waon.n さんの感想・評価
4.8
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 4.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
上? それとも、下? 物語はまだ途中
【First impression】
世代的に、『聖者の行進』や『未成年』、『人間・失格』などを観ていたので、超絶うれしいんだが、プロデューサーはよく引っ張り込んだものだ。
公式にも載っていたけれど、たしかに彼の作風はコンプライアンス的にひっかかりそうなものを扱うので、この選択はむしろ遅かったのではとも今となっては思う。
ともあれ、切れ味抜群な作品になることは請け合いだろう。さらに制作会社は“CloverWorks”最近ではクオリティの高い作品が多い印象だから安心してみることができる。
存分に堪能させていただくとします。
【Story synopsis】
少女には悩みがある。悩みなんてだれにでもある。生と死の付きまとうその悩みの根源を知るために彼女は卵を割る。
自殺してしまった友人の死の理由を聞くために。
同じような悩みを抱えた少女たちが出会い。それぞれの悩みを打ち明ける。誰にも言えなかった目的を打ち明ける。信頼できる仲間だから。
それぞれに違う悩み、そして、目的を持ってそれを果たした時、予想もつかない展開へと物語は動き出す。
【Staff】
原案、脚本 野島伸司
監督、演出、絵コンテ 若林 信
色彩設計 中島和子
この作品を話すうえで、まず外せないのが野島伸司。
このレビューを書く時にキーワードを書き出して、カテゴリー分けしたりする作品がいくつかあったのですが、これも例にならっています。
そのキーワードの多さは今まで『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』が多かったなーって印象でしたが、こちらはそれよりも多いです。うまくまとめられる気がしません。
やはり、原案の野島伸司さんの作品に込めるテーマとそれを伝える為の手札の多さがすごい。様々な角度から一つのテーマへつなげていく手腕は素晴らしいの一言しかでない。
そして、その重たい内容をアニメーションとして、面白く、しかしその大事なテーマ性を軽く見せない微妙なバランス感覚を持って監督をされた若林さんは作品に対してしっかりと向き合っていたのだろうと思います。
そして、色彩設計の中島和子さん。
この作品って色が強いんですよね。効果的ともいうのかもしれませんが、どう効果的なのかを私の知識では説明できないので、「色が強い」くらいのふわっと感でごまかしていきます。
赤は止まれ、青は進め。黄色は注意。
赤はリーダー、青は冷静、黄色はひょうきん、緑は癒し、ピンクは慈愛。
ダイは青、ポップは緑、マァムは赤、ヒュンケルは紫、レオナは白。
色には意味があり、込められた意味があります。
とはいえ、この作品に色によって込められた何かがあるとして、それを感じ取るまでには至ってなかったりもします。
単純に色の強さが他の作品よりも強く出ているところと、弱く出しているところがあって面白い使い方だなと思った次第なんです。
参加された作品を調べてみると、私の好みの作品に結構参加されていました。『あの花の名前を僕たちはまだ知らない』『SAOⅡ』『四月は君の噓』『ダーリン・イン・ザ・フランキス』『Fate/Grand Order 絶対魔獣戦線バビロニア』などなど、そこまで好きではなかったかけれど、今思うと確かに良い色だったなと思う『オカルティックナイン』
これまで、あまり色を作る人に関してあまり注目していませんでしたが、これからは注目したいなと思っています。
時間があれば、その点に注意してもう一回この作品を見ても良いかもしれないなぁなんて思っています。
【Review】
期待値があまりにも高くなっていた本作ですが、とりあえずそれをしっかりと超えてました。ありがとうございます。
内容も、絵も、画も、演出も、音響も、音楽も、撮影も素晴らしかったです。完成度という点において、ここ数年で最高峰のレベルでしょう。
アニメの作りについて良く分からんので、これまで観てきた他の作品と相対的に比べた感想は本当に最高です。
テーマについてよりも、個人的に気になったキーワードを並べていったほうが良いかなと思いました。
ネタバレを存分に含みます。
{netabare}
さて、いきなり重いのいきます。
・殺は殺人か否か
この物語で最重要なキーワードは【自殺】です。因果をたどると大概の場合は、他殺であると個人的に考えているし、自殺は殺人だと個人的に考えています。
社会病理学者の阿部先生の言葉をそのまま真に受けるなら『どんな殺人も基本的には私怨からくる』という。自殺とは自分より強い立場の人間に歯向かうことができないため、その相手を殺す代わりに自分を殺す、代理殺人という考え方もできて、単純にツライ人生から逃げたっていう短絡的に考えるもんじゃないなぁ、などと考えさせられる。
アイの親友小糸の自殺の原因が知りたい。物語の発端となり彼女を動かした動機になっている。
ここで、視聴者にはもしかしたらそれはパンドラの箱ではないかと思わせる脚本は本当にうまい。それが中盤から終盤にかけてものすごく効いてくるんだからプロットからシリーズ構成を組み立てるのが本当に素晴らしいと感じます。
・エロスとタナトス
という言葉が使われています。
生きる情動と死の衝動。
生きている時の希望や欲望といったものが強くなると逆に死への衝動が芽生えるとかなんとか?
