「新世界より(TVアニメ動画)」

総合得点
87.4
感想・評価
3336
棚に入れた
15904
ランキング
149
★★★★☆ 3.9 (3336)
物語
4.2
作画
3.6
声優
3.9
音楽
3.9
キャラ
3.8

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ネタバレ

tag さんの感想・評価

★★★★★ 4.2
物語 : 4.5 作画 : 4.0 声優 : 4.0 音楽 : 4.5 キャラ : 4.0 状態:観終わった

こんなアニメあったんですね。世界観を真正面から構築する物語

かつてはこのようなアニメ企画が通ったんですね。世界観を真正面から構築し、その主題を問おうとするアニメかと。

1000年後だが、超能力を持った人々による退化した未来世界、違和感が漂う平和で牧歌的社会。徐々に解き明かされるその理由。驚くべき設定世界が徐々に明らかにになるドキドキとワクワク、深まる謎。今ではアニメにほとんどなくなったハードSFの醍醐味が味わえます。

前半は、映画「猿の惑星」の最初のエピソードを彷彿とさせる。宇宙飛行士たちが降り立った猿に支配される社会、言葉も喋れない奴隷階級の人類たち、ラストシーンで海岸に自由の女神を発見する衝撃。

今では、ここまでハードで、ある意味で「嫌な違和感」を感じさて世界観を感じさせる演出をするのは、企画として受けないと思う。いわゆる「ホモセクシュアル」などもあったりするのだが、世界観が明かされるにつれ、考えさせるものとなる。このような、前半は不思議な世界の「設定」として受け入れてきた違和感が、後半に向け、深く、重たい意味を持ってくる。

この物語、ハードSFとしても良く出来ているのだが、裏側の主題は「差別とは?」と「文明とは?」という重たいモノを内包している。そのあたりは、ラストシーンに現れる。これもまた魅力の一つだと思う。

{netabare}
ラストのメッセージに「想像力こそがすべてを変える」とあります。物語中、この「想像力」は悪い方向に、差別というか区別を生み出す。We(我々=能力者&ボノボ的平和主義者)とThey(彼ら=非能力的存在&ホモサピエンスが本来持つ攻撃性)です。攻撃性が退化したWe側は文明を捨て、逆にThey側は文明を求めます。

一方、ラストの希望は、この「想像力」によってこそ、差別を無くし、恐怖より希望を、差別より共同を、平和的ボノボより攻撃的ホモサピエンスを目指すということかと思います。想像力なら変えられると。しかし、主人公(We側)は最後、They側の首謀者を殺します。苦しみから解放するためとは言え、同胞を殺した際の自死プログラムは発動しませんでした。差別は残っていました。主人公は、1000年後に向けて手紙を書きます。自分の想像力では変えられなかった差別や文明退化の無い世界を目指して。でも答えは、この物語では示されません。ラストシーンによって、現実世界の人種差別、階級差別はこの物語で起きていることと実は同じで、設定が異なっただけ、構造は同じではと思えてきました。おそらく、人種差別も階級差別も数百年規模ではなくならない。

物語ではダイレクトに説明されないのですが、いろんなことを想い、考えました。

能力が自身を滅ぼすほどであったため、自身を遺伝子改変し、ボノボ的な牧歌的平和主義者とし、攻撃抑制と自死プログラムを導入。それにより攻撃性を失った人類文明は退化。劇中、主人公たちの行動について、「バカ感」が漂います。無垢で、お花畑なのです。ゆえに文明は進歩せず退化する。でもたまに生まれる突然変異(ホモサピエンス的攻撃性)は排除し、能力の低いモノ(Weではない)も排除する。能力の無いものはバケネズミでないといけないから。ほっておけば、能力の無い人間集団が形成され、彼らがホモサピエンス的攻撃性を持ては、自死プログラムの無い能力者の驚異となる。まさに優生学です。忌避すべきものですが、もし自滅するほどの能力があるという前提下ではどうでしょう。不可避なのかもしれません。

一方、非能力者の人間は、ホモサピエンス的攻撃性を持ち、ボノボ的能力者を脅かします。これもまた、遺伝子改変により、知的能力、運動能力を抑制、能力者によって排除できるようにし、自死プログラムを作動させないために、見た目も人間とは程遠い存在に。これもまた優生学。しかし、これで、永続する社会が構築できたことになります。好きか嫌いかは別にして。

ネアンデルタール人とホモサピエンスは同時に存在していました。しかし、ホモサピエンスが残り、文明を形成しました。攻撃的であったからです。攻撃性は、文明を生み出します。もし、ホモサピエンスの攻撃性が、自身を滅ぼすほどであったらどうでしょう?”適度な”攻撃性が文明の”継続”を生み出したと言えるのかもしれません。過度な攻撃性を前提とした場合、この物語が提示する世界も一つの回答かもしれません。でも、これは、教育を重視し、戦争・犯罪を否定、平和と共同を善とする。まるで先進国の現在の社会システムです。先進国は、核を持たない国々に核を広げず、経済的にも発展の機会を閉じる。脅威を生み出さないために。まさに、We(先進国)とThey(途上国)。この物語を見ると、文明の在り方まで考えてしまいます。
{/netabare}

とは言え、
物語として、ハードSFとしての面白さと、様々な副次的なことを考えてしまう、プロットの深みも相まって、傑作と言えるのではないでしょうか。

投稿 : 2020/08/03
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サンキュー:

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