Fanatic さんの感想・評価
4.9
物語 : 5.0
作画 : 4.5
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
「聖夜祭(19話)」を思い出すだけで。゚(゚´Д`゚)゚。 ブワ
高校生の男女(主人公)が、ある出来事をきっかけにそれぞれの片想い相手を知ることになり、その相手がお互いの友人であったことから、それぞれの恋愛が成就できるよう協力関係を結ぶことになる、というのが1クール目の内容。
2クールでは、協力関係を続けるうちに、お互いにかけがえのない存在になっていく二人の関係が描かれていきます。
王道ラブコメの傑作と紹介されていることも多いですが、コメディ要素が強いのは前半で、後半はシリアスな展開が増えてきます。
そして恐らく、原作や制作サイドが見せたかったのは登場人物の本音がぶつかり合う後半なのでしょう。
2周3周と視聴を重ねるうちに、コメディ色が強い前半においても、後半への伏線となるような描写が多数散りばめられていることに気がつきます。
メインキャラクターは男女5人。多いとは言えませんが、それぞれキャラは非常に濃いです。
メインヒロインの大河(たいが)は、小柄な体格ながら、常に木刀を持ち歩くような凶暴な性格で知られており、いわゆる暴力系ヒロイン。
泣き虫でドジっ娘という側面も見えてきますが、家事が苦手で部屋はゴミだらけというがさつな私生活の描写もあり、のっけから視聴者をふるいにかける癖の強いヒロインです。
彼女を好きになれるかどうかで大きく評価が分かれそうなので、一話で合わないと思った方は退場が懸命かも?
本作の主人公竜児(りゅうじ)は、目つきの悪さから怖がられることも多いですが、中身は至って普通の男子高生。
最終的には3人のヒロインから好意を持たれる展開になるんですが、ヒロインたちの様々なシグナルに対してとにかく鈍感です。
いわゆる難聴タイプで、もしかするとイライラしてしまう人がいるかも。
ただ、単なるハーレムものではもちろんありません。みな、人間臭いキャラクターばかりで、かなり内省的な内容になっています。
物語は大河と竜児の絡みを中心に進みますが、前半のキーマンとなるのは竜児の片思い相手で大河の親友でもある櫛枝実乃梨(みのり)でしょう。
明朗快活な性格ですが、会話の端々にしょうもないネタを混ぜるなど、天然でマイペースな一面も。
ライバルヒロインですが、思わず竜児とのハッピーエンドを応援したくなるくらい良い子です。夫婦漫才のようなノリの大河と竜児に、明るい実乃梨を加えることで『THE・ラブコメ』といった展開が続きます。
後半のキーマンは川嶋亜美。
登場当初は本性を隠し、うわべだけで人間関係を築くような二面性を持ったキャラですが、竜児達と関わることで徐々に本音を見せるようになります。
後半では逆に、大河や実乃梨の本心を鋭く見抜き、竜児も含めた三人の煮え切らない態度に対して毒を吐くようなシーンも増えてきますが、結果的にそれが三人の関係を前に進めるきっかけにもなります。
癖の強い3人のヒロインですが、ストーリーへの貢献度はそれぞれ非常に高く、それぞれの内面をぐいぐい抉っていく内容はさすが女性の作者さんだと思いました。
煮え切らない実乃梨に対して亜美が突っかかっていき、殴り合いのキャットファイトに発展する流れなんかは、男性原作の作品ではなかなか見られない展開だと思います。
反面、竜児の親友で大河の片思い相手でもあった北村祐作の扱いについてはやや中途半端な印象も。
もう少し、男友達という立場から竜児を絶妙にアシストするような場面が欲しかった所ですが、その辺りの描き込みは逆に女性作者の不得手な点かも知れません。
{netabare}後半、3人のヒロインがそれぞれ竜児に惹かれていくことになりますが、そのように気持ちが変化していった理由やフラグとなる出来事は明確にされていません。
しかし、だからといってご都合主義的な印象もありません。個人的には寧ろ、とても自然な流れのように感じました。
学生時代のクラスメイトと言うのは、気持ちの所在がどうあれ、強制的に近い距離で共同生活を共にすることになります。つまり、自然に惹かれ合うのを待つだけの十分な時間がある時期なんですよね。
何かしらのきっかけで突然気持ちが変わる……ということもあるかも知れませんが、それよりも気がついたら惹かれていたという方が多かったと思います。
そんな、学生時代特有の空気感というか、ゆったりとした心情の変化がよく描かれています。
ただ、メインヒロインの大河に関しては、徐々に竜児に惹かれていった本音が、19話「聖夜祭」で如何なく描き出されていました。
竜児が去った後、これから竜児の隣に並んで歩くのが自分ではないと悟った大河が、ようやく自分の本当の気持ちに気付いて……いえ、もしかすると少し前から覚悟を決めていたのかも知れませんが、思わず冬の夜に駆け出し、抑え切れなくなった竜児への想いを叫ぶシーンは本当に胸に刺ささりました。
いつのまにか、自分でも気がつかないうちに竜児をかけがえのない相手として見るようになっていた大河の溢れ出る想いが、表情や行動に本当によく集約された名シーン。
私も、大河の気持ちと完全にシンクロして、思わずボロボロと泣いてしまいました。
そんな大河の様子を偶然目撃してしまった実乃梨がその後に取る行動も、彼女の心情を慮るととても切なかったです。{/netabare}
全体を通して各キャラの心情描写に関しては非常に優れている作品ですが、中でもクリスマス前後の展開は秀逸で、それだけでも最高評価に値しますが、2クールながら中弛みのないテンポの良さ、引きの強い脚本、シナリオとマッチしたOP&EDなど、あらゆる面で非常に完成度の高い作品でした。
原作者の竹宮ゆゆこさんは、高橋留美子さんの描くラブコメの世界観に大きな影響を受けたと語っておられます。
確かに、プロットは全然違いますが、「めぞん一刻」なんかの空気感にかなり近い気がしますし、めぞんが好きな方なら本作も合うのではないでしょうか。
お気楽に笑えるだけのラブコメではありませんが、ストーリー性と心情描写がしっかりと描かれた恋愛ドラマを堪能したいのであれば、本作は文句無くお勧めです!