「すばらしきこのせかい The Animation(TVアニメ動画)」

総合得点
59.7
感想・評価
104
棚に入れた
296
ランキング
6017
★★★☆☆ 2.9 (104)
物語
2.6
作画
3.0
声優
3.0
音楽
3.1
キャラ
2.9

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ネタバレ

ナルユキ さんの感想・評価

★★★★☆ 3.4
物語 : 2.5 作画 : 3.0 声優 : 3.5 音楽 : 5.0 キャラ : 3.0 状態:観終わった

アニメ化がゼタおせぇ!しかもそのまんまかよこのヘクトパスカルがっ!!

時折その作風を“ノムリッシュ”と揶揄される野村哲也氏のデザインゲーム『すばらしきこのせかい』のアニメバージョン。『ファイナルファンタジー』シリーズではⅦからキャラデザを担当し、ディズニーとスクウェア・エニックスのコラボレーションを実現した人気作『キングダムハーツ』シリーズをディレクションした偉人の作品の1つということで、ゲーム版は青春時代に大分やり込んでいました。ノムリッシュだーい好きヾ(´∀`*)ノ
なので本作が発表された時は少なからずテンションは上がっていたし、後番組『結城友奈は勇者である ちゅるっと!』も目当てだったので序盤はリアルタイム視聴もしていたのだが────

【ココがつまらない:1から10までゲームと一緒】
見出して感じたことは「ゲームそのまんまやな」という我ながら冷たい反応だった。
ラノベのアニメ化にマンガのアニメ化────原作のアニメ化にあたって求められるのは常に「原作再現」であり、本作はその点においてはどの原作付アニメよりもずば抜けて高く本来は絶賛されるべき良点だろう。
しかし間違っていたのは「2007年」の「アクションゲーム」のアニメ化だということ。ファンが手を擦り合わせて感謝したくなるような“映像化のありがたみ”というものが本作には備わっていなかったのである。
『ノイズ』という雑魚敵を退けながらミッションをこなし7日間生き残る、というのが正に「只のゲーム」そのもの。ゲームなら自分で主人公・ネクとパートナーを同時操作してサクサクと倒す爽快感や意外と手こずる緊張感も得られるが、アニメではその様を只々「鑑賞する」だけである。若干グラフィックが粗くシナリオも紙芝居形式だったとはいえ、元々はボイス付きのアクションゲームであるため登場人物がどういう動きでどんな技を使い敵を倒すのかはおよそ15年前からゲームファンに周知されている。要は「新鮮味」が無い。
初見のことを考えてもそこまで面白くないだろう「雑魚敵バトル」がゲーム版と同じ回数(エンカウント除く)描写され、早々に飽きが来てしまう構成になっていたのが残念としか言いようがない。
{netabare}『禁断ノイズ』出現も要はゲーム中盤にその難易度を上げる要素が主な({netabare}厳密には死神をも襲撃する危険な代物、ゼタ様の強化復活の源だったりなどストーリーにも関わる{/netabare})のだが、アニメでも特に捻り無く同じタイミングで入れてしまっている。{/netabare}

【ココもつまらない:早く淡々とした展開】
基本的にプレイヤーがマイペースに進めるゲーム版のシナリオを最短でなぞる本作は、劇中の展開が早く余韻の残りづらい悪いスピーディーさを見せてしまったのも批判点と言える。
例えばネクが死神に唆されてデスゲームからの解放を望み、その時のパートナーであるヒロイン・シキを手にかけようとするのだが、このハラハラするような展開は第1話Aパート終盤に入ってくる。ムチャクチャ早い(笑)
ゲームではプレイヤー各人がマイペースに遊んでいく中で奇襲をかけるノイズという未知の敵、現実世界に即しているのに逃げ出すことも助けを求めることもできないUG(アンダーグラウンド)、そしてその時のレベルでは達成することの難しいミッションが重なり徐々にストレスを溜めていく記憶喪失の主人公・ネクの背中を観ることができ、そんな彼に感情移入する「時間」があったからこそ最序盤でも「誰かを犠牲にしてでもこんなゲームから抜け出したい」という彼の気持ちが推察できる作りになっていた。
しかしアニメではそこを「ノイズの影響を受けていた」とアッサリと免罪符を与えて諸々さらりと流し、第1話でゲーム期間を3日消化という、初見から「カットしたの?」と疑われても仕方のないキャラの掘り下げと劇中の盛り上げが────そういった「起伏」が少ない平坦なシナリオになってしまっている。
本作の真のストーリーはネクが紆余曲折を経て{netabare}7日間のデスゲームを3セットこなす{/netabare}ことになり、それを1クールで完結させる構成のため巻きでやるだろうことは予測していたのだが、ここまでアッサリ薄味になってしまうとファンとしても擁護がとても難しい。

