「ラブライブ!サンシャイン!!(TVアニメ動画)」

総合得点
73.7
感想・評価
841
棚に入れた
3382
ランキング
967
★★★★☆ 3.6 (841)
物語
3.3
作画
3.8
声優
3.5
音楽
3.8
キャラ
3.6

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ネタバレ

くろゆき* さんの感想・評価

★★★★★ 4.8
物語 : 5.0 作画 : 5.0 声優 : 4.0 音楽 : 5.0 キャラ : 5.0 状態:観終わった

今から0を100にするのは無理だと思う。でも、もしかしたら1にすることはできるかも。

私は登場人物が多い作品は、それぞれの名前や性格などの特徴が頭にインプットされるまで相当の時間を要するのですが、本作はすんなり入ってきました。
ただキャラクターの特徴を機械的に説明していく作品が多いですが、本作はそうではありませんでした。
過去に様々な悩みや苦労、葛藤を経験した上で現在に至るという流れがしっかりしているので、自ずと人間味のある魅力的なキャラクターが出来上がっていきます。
千歌の「普通で居続けることの恐怖」というものなどとても哲学的で、誰しもが抱く恐怖だと思います。
「ラブライブでは誰が推しキャラ?」などと、私の周りでも話題に上がります。
ただ推しの基準というのは見た目や性格ではなく、今に至るまでの成長の過程だと思います。
私は自らの人生の道程と、Aqoursのメンバーの道程とをオーバーラップさせながら視聴していました。
それぞれのキャラクターの成長ストーリーを丁寧に描くことで、ヒロインたちは魅力的になったのだと思います。
また、一年生、二年生、三年生で、それぞれのストーリーを別進行させていったことも、登場人物を把握するのを容易にさせたのだと思います。
前作に劣らず、登場人物は大変魅力的でした。

μ'sが、山口百恵さんのようにふっと現れ、花火のように眩い閃光を放ち、さっと消えていったアイドルだとすれば、Aqoursは色んな人に支えられ、背中を押してもらいながらやっとこ這い上がってきたももクロのようなアイドルだと思います。

6話目までの彼女たちは、伝説的なアイドルμ'sに憧れるただの少女でしかありませんでした。
学校の統廃合の危機を救う行為が、何か行事を楽しんでいるだけように映りました。
メンバーの中には統廃合に賛成している者すらいたはずなのに、あの一体感と熱量には違和感を覚えます。
「あの憧れのμ'sと同じことをしているよ!」そんな姿は自惚れにも見て取れます。
μ'sの場合、ラブライブでの優勝が絶対の目標であり、そこに向かって必死で訓練し見事優勝。
その結果、運よく学校が存続しただけです。
一方、Aqoursは「学校の未来は私たちが握っているの。だから町の皆さん、私たちに協力してください。」とでも言いたげな振る舞い。
ラブライブでの優勝と学校の存続、どちらを優先させたいのか、よく分からなくなってきます。

方向性の定まらない地方の夢見る少女たちは、東京の大会で投票数0票の最下位に沈み挫折を味わいます。
この大会を契機に彼女たちは変わっていきます。ストーリーも、ここから面白くなっていきました。
個人個人がグループの枠にとらわれず、力を発揮するようになっていきます。
千歌と曜の2人で踊るダンスを作り直す場面など、今までに見られなかった展開です。
アイドルグループとしての個性のようなものが出てきました。
μ'sの呪縛から徐々に脱却し、ラブライブでの優勝よりも自由に走り0を1にすることを目指し進み始めた彼女たちは、
輝きを増していきました。

私は本作の最も特出すべきところは、視聴者に媚びない点だと思います。
彼女たちは一度として視聴所に対し、目を向けることをしませんでした。
画面の中で淡々と繰り広げられる様子はとても自由気ままです。
常に視聴者目線を気にしている作品が多い中、本作は一度もこちら側に問いかけてくることはありませんでした。

それが特出していたのが最終回です。
ステージ上で1話から最終話までの成長過程を、全て言葉で説明してしまいました。視聴者からしてみれば、全く無意味なことです。
最終回だけ観れば、他の回は観なくて良くなってしまいますから。
唖然としました…こんな唖然とした最終回は初めてかもしれません。
その他、いきなり一緒に参加したいと言ってきた生徒に対し、一つ返事でOKしてしまったり、メンバー以外ステージに近づいてはいけない決まりなのに、みんな押し寄せてきてしまったりともう滅茶苦茶。
これはもはや大会ではなく、Aqoursのワンマンショーです。視聴者は完全に置いてけぼり。
Aqoursのメンバーに思いを馳せて最終回まで視聴してきた視聴者は、困惑するかもしれません。

画面の中の様子を観る限り、メンバーは皆、自由に走っていました。
最後の大円団も、私たちは学校の生徒や町の住人と共に成長してきたのだということを示しているのだと思います。
もうμ'sの影を追っていたあの姿はありません。一アイドルグループとしての姿でした。
Aqoursの発足から現在に至るまでの成長過程を映像で説明したものが、最後の大円団そのものなのだと思います。
ただこの大円団の中に視聴者は入れない。Aqoursのメンバーは視聴者を招き入れてはくれないのだから。
私自身も、孤独にさいなまれながら視聴していました。

本作がここまで視聴者に媚びない理由、これは昨今のアイドル業界へのアンチテーゼなのかもしれません。
元来アイドルとファンというのは、遠い関係でした。
南沙織さん、山口百恵さん、松田聖子さん。誰も神々しいほどに輝いていて、ファンが近寄れるはずもありませんでした。まさに偶像です。
ファンもそれを分かっていて、遠くから温かく見守っていました。
しかし、いつの頃からかアイドルとファンとの距離は近くなっていきます。今では、気軽に握手が出来るまでになっています。
時として、ネット上でアイドルが誹謗中傷を受けてしまうような事態も発生しており、立場の逆転現象まで起きています。

本作ではそれをさせなかった。旧態依然のアイドルとファンとの関係に戻しました。
それによって、Aqoursは大衆の偶像になれたし、ただの地方の少女の集まりで終わることがなかったのだと思います。
Aqoursと視聴者やファンとの間に、あえて壁を作ったスタッフは勇気があると思います。
アイドルをリスペクトして制作されたからこその、視聴者に媚びを売らない演出になったのだと思います。
私は評価されてよいのではないかと思います。

CGを駆使したパフォーマンスシーンは、前作に比べると違和感なく観られたのも良かったです。大分動きが滑らかになっていました。

今まで色々なアニメを観てきましたが、ここまで作品に対して感情移入が抑圧されたのは初めてかもしれません。
真のアイドル像を求め、昭和に原点回帰したようなアイドルとファンとの関係性を示した稀有で実験的な作品でした。
またそのような作品が、若者を中心にラブライブ現象を引き起こしてしまったのだからから興味深いものです。
地方のただの夢見る少女たちが、一つのアイドルグループに成長したところまでが本作でした。

投稿 : 2020/08/30
閲覧 : 214
サンキュー:

3

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