「日本沈没2020(Webアニメ)」

総合得点
57.1
感想・評価
134
棚に入れた
395
ランキング
6926
★★★☆☆ 2.6 (134)
物語
2.3
作画
2.5
声優
3.0
音楽
2.9
キャラ
2.4

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ネタバレ

蒼い星 さんの感想・評価

★★☆☆☆ 1.9
物語 : 1.0 作画 : 1.5 声優 : 2.5 音楽 : 3.5 キャラ : 1.0 状態:観終わった

大麻大好きアニメ。

【概要】

アニメーション制作:サイエンスSARU
2020年7月9日にNetflixで配信開始された全10話のwebアニメ。
原作は、470万部を記録した小説家の小松左京によるベストセラー小説『日本沈没』
であるが、共通点は日本が沈没するの一点のみで、
時代設定・登場人物・ストーリーなど、ほぼオリジナル作品。
監督は、湯浅政明。

【あらすじ】

2020年の東京オリンピックが何事もなく無事に開催されて終了した世界線の話。
物語は、同年9月に日本中を大混乱に陥れた巨大地震から始まる。

武藤家の長女で中学3年生である歩(あゆむ)は有望視された女子陸上選手である。
彼女は競技場で他の女子陸上部員らと練習をした後、
集まってコーチの話を聞いている最中に大きな地震と遭遇。
コーチの指示で速やかに更衣室で着替えて帰宅しようとしたところ、
激しい余震で人や物が宙を舞い、照明が落ちたたりロッカーが倒れる中、歩は気を失う。
歩が目を覚ますと真っ暗な更衣室には血まみれで変わり果てた部員達の姿があった。
ショックで気が動転した歩はロッカーにぶつけて足を負傷しながら、その場から逃げ出した。

日本中が似たような状況であり、建物が崩壊して黒煙が立ち上る。
寸断された道路には瓦礫が散乱。膨大な人数の死傷者が出て社会機能が麻痺していた。

歩は避難場所の校庭で家族を捜すが見つからず、目印で父親がいると確信した山上の神社に向かった。
小学2年生の弟の剛(ごう)、そして日本人の父・航一郎とフィリピン人の母・マリの一家4人が勢揃い。
近所の頼りになるお姉さんの七海、隣に住む引きこもりの若者の古賀とも再会する。

地震と二次災害の大火災で住めなくなった東京の街から他の住人たちと一緒に避難の旅が始まった。
水没する日本列島を安全な場所を求めて移動する彼らではあったが、
行き先をめぐり意見がわかれて歩たち6人だけが他の避難者たちとは別行動になった。

歩たち一家を待ち受けていたのは、容赦なく次々と追い詰めてくる生命の危険と極限状態。
そして、救いや安寧を求めようとする人々の姿。そして、唐突で凄惨な別れの数々であった。
これは、絶望的な状況の中で懸命に生き延びようとする人間たちの物語である。

【感想】

原作小説は、国を指導する政治家と科学者の視点で祖国を失った日本民族の行く末を考えるという、
大局的な視野に立った仮想歴史作品ということですが、
このアニメは災害パニックアクションドラマと全然別物であり、
陸上選手として有望視されている日比ハーフの中学生からの視点の、
自然災害の渦中にある人間たちによる物語が志向されています。

ずばり!賛否両論どころかネットでの評判はかなり悪く、
反日的な内容だのネトウヨみたいなことを言ってるだの両陣営から叩かれていますが、

自分の見たところ、生まれた国だからと国籍には帰属意識以上には大した意味はない。
自分は日本が好きだから日本人でありたいとナショナリズムとは好みや思想の問題であるとし、
日本民族をDNAや血統ではなく概念として扱っていますね。

原作小説のテーマは「日本人が国を失い放浪の民族になったらどうなるのか」ですが、

このアニメでは武藤歩と武藤剛の姉弟は日本人であると同時に半分はフィリピン人であり、
個人的な意見としながら登場人物のひとりに『日本なんて嫌いだ』と嫌悪感を散々口に出させて、
行ったことがない北欧のIT先進国のエストニア共和国に過剰に幻想を抱かせてみたり、
日常会話では小池百合子都知事以上に不自然に英語を混ぜてみたりで、

インターネットで世界中がつながっていてルーツや言語や文化の壁を超えて情報が発信できる時代に、
日本らしさを守ろうとするのは、まるで年寄りくさくて時代遅れみたいな価値化。

作中の登場人物の姿に共感させてリベラル(自由主義)とグローバリズム(世界の一体化)の思想に、
視聴者を取り込もうという狙いが脚本にあるのではないでしょうか?

