。

ただ、原作付きのため仕方のない面もあるが、
1話ずつのストーリーはとても面白いのだが、
全12話で考えたときの完成度が高いとは思えない。
次回につなげることをあまり考えていないし、
まるで、それをわざとやっているようにも思える。
また、演出や技術のことなどを語る方向性が
マニアックすぎて、多くの人を楽しませる作風ではない。
私は湯浅監督のほかの作品はチラリとしか
観たことがないので、断言はできないが、
観る人を選んでしまう共通点がある気がする。
それは萌え要素を排除したキャラ造形や、
情感に訴えるような表現が少ないことが
ひとつの理由かもしれない。
そして、表面的なストーリーを
二の次に考えているように感じる。
そこが、もう少し考慮された作りになっていれば、
私の中では傑作になっただろう。
また、時間の関係なのか分からないが、
掉尾を飾るアニメーションが今ひとつ。
理屈としては分からなくはないのだが、
作品として普通に面白くないように感じてしまう。
観ていて眠気に襲われるほどだった。

とは言え、原作の持つ魅力を最大限に活かし、
全話を通して、多くのクリエイターたちを
虜にしたのは間違いない。
物作りに携わる人、憧れる人にとっては、
心に響くリアルが、確かにここにある。
(2020年3月29日初投稿)

投稿 : 2020/03/29
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サンキュー:

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