「ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 ‐永遠と自動手記人形‐(アニメ映画)」

総合得点
87.2
感想・評価
517
棚に入れた
2554
ランキング
159
★★★★★ 4.3 (517)
物語
4.2
作画
4.6
声優
4.3
音楽
4.2
キャラ
4.2

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ネタバレ

USB_DAC さんの感想・評価

★★★★★ 4.8
物語 : 5.0 作画 : 5.0 声優 : 5.0 音楽 : 4.5 キャラ : 4.5 状態:観終わった

白椿 切なくも美しい二人の愛慕心

★物語
・原作 : 暁 佳奈
・監督 : 藤田 春香
・構成 : 吉田 玲子

泣ける作品として非常に好評だったTV版。確かに各話の繋がりや幾つ
かの疑問も存在しましたが、単話としての完成度、特に中盤以降は素晴
らしい内容でした。その魅力でもあった肺腑を衝く美しさ。この外伝で
はその部分を更に深く描き、そして極めて繊細に、圧倒的な作画と演出
力で高品質に纏め上げています。また新たなキャラクターの二人に焦点
を絞ることによって、TV版にあった不自然さをほぼ意識することなく
物語に没頭できる作品に仕上がっています。派手な演出を抑え、さり気
ない仕草や表情で伝える想い。京アニらしさが際立つ心温まる一作です。


★作画
・作画監督 : 高瀬 亜貴子
・美術監督 : 渡邊 美希子
・色彩設計 : 米田 侑加

一切手抜きが無い非常に手の込んだ作画と背景。光や風を効果的に用い
た作品。二人の距離をそっと近づける陽の光、風になびく髪や揺れる花
で感情を補うとても凝った手法。学園内を走る二人に差し込む木洩れ日
や湖畔に立つイザベラの風に舞う髪の動きは、何度見ても驚かされます。


★声優
・ヴァイオレット・エヴァーガーデン : 石川 由依
・イザベラ・ヨーク(エイミー・バートレット): 寿 美菜子
・テイラー・バートレット : 悠木 碧
・ベネディクト・ブルー : 内山 昂輝

テイラー役の悠木碧さんとイザベラ役の寿美菜子さん。姉と引き裂かれ
たテイラーの叫び、そして屈託のない笑い声。とても晴れやかでどこま
でも伸びて行きそうなイザベラの叫びなど、共に主役を飾るに相応しい
演技力で本当に圧倒されました。それにしても寿さんの声量はスゴイ。


★音楽
・ED :「エイミー」/ 茅原 実里
・音楽 : Evan Call

イバン・コールによる壮大で且つ透き通るようなオーケストレーション
が時代背景にとてもマッチしています。そして茅原実里さんが歌うED
曲「エイミー」。夜空に光るふたつ星を眺め、離れる妹を想いひとり寂
しく過ごすイザベラ。そして姉の幸せを願うテイラー。そんなふたりの
合言葉である「エイミー」。その想いを詠う美しい歌詞と歌声でした。


★キャラ
・キャラクターデザイン : 高瀬 亜貴子

今回主役三人に加え存在感を示していたベネディクト。つまらない仕事
だと日頃ボヤく彼が、それに憧れるテイラーによって次第に誇りを感じ
ていく。普段口悪しの彼が今回はとても恰好良く見えます。またTV版
では感情の未熟さが残るヴァイオレットが、細やかな気遣いや窘める姿
を見せるなど、より人間らしく成長していたことはとても印象的でした。
それと簡素だけど唯一しっかりとした歯を描いたテイラー。より健康的
で活発な印象を持たせるのに一役買っていたと思います。


[あらすじ:エイミーPART]
{netabare}
数年前、街の換金所の前である捨て子と偶然出会う。何気なく声を掛け、
ふと視線を逸らすと右指を掴まれる。未だ親指を噛む程のこの幼い少女
の小さな手。その瞬間、彼女はこの幼い子に新たな選択肢を与えたいと、
その絶望的な運命に復讐を誓い、貧しくとも共に生きることを決意する。

互いが姉妹と呼び合い仲睦まじく暮らす二人。とは言え、現実はあまり
に厳しいその生活。ある日、突如訪ねて来た父親と名乗る男から、ここ
を離れ自身の娘として名を変え生きる様迫られる。

実は富豪であるこの男の側室であった母親。だが、そのあまりに身勝手
で一方的な要求に対してそれを拒む選択も当然あった。しかし妹の本当
の幸せを真に願う想いから、彼女の今後の面倒を見るというその言葉に
縋り、自身の自由を身代わりにその望みを受けざるを得なかった。

その後、イザベラ・ヨークと名乗り隔絶された女学院で過ごすエイミー
の元に、侍女として雇われたヴァイオレットが訪れる。絶望感やその生
い立ちから未だ周囲に馴染めずにいる彼女は、同世代でありながら素養
の高さを見せるヴァイオレットに嫉妬心を露にする。しかしその誠実な
姿と優しさに触れる内、彼女を次第に友として意識する様になっていく。

三ヵ月にも及んだ教育期間を終え、デビュタントを無事に済ませた二人。
ヴァイオレットが学園を去る迄の間、互いの境遇を語り想いを深め合う。
そんな中イザベラはある一通の手紙を彼女に依頼する。そして過去の名
前を呼んでくれた友との別れを惜しみ、再び出会うことを心に願う。

