「パプリカ(アニメ映画)」

総合得点
72.1
感想・評価
829
棚に入れた
3935
ランキング
1174
★★★★☆ 4.0 (829)
物語
3.8
作画
4.3
声優
3.9
音楽
4.0
キャラ
3.8

U-NEXTとは?(31日間無料トライアル)

ネタバレ

蒼い星 さんの感想・評価

★★★★☆ 3.2
物語 : 3.0 作画 : 4.0 声優 : 3.5 音楽 : 3.5 キャラ : 2.0 状態:観終わった

ドッキリ秘宝館。

【概要】

アニメーション制作:マッドハウス
2006年11月25日に公開された劇場アニメ。

原作は、筒井康隆による小説。
監督は今敏。

【あらすじ】

精神医療総合研究所に勤める千葉敦子は、
頭に装着することで他人と夢を共有できるデバイス「DCミニ」を使って、
「夢探偵パプリカ」という少女の姿で神経症などの患者の夢の世界に入り込んでの精神治療を、
非公式に行っていた。

ある日、敦子は3機のDCミニが盗まれてしまったことを、
DCミニの開発者であり超肥満体の同僚・時田浩作から告げられた。

DCミニを悪用して他人の夢の世界に干渉することで、
壊れた言動をする人間が現れる事案が発生。

理事長の乾精次郎からDCミニの使用中止を命じられ、敦子ら開発チームは犯人探しをすることに。
精神に異常をきたして大怪我を負って入院する者が増えるなか、
敦子ら研究者たちははパプリカの患者の一人である粉川警部の協力を得るのだった。

【感想】

原作者の筒井康隆氏は、有名なSFジュブナイル小説「時をかける少女」の作者でもありますが、
幅広いジャンルを扱う中でも社会の風刺や人間の醜さやブラックユーモアを扱った作品が数多く、
今敏氏は「妄想代理人」などを見るに筒井氏から作風の影響を多大に受けたと思われます。
その筒井康隆氏が今敏監督を直々に指名しての「パプリカ」の映像化。
監督は原作者と相思相愛と言っても良い関係ですね。

今敏氏の作品は、師匠の大友克洋の画風・筒井康隆からの作家性の影響・押井守の演出的な要素。
これらのキメラであり、どれもアクが強すぎて組み合わせることで万人受けしない…。
それがいいっていう人もいるけどキャッチーじゃないですよね。

その今敏氏は、自分がわかりやすく売れる作風では無いのを自覚してるだろうに、
意外なことに売れたいということを生前に長々とブログで語っていたのですが、
人間の醜さ弱さ加減を執拗に描く一方で、「東京ゴッドファーザーズ」のホームレスのギンの娘など、
真っ当に生きている善人キャラの扱いが淡白であることから影が薄くて顔と台詞が記憶に残りにくい。
人の善性や優しみ成分の描写への執着心に欠けるがためにそれらが印象に残りにくい作風は、
映像で人間の嫌われる部分ばかりが悪目立ちしていて、汚くて嫌な人間が愛されないのと同様に、
一定のファン層がついてこれても今敏氏が望んだ商業的成功が得られなかったのは当然ですね。

これを敢えて優しい言葉で言い換えれば、賛否両論と言えば波風立たないのでしょうけどね。

エグい描写を好むということは、キワモノで注目されたい自己顕示欲の現れで毒ポエム。

今まで自分が今敏氏の数々の作品を観た限りでは話作りに、

・スノビズム = 「知識・教養をひけらかす見栄張りの気取り屋」
・シャーデンフロイデ = 「他人の不幸を面白いと感じ、愉快に思う気持ち」に通じる後味の悪さ。
・ルサンチマン = 「自分より強いものを妬み、憎む気持ち」人間が落ちぶれたり酷い目に遭う。

の傾向が強く、これらを娯楽として飲み込めるかが今敏作品ファンになる踏み絵ではないでしょうか?

「言い訳探しに躍起になっているやつをぶん殴って笑おう」
「一所懸命働くのはイヤだが、立場と評価は欲しい」

と、妄想代理人に見られる私憤に起因した企画意図による薄暗く激しいキャライジメ展開や、
氏の作品全般に見られる皮肉とか、えげつなさなどを楽しみにアニメを見られる人が、
このアクの強さを個性とネタとして楽しむ!これはナンバーワンでなくオンリーワンなのであって、
比較して他の会社やクリエイターのアニメ作品にケチをつけて模倣を推奨するものではないですね。

このパプリカにしても、他者の評価によって称賛されるのは、カエルのパレードや不気味な日本人形、
人間が皮を剥がされて脱皮して別の姿が引きずり出されるシーンなどの、
インパクト満載な悪夢の世界の映像の数々と、

『カエルたちの笛や太鼓に合わせて回収中の不燃ゴミが吹き出してくる様は圧巻で、
 まるでコンピューター・グラフィックスなんだ、それが!
 総天然色の青春グラフィティや一億総プチブルを私が許さないことくらい、
 オセアニアじゃあ常識なんだよ!』