制作プロデューサーの崔恩映(チェ・ウニョン)とシリーズディレクターの許平康らによる、
海外から日本を見た思想がアンサーに肉付けされており、
それを観た日本人からは本当に受け入れられていないですね。

何故そうなるかというと、非常時に利己的でギスギスした日本人の姿が何度も何度も描かれており、
もともとに自然災害が多い国土で現実に2011年に大震災を経験した記憶の新しい日本人が見れば、
薄ら寒いフィクションとして違和感を覚える作りになっているからですね。
現実ではモラルが高いとされている日本人も、
このアニメでの架空の日本では非常事態に人間性が顕になり差別的で罪を犯すことを強調されており、
人間の善悪の両面をドラマにしたかったのかもしれません。

しかしながらシナリオが荒唐無稽で、『そうはならんやろ!』な展開の連続で、
シリアスなドラマとして観られない。そこに、このアニメの致命的な弱点がありますね。

武藤家の家長である航一郎は陽気で頼りがいのある男として描かれており、サバイバル知識も豊富。
それが第2話にて食料を確保しようとして山中にて、たまたま山芋を見つけて掘りすすめていくうちに、
たまたま第二次世界大戦での米軍が投下していって、たまたま山中に埋まっていた不発弾に、
たまたまシャベルがぶつかったために航一郎は木っ端微塵にバラバラに吹っ飛んで死亡。

何故、父・航一郎が天文学的な確率の運の悪さで死ななければならなかったのか?
まず航一郎が生きていると全部自力で目の前の困難を克服してしまう。
ストーリーの邪魔だから退場してもらった。このように結果ありきで、
そもそも地震とは無関係な不発弾で雑に航一郎を殺処分していて、
その後の展開も、次々とスナック感覚で登場人物の死亡展開の繰り返し。

その展開に既視感を覚えると思ったら、これは『樹海少年ZOO1』などの、漫☆画太郎先生だ(笑)

・一家が出会ったスーパーを経営する優しい老人が重度のモルヒネ中毒で薬が切れると暴れる。
・主人公一行の女性に性的暴行を加えようとする名無し男性の日本人が度々登場する。
・主人公一行で毒ガスで唐突に死人が出るのだが、犠牲になった彼女が以後あまり思い出されない。
・謎のカリスマyoutuberのカイトが出現して、ストーリーを動かすデウスエクスマキナ化。

特に凄いのが怪しげなカルト施設(山奥の大麻宗教ユートピア)編で第3話~第6話と尺を大量に使って、

引きこもり青年の古賀がカルト施設で提供された大麻カレーを食べて『お母さんのカレーの味だ』
と地震で目の前で亡くなった母親を思い出しては涙を流して顔面をぐちゃぐちゃにする。
歩たちも変わった味としながら大麻カレーを食べることに抵抗がない。
その古賀青年がドラッグパーティーでハッピーになってラップを歌ったり勤労意欲に目覚めたりで、
カルト宗教と大麻の力で生きる希望を与えられて脱引きこもり化して、
大麻の栽培に喜びを感じるというシュール過ぎる展開。

他にも、マギー審司の持ちネタ丸パクリの面白くない外国人が出てきて、
これが笑うところなのかしんみりするところなのか意味不明で見ても感情が動かなかったり、
カルト教団トップの中年おばさんの嬉しくない濡れ場があったりとカオスな展開だらけ。

怪しげな集団ではあるが食べ物と住居を提供されて危害を加えられたわけでもないのに、
単なる思い込みに基づいたとある目的で前述のヤク中の老人が、
自動走行の車椅子に乗って鼻歌交じりに弓矢で、ためらいなく教団の人間を次々と射殺していく、
殺される側の教団のメンバーも拳銃を所持していて発砲したりする。
(しかもその老人が『本当はわかっていた』と思い込みを自覚していた旨を後に言いますが、
それでも殺人をためらわなかったという狂気)

更には非常時に金を巡って教団内で仲間割れを起こして、濡れ場おばさんが刀を持って戦うわで、
エログロ麻薬トンデモ展開を詰め込んで日本人のアイデンティティを問われても困りますよね。
これのどこが日本人のリアルな心情に寄り添った災害アニメなんですかね?

濡れ場おばさんの息子(イタコ)が登場。 → 特に彼にまつわる深い話も描写もない。 
→ 『おかーさーん、ありがとー』『喋った…』『奇跡だ…!』(ぐしゃっ)
シリアスに作ったつもりが増田こうすけの『ギャグマンガ日和』みたいな作画と、
余韻のかけらも無い殺風景な演出のままに、地震の際の瓦礫事故であっさりとはい!死にましたー。

代表的な一例がこれですが、キャラの消費ノルマを消化していくだけの雑な死のループの構成は、
人間描写が全く掘られて無くて恐ろしく雑で視聴者に対して不親切過ぎるシナリオの問題で、
命を落とす登場人物の心情の生き様や考えについて想像を働かせるには不十分で、
そのために視聴者に生命や倫理について考えさせるには描写も効果も薄く、
ウケ狙いのトンデモ展開にしか結果的にはなっていませんね。

これをシニカルなギャグアニメとして描いてるのならともかく、
そもそもこれは、『日本沈没』の本来のテーマとは一切合切不必要で関係がないお話ですよね?