詳しくはもはや心理学の話になるので、分からないですが、例えば今作だと、リカのファンと桃恵の友人の死についてはこれが当てはまりそう。ひまりも然り。
誰かを好きになるという生へのポジティブな感情が、拒絶された結果死への衝動が芽生えてしまう。そこで踏みとどまる人、一線を越えて死んでしまう人。果たしてその違いはどこにあるんだろうか。
・パラレルワールド
この物語のなかでは唐突に出てきたキーワードだなって思ったのですが、この単語に込められた意味とはなんでしょう。
この物語でのパラレルワールドは重要な決断をした時、しなかった時で世界が分かれるとかっていう考え方を語っていましたね。
これはつまり、自殺(タナトス)を選んだ大戸アイ、生きること(エロス)を選んだ大戸アイ。二人の対比を見せるために用意されたのかもしれません。個人的には結構な引っ掛かりがあって、若干の異物感のために、より一層、何を見せたいのか、何をテーマにしたかったのかが見えやすくなったように思えます。
異物感はあれど効果的だった。と思います。
・卵(EGG)1
派閥的な話をすると固ゆで派。ハードボイルドエッグが好みです。英語にした時の語感の良さが半端ないです。また、荻原浩の『ハードボイルドエッグ』はエンタメ小説として面白いので、ご一読を推奨します。
閑話休題
さて、卵の状態って生きてるって言いますかね? お腹の中の子供って生きているって言いますかね? また、子供は人間じゃないみたいな考え方が描かれているディック小説『まだ人間じゃない』なんて表題の中絶をテーマにしたような作品もあるくらいなので、誰もが一度は考えたことのある事柄なのかもしれませんね。
卵を割った中から出てくるのは自殺した少女たち。敵となるのはその原因となった人物の怪物となった姿。彼女たちを守ることが、自分達の目的とする人物の蘇生へとつながる。
弔い。供養。そんな単語が頭をよぎる。
この娘たちがEGGの中から出てくるのは、フリルによってあの世へ誘われてしまったから?
フリルはお腹の中の子供に対してどんな感情をいだいた?嫉妬だろうか、恐怖だろうか、もしくは両方?