などなど壊れた人間の奇天烈な台詞回しのびっくり大会。

狂人などのイロモノを晒すことで衆目の関心を引く芸風。
毒々しいキ●ガイ加減が個性として輝く作品であって、その下にある人間模様の物語は、
インパクトを与えようとしてる割に人格表現がびっくりするほど薄いです。

天才に嫉妬し目的のためにホモに身体を売った小山内くんの惨めな気持ちなんて知ったことか!
でありますし、意味ありげなことを無表情で呟く黒幕の台詞も頭に入ってこないです。
粉川刑事の過去のトラウマ払拭の話にこそ尺が割かれていてる反面、
ヒロインである敦子の恋愛話は盛り上げるための段取りも特に無く、『え?』でしかないですね。
(アニメの堅物な敦子とは逆に原作では多情であり時田への恋心について多めに描いてたらしい)

単純に私の感覚が鈍くて映像から情報やキャラの感情を汲み取れないのかと思えば、
体重200キロありそうな時田なんか演じる古谷徹がキャラを掴めなくてアムロのままでいいですか?
とスタッフに言い出す始末であり、役者ですら演じる役の人間性を理解できないのですから、
キャラ立てやドラマの組み立てがおざなりなのでしょう。

アニメづくりのスタンスの違いを敢えて例に出しますが、
2020年に公開されて多くの観客の胸を打った某人気アニメ映画では、

『これは個人的な意見ですが、今の深夜帯に放送されるアニメは、
 どれだけ話題性があって瞬間最大風速を起こせるかを競いあっているような気がしていて。
 それが嫌とか否定したいということでは、全くないのですが、
 それとは違った方向性の作品が一つくらいあってもいいのではないかと思います。

 (中略)

 逆のベクトルで突き抜けることで、既存のアニメとは違った作品になれるのではないかと。
 普遍的な人の感情やひたむきさを描いた方が長く愛される作品になると思いました。』

と公式ファンブックで述べ、

『音響監督が『芝居として上手いものではなくて感情が乗っている方、
 気持ちが乗っている方を多少絵と合わなかろうが使う』
 とおっしゃってくださっているので、僕も絵を作る立場として、
 芝居がズレているのなら絵のほうを直そうと思っていました。』

と舞台挨拶で語った某監督。打ち合わせの積み重ねでキャラの心に向き合い、
その芝居と映像の徹底したこだわりで成熟した描写の完成度と比較すると、
このパプリカの表現は自分の設計した変わり種の映像で視聴者に驚きを与えたい顕示欲ばかりで、

人間が何を思い行動したかへの関心の薄さを世相批判や皮肉と知識で塗装して、
それらで人間を語ってるつもりの頭でっかちであって、
キャラというか人間そのものの表現への誠実さが非常に欠落しているように見えました。

作り手がこんなだから、見てる自分もキャラに愛着が微塵も湧いてこない。
愛着の持てない面々がピンチだろうがドキドキしないし、作中で死んでもちっとも悲しくならない。
なんせ映像の中の人物への共感性が皆無すぎて無の感情しか残らなかったですね。

「人の名前においても、見なれない珍しい漢字を付けるのがはやっているが、
 まったくつまらないことだ。 どんなことも、珍しさを求め、一般的ではないものを好むのは、
 薄っぺらな教養しかない人が必ずやることだ」

(徒然草 第百十六段)

吉田兼好の当時のキラキラネームに対する苦言ですが、この監督の作風はそれに通じています。
それは、普遍的なものに目を背けて珍奇やウケ狙いのエグい映像表現に走りすぎた、
自己顕示欲の成れの果て。

というか過激なエログロって視聴者にぶつけるにはそれそのものが強すぎて、
やりたいのならそれを主体にしないとテーマそのものを飲み込むノイズになるんですよね。

「パプリカ」も見ての通り話題になるのは物語や芝居ではなくて、
悪夢の映像のアクの強さのみが語りぐさになるばかりであり、
その自己主張の強さに記憶が上書きされることで、
キャラがこんな人間でこうだったという話の存在感が押し潰されてしまいましたね。

ということで、二度観てみたものの作品への理解が及ばなかった自分にとっては、
「パプリカ」は、ビックリ映像アニメ劇場の以上でも以下でもないというのが正直なところです。

細かい事は抜きにして、『うわー!このシーン凄い!』で楽しめば良いのではないでしょうか?
初見ネタバレなしで刺激を得たい人には一定の満足感を得られる内容なのでしょうしね。


これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。

投稿 : 2021/04/16
閲覧 : 284
サンキュー:

29

パプリカのレビュー・感想/評価は、ユーザーの主観的なご意見・ご感想です。 あくまでも一つの参考としてご活用ください。 詳しくはこちら
パプリカのレビュー・感想/評価に関する疑問点、ご質問などがございましたら こちらのフォーム よりお問い合わせください。

蒼い星が他の作品に書いているレビューも読んでみよう

ページの先頭へ