【でもココが面白い?:素材は一級品】
構成はゼタヘボいが世界観やストーリーは良く練られていると擁護したい。
事実として15年もの前のゲームの紙芝居形式シナリオをアニメ化したのが本作なので現在となっては中々演出や楽曲、キャラクターが目の肥えたアニオタに通用しない部分もあるとは思う。それでも死神によるデスゲームに翻弄される参加者、その全員が死者であり参加費として様々な物を死神に徴収されているという設定には独創性がある。
{netabare}シキは自分の姿を盗られており、ライムは例によって第3話で消滅。彼女のパートナーであったビイトもあわや脱落の危機、からの死神堕ちと衝撃的な展開も続き目を見張る。{/netabare}
楽曲も良い。とくにOPの『Twister』は本作の舞台である若者の街・渋谷をよく体現しており、通り過ぎるような疾走感とすれ違いざま耳に入り込んできそうなボーカルが入り混じるサウンドが特徴的。ゲーム版に収録されていた30曲以上ものBGMが微々にアレンジされて本作に贅沢使いされている。
作画も原作イラストの質感・絵柄そのままの太い輪郭線でよく動き、良好の部類に入るのは間違いない。ただそれを活かす戦闘の棋譜がゲームでは個々のプレイヤーが作り出すものだったためか、アニメーションとして魅せるのにはいまいちに感じた。

【キャラクター評価】
桜庭音操(さくらば ねく)
よりにもよってこの主人公がゲーム版と全く一緒というわけではない。マイルド過ぎる。
本来の人物像は『俺ガイル』の八幡と同じでぼっち歓迎、馴れ合い大嫌いなので死神ゲームの「パートナーと契約し共にミッションをこなす」というルールにはかなり難色を示し続けた記憶があるのだが、アニメではたった1話でシキに謝罪までできる順応っぷりを発揮。キャラ崩壊では?
そして契約で使えるサイキックによるノイズや死神とのバトル……こちらも初めから順応してたり新しい技もいくつも何の前触れもなく使ったりなどアニメではやたらと不自然だった。何でもかんでも視聴者に説明するのも興が削がれてしまうだろうが、せめて主人公に何ができて何を消費してどこまで出来るのか……そのくらいの説明はアニメオリジナルで用意するべきだったように思う。
全体的に物語を1クールに収める弊害をモロに被ってしまっており、彼の成長や心情変化自体はゲーム版と遜色はないものの、初めから人物像がマイルドに仕上がっていたためギャップを感じづらかったのが正直な感想だ。

【総評】
ファンも初見も────そして制作側も戸惑いが残っただろう凡作と評する。
本作のゲーム版は世界各地で放映されているゲーマー向けチャンネル『X-Play』で最優秀携帯ゲームを受賞した略歴も持ち、国内外問わず評価の高かった作品だ。公式からすればこれを原作再現に五月蝿いオタクどもに向けて忠実に再制作すればアニメも評価されると、そう踏んだのが伺える。
しかしそれこそが制作にいまいち注力が見られなかった要因かな、と思う。
例えばゲーム版での死神ゲームはミッションをクリアしたら1日経つというシステムには確かになっていた。しかしそれをそのままアニメにしてしまうと7日間の内の「1日」という重みを喪ってしまい、余韻が残らない。戦闘もゲーム版そのままでは『死神はゲームマスター以外参加者への手出し禁止。マスターも最終日以外は手出し禁止』のルールが生きてしまい死神よりもノイズという雑魚敵ばかりの戦闘になってしまって趣がない。仮面ライダーや戦隊シリーズじゃないのだからここは元来の死神ゲームのルールをねじ曲げてでもアレンジするべき設定だっただろう。
死神戦も只々「お互い全力で戦いましたよー」くらいの浅い棋譜で創意工夫が感じられない。素人目では主人公たちはノイズ戦も死神戦もそんなに苦労せず倒しているように見えており、次第に「はいはい、また協力技出せば勝てるんでしょ?」と思われても不思議ではなくなってしまう。ゲーム版では確かに協力技を狙うのは難しく、決まった時のカタルシスとエフェクトの迫力は凄まじかったのでアニメでもフィニッシュホールドとして選択するのは間違ってはいないのだが……
このように何でもかんでも原作再現を徹底した結果「ゲーム」という形が「アニメ」という枠・型に力ずくで嵌め込まれたようになっており、歪な部分はより際立ち、緩急の欲しい部分が何故か平坦といった作品になってしまっている。アニメという型にきちんと収まっていないのだから作品としては低評価にせざるを得ないだろう。作画・音楽・世界観は往年の作品と引けをとる筈がなかっただけに構成・戦闘演出が非常にもったいない。
公式や業界からすれば「お前ら原作改変したらすぐ叩くくせに!」と悪態を吐きたくなるだろうが、私たち視聴者からすれば「改変してもしなくてもいいからとにかく面白く作ってくれよ」としか言えない。ましてやアレンジ部分の効果が全て“尺の節約”や“ファンサービス”にしかなっていなかったのだから、ある意味ではゲーム原作そのままには作っていなかったとも言える。

投稿 : 2023/01/05
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サンキュー:

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