大震災の被災者の目線で物語が進んでいく『東京マグニチュード8.0』は観てないのですが、
平和で穏やかな日常を丁寧に描き、それが空襲などで壊されていく。
それでもへこたれずに強く生きていくという、『この世界の片隅に』などと比較すると、
人間ドラマを主張するならば、やってることの次元が低すぎてバカにされても仕方ないかと。

こんなことになるなら最初からパロディ的なものとして統治機構が崩壊した架空日本を舞台にした、
シュールギャグアニメとして漫☆画太郎先生がキャラデザをしていれば、
ネタアニメとして少しはマシだったのかなと、
普通の日本人の普通の価値観からかけ離れた内容に思ってしまいます。

日本沈没からの一家族のサバイバル物語であるはずが、
途中で余計な寄り道をして色んな要素を詰め込みすぎて一つ一つの要素が消化不足。
結果としてジェットコースター展開の連続でストーリーの杜撰さが輪をかけて物笑いの種になって、
日本沈没どころか湯浅沈没になりかねない出来になっていますね。

大麻で統制されたカルト団体編で散々寄り道したあとで話がサバイバルに戻りますが、
港にたどり着いた主人公たちの目に映るは、
選民思想で救う生命の選別を行う行政やら純血主義で日本人だけを助けようとする右翼団体。

それは外国人の目から見た排外主義への、あからさまな政治的メッセージ。
何故その政治的メッセージに自分が疑問を抱くかというと、

現実で日本が自国の権益を守ろうとするのを、
架空の生命の選別の話で歪んだナショナリズムとして拡大解釈して描き、
『日本人は外国人を差別するな!』と、作中にて否定にかかる。

現実の話になると、国や民族の関係は相互主義ではじめて対等になれる。
そのための協定であり、政治の役割がそこにある。

一方で日本国籍を持たない外国人に門戸を開いて、
日本人と平等の権利を与えろとの一方的な主張は、

『じゃあアンタの国では日本人はどういう扱いなんだ?』で大抵が説得力を失う。

現実と虚構をまぜこぜにしてとにかく『外国人サベツ反対!』と印象付けようとする。
その認識の浅さがまた、日本人の視聴者からの失笑を買っている部分ですね。

日本人にも良いところはある!と一応は両論併記っぽくしておきながらも、
『日本は素晴らしい!』『日本サイコー!』と日本を褒めるときは概ね台詞のみで、
日本人を悪く扱うときは悪い日本人を出してたっぷり尺を割いて映像で表現している。
と印象操作が割とダイレクト。散々非現実な内容で日本だけを貶しておきながら、
最終回付近にて、とってつけたような日本賛美をするも既に手遅れですね。

このアニメの構成の駄目なところを象徴するのが主人公の武藤歩の左脚。
第1話で負傷した後、家族と合流しても老人のスーパーで寝泊まりしても、
カルト団体に立ち寄っても一度も治療すること無く放置して感染した傷口が悪化して、
最終回で切り落とすことに。8年後に義足をつけた主人公をパラリンピックに出して、
日本は沈んだけどそれでもめげずに日本人は頑張っている姿を見せる。
海の底から再び戻ってきて将来的に復興する日本の不屈のシンボルとして、
感動シーンをでっち上げたラストありきの不自然な左脚放置の展開。

主要人物からモブにいたるまで人間の扱いが結果ありきで過程が雑に過ぎ、
そのなかで展開の都合で次々に死んでいく人たち。そこに盛り上がりはありません。
シナリオの悪さと同時に、キャラ付けの重大な要素であるはずの作画も酷いこともあって、
登場人物の泣いたり笑ったりにイチイチ共感できないのは災害アニメとしては致命的であり、
牛尾憲輔氏による劇伴を除いては全方面のレベルが低い作品。

名作と言われる小松左京さんの『日本沈没』の愛読者からみれば、
オリジナルでやれ!ふざけるな!と言われる出来でありますし、
こんなものを作ってしまった挙げ句に、

『配信が開始されると内容に非難も巻き起こり、
 意図したところにたどり着かない視聴者も多く見受けられました。』
『登場人物と一緒に苦難を乗り越えてください。』

と、自分の作品が批判だらけで人気が得られなかったのは、
表現物として人間描写が雑な上に作品が至らなかったのを棚に上げての、
無理解な視聴者のせいだと言い出す始末。こう考えるのはクリエイターとしては危険信号であり、
監督の湯浅政明が心配になるというのが正直なところでした。


これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。

投稿 : 2020/11/14
閲覧 : 983
サンキュー:

57

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