あのドライヤーの1カットは最恐の演出だった。目に焼き付いて離れない。あの表情でたたずむフリル、その切り返しのカットで下にカメラをパンした瞬間握られているのは…そしてそれを放り投げるまでの一連の流れが素晴らしすぎる!!私があの画から読み取ったのは嫉妬。そこには生への情動が見て取れる。しかし、彼女はAIであるから無感情でもある、自分が殺され(廃棄され)ないようにする行動としても見る事ができるが、それは嫉妬とも呼べるものと私は感じました。
あの時、彼女の中の自分の存在の優先度がこれ以上下がらないようにすることで関係を保とうとした。それは浅はかで結果的には閉じ込められてしまったけれど、自分を殺したりはしない。なぜならAIだから機械に生命の意味なんてわからない。
このフリルってAIが登場したことによって、Priorityが何に対してのものかハッキリする。それによってテーマが伝わりやすくなった。とても意義のあるキャラクターです。
・卵(EGG)2
自分の殻に閉じこもる。
感情を押し殺す。
これは自分を殺す。ことど同義になりかねない。抑圧されたまま生きていってしまうとそれは自分の心を殺してしまっている。ともとれますね。
12話でアイはこの自分の殻を割る。
過去の自分を救い、今まで抱いていた大人への不信感を洗い流す。まさにそういうカットがありました。
先生の絵は大人になったアイの姿があり、これまで先生をちょっと気持ち悪く、そして悪役のような演出はやはり、演出だったのかもしれない。と思う反面、桃恵の最後の敵のように本当に悪いやつだった可能性も残っているような気もする。つまり、まだ終わってないんですよね。
とまぁ少し話がズレてしまいましたが、この卵の殻はそのまま、自分が取り繕っている自分以外の人に見せる自分のことではないかと思います。
・ワンダーキラーの正体
卵(EGG)2から察すると正体が見えてくるようでもありますね。
簡潔にすると、自殺となった原因。しかしそれだけではなく、そのことを誰にも打ち明けられず、自分の殻の中に隠して、周りの人には見えないように隠したもの。殻の中に閉じ込めたからこそ生じた、抑圧により選んだ選択としての結果によって生じたのが彼らワンダーキラーなのではないでしょうか。
その殻さえ自分の力で打ち破れていれば、誰かが助けてくれたかもしれない。そう思わずにはいられない。
・プライオリティー(優先度)
自分の優先度。最近では自己肯定感とか言うんでしょうかね。ちょっと違うかもしれない。
分かりやすいよくあるセリフとしては「あなたの為なら死ねる」みたいなことですかね。ロマンチックにも聞こえるけれど、対等であればという但し書きがあったりもします。強者が弱者に「私の為なら死ねるよね」と強迫することもできる。他人からしたらなんでそんないう事を聞いちゃうんだよ。などと思うかもしれませんが、そういうこともあるのかもしれませんね。
私は経験したことないので、本当にフィクションの世界でした見たりしていないので、理解に苦しんでしまうのですが、想像はできてしまうんですよね。
家庭が厳しいく父親や母親のいう事をニコニコと聞いて育って、自分を押し殺し続ける。親の期待に応えらられず、「恥ずかしいから死んでくれ」などと言われたら……。みたいな想像だけはできるわけです。
自分の優先度が他者よりも低いがために起こる現象なのかもしれません。また、自分では背負いきれない責任を取らされる場合などでも起こることですね。自分の優先度より、社会的な損失が大きいケース。これは子供ではあまりないので、今回の作品ではないケースですね。
子供はその自分の優先度をうまく自分で操作することができません、じゃあ誰がするの?
ここがこの作品のキーポイントで、【大人】なんですよ。大切だと分からせることが大事なんだと訴えかけてくる。
{/netabare}
まとめ。
長くなりました。文章がまとまっていないために必要になるのが、まとめです。内容が濃いので、なかなか難しかった今回のレビューですが、ここまで読んでいただいた方には、すみません、こんなんです。って気持ちになってしまいます。
しかし、濃ゆいですね。
作品に伝えたいテーマがしっかりとあり、それを解決する手立てまでを示唆し、原因はここにあるじゃないの? と問いかけてきますね。
そしてなによりも、分かりやすい! 直接的で伝わりやすいのが素晴らしい。
とはいえ、まだ終わっておらず、謎の回収が必要ですね。
何でフリルはこんな事をしているのか……。若干繋がっていないような気がしてならないんですよね。そこを見せて欲しいなと6月まで私は死ねないなと、私の命よりもこの作品の行方の方が優先度を高めにして頑張ろう。
長々お付き合い、ありがとうございました。