孤児院で暮らすテイラー・バートレットに届けられたその手紙。文字を
読めない彼女に代わりベネディクトがそれを代読する。「何か困る事や
頼りたい事があれば自身を訪ねるように」そう記されたヴァイオレット
からの手紙。そして差出人の無いもう一通の手紙には「これは貴方を守
る魔法の言葉です。『エイミー』ただそう唱えて」とだけ記されていた。
その場を立ち上がり「ねーね」「エイミー」、そう小さく呟くテイラー。
遠ざかる姉との記憶が少しだけ呼び戻され、再び繋がれた瞬間だった。
{/netabare}

[あらすじ:テイラーPART]
{netabare}
その三年後、あの日幸せを運んで来てくれた郵便配達人に憧れ、何度も
読み返しボロボロになった手紙を携えひとり海を渡り、ヴァイオレット
と言う名前を頼りにC.H郵便社を目指すテイラーの姿があった。

ベネディクトに案内され、クラウディアを前にここで働かせて欲しいと
願うテイラー。しかし、まだ幼過ぎる彼女を疑いの目で見る彼に対して、
ヴァイオレットは是非その願いを訊いてやって欲しいと訴える。事情を
察し粋な計らいを見せるクラウディア。その後、テイラーの達ての希望
もあり、暫くは見習いとしてベネディクトの下で働くこととなった。

その境遇を理解するヴァイオレットの優しさを受け、不得意な読み書き
や女性としての嗜みを教わっていく。そして彼女の助けを借り、幼い頃
にシスターから聞かされた姉の記憶を頼りに、必至に手紙をしたためる。
その切なる想いと願いを聞き、姉の嫁ぎ先を調べるベネディクト。その
後、無事に所在を突き止め、テイラーと共に姉が住む彼の地へと赴いた。

しかし嫁ぎ先では素性を隠す生活を強いられていると言われるイザベラ。
無事屋敷へと到着した二人は彼女が姿を現すその時を待つ。暫くすると
裏口を出て一人湖畔へ向かうイザベラを目にし、ベネディクトはそっと
近づき手紙を手渡した。エイミー・バートレット。今は捨て去ったその
名前を呼ばれ、一瞬たじろぎながら手紙を手に取る彼女。そして差出人
の名前を見て驚愕し、日傘を落としその手を震わせる。懸命に綴られた
妹の手紙を読み、「良かった」そう何度も繰り返し涙を浮かべていた。

木漏れ日が差す草陰で、身を震わせながら嗚咽を堪えるテイラーを見て、
思わず胸を熱くするベネディクト。離れていても二人の強い絆は決して
失われていなかった。帰り際、本当に会わなくても良かったのかと彼は
問いただすが、彼女は彼を見つめ嬉しそうにこう話す。「ちゃんと一人
前の郵便配達人になったら、そしたら、その時自分で渡すんだ」。夕空
に向かい真直ぐ手を伸ばすテイラー。その目線の先には、きっと自由に
大空を舞う鳥たちの姿が見えていたに違いない。

野花が咲き乱れる美しい湖畔で、妹の名を思い切り叫ぶエイミー。その
晴れやかな姿と笑顔を、テイラーの元へとそよ風が運んでいく。優しく
揺れる美しい白椿。初めて姉と出会った時の様にクマのぬいぐるみの右
手をそっと掴み、窓辺で微笑む彼女がそこいた。
{/netabare}


[感想]

恐らく永遠に交わることは無い二人の住まう世界。そして時間の流れと
共に薄れゆく愛し合う姉妹の記憶。このままではいずれ解け散る二人の
想いが、ヴァイオレットとの出会いよって再び繋がれる。

鳥籠の様な貴族の暮らし。生きる理由を失い、笑顔を忘れた彼女に幽か
な希望を齎したヴァイオレット。過去に囚われ置き去りになるイザベラ
が「イザベラ・ヨーク」としての人生を認め、その後生き別れた妹との
絆を掴み直した彼女は笑顔を取り戻し、新たな人生を歩み出していく。

全く隙の無いストーリーに繊細過ぎる各々の仕草。そして温かな優しい
言葉。何気ない仕草や台詞がつい涙を誘う素晴らしい作品でした。

特に印象的だった前後半二つのパートそれぞれで姉妹とヴァイオレット
との主な交流を違和感無く反復させる手法。互いに髪を梳かす、共に身
体を洗う、星の話や基礎教育、二人がヴァイオレットに抱きつく姿など。
そして彼女に促され手紙にしたためたそれぞれの想いをベネディクトが
運び伝えていく。四人の繋がりを感じさせる見事な構成です。

また手を繋ぐシーンや空に手を伸ばすシーン、鳥が飛ぶ姿などで感情を
表し、ドラマに一層の深みを持たせているように感じます。

そして二人の名前も実に興味深い。イザベラの名の由来は「神に捧ぐ」。
まさに妹の幸せのために自身の自由を捧げた、彼女の運命を感じさせる
名前。そして男女共に良く用いられるテイラーはご覧の通り明朗闊達で
自由に生きる少女。最後に二人の想いを繋げるエイミーの由来は「愛」。
それは二人のキーワードであり、合い(愛の)言葉でもある。名付け親
の暁さんのセンスもまた実に印象的でした。

TV版の流れを汲むシンプルなストーリーではあるものの、多くの台詞
に頼らず、高度で繊細な演出によって描かれた美しいヒューマンドラマ。
視聴後の続編への期待は高まる一方です。

しかし優れた取り巻きに囲まれながらとは言え、処女作品がこのレベル
とは。しっかり纏め上げた藤田春香氏の手腕と芸術的センスに脱帽です。
個人的には最も気になる監督として今後も注目したい一人となりました。



以上、拙い感想を読んで頂きありがとうございました。

投稿 : 2020/09/29
閲覧 : 301
サンキュー:

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