「マルドゥック・スクランブル 圧縮(アニメ映画)」

総合得点
67.2
感想・評価
335
棚に入れた
1803
ランキング
2473
★★★★☆ 3.8 (335)
物語
3.8
作画
4.1
声優
3.8
音楽
3.6
キャラ
3.8

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ネタバレ

nyaro さんの感想・評価

★★★★★ 4.6
物語 : 5.0 作画 : 4.0 声優 : 4.0 音楽 : 5.0 キャラ : 5.0 状態:観終わった

底辺少女が金のネズミと共に、生きる目的を獲得する再生のストーリー

 原作は文庫本の新・旧版・単行本すべて読んでいます。大今良時さんのコミック版も読んでいます。円盤も購入済み。日本のSFで3本の指に入るくらい好きな作品です。

 配信版確認しましたが、アダルトなシーンが全カットでしたね。これではヒロイン、ルーンバロットのどん底からの再生物語が描けるわけがないです。できればノーカット版であるいは原作を読んだ方がいいと思います。


「圧縮」のあらすじの説明です。まあ、高校の技術等で習うと思いますが、「圧縮」「燃焼」「排気」はエンジンの4ストロークのサイクルになります。つまり第1部の事ですね。

 サイバーパンク的な都市が舞台ですが、イメージとしてはソドムでしょう。「バットマン」のゴッサムシティのような爛熟退廃した都市です。
 この都市では、スクランブル09という非合法な肉体改造に関する戦争テクノロジーが、有用性を示す限りにおいて認められます。

 さて、ヒロインは12歳の時から父親に常習的に犯されていて、兄が父に発砲し刑務所へ。ヒロインも手をかけていますが、兄がすべて引き受けたのでしょう。
 ヒロインは少女売春婦・少女ポルノのスターでもあります。警察のガサ入れで留置されていたところを、シェルというカジノの大幹部に愛人として拾われます。

 ヒロインはシェルの秘密を知ろうといして、殺されかけます。そこを救ったのが、ドクターとウフコックという金色のネズミです。ヒロインはスクランブル09の技術で死にかけていたところを何とか救われます。

 治療中のバロットの潜在意識に生存の選択をさせた上で、バロットのスクランブル09使用の根拠とするため、バロットの生存をかけた裁判が始まります。生命保全プログラムです。

 バロットは生きたいという潜在意識と裏腹に、自分を否定しています。この葛藤が前向きに生きる気持ちの阻害要因になっている感じです。この過程でウフコックはバロットに生きるための教育をして行きます。

{netabare} 信頼を結べたかに見えた2人ですが、バロットは想像を超える強大な力を手に入れ、自分の力に酔いしれてしまいます。そして、少女は自分が男たちに犯され続けた過去への復讐を、戦いに重ねてしまい男たちへの攻撃を楽しんでしまいます。
 その結果、パートナーであるウフコックを道具として濫用してしまい、危うく壊しかけてしまいます。{/netabare}


テーマ性です。

 少女が主人公なのはなぜか?それは都市において「もっとも弱いもの」だからでしょう(もちろんその方が見栄えがいいのももあるでしょうけど)。性的に消費され続け、自らそういう生き方を選択した結果、生きる理由を失い、愛情とは何かが分からなくなってゆきます。

 少女の性的な虐待と売春の描写はそれが生きるための手段です。バロットの他人に知られたくないという気持ちからそれを恥じていることが分かります。自分の過去の否定=自分の存在の否定になって、自分の存在が分からなくなっている感じです。ピッタリしたタイトな服を好むのは孤独感などの不安な精神状態を表しています。

 結果、生きたい・死にたいのアンビバレントな精神状態に陥ってしまいます。そして少女は生きる目的として、他人の愛情を欲します。ですが、本来的な愛情が理解できていません。だから父親の虐待を愛情として受け入れたし、シェルにすがったし、ウフコックに依存します。

 そこまでグロテスクにする必要があるか?という残酷描写もありますが、底知れない都市の欲望と残虐性のアナロジーになっています。ヒロインの生存の根拠ための戦いです。

 ヒロインは声を失っています。これは自分の本音を語ることができないアナロジーだと思います。ウフコックを使って話せるようになるという含意が読み取れます。

 作品全体は「狂った都市」つまり現代の東京・日本・資本主義的な欲望の中の狂気と、どん底を見た=聖性を得た少女の戦いということでしょう。つまり、過去ではなくどうやって前に進むのかという話です。
 
 また、戦争が生み出した、技術の非人間性も表しています。

 いくらでも語ることがある作品ですが、これくらいにしておきます。


 アニメ作品としてですが、ヒロインのデザインも声優も素晴らしいです。特にヒロインの身体が非常に華奢で壊れそうに描かれているのがいいです。それが「壊れそうな」少女を表現しています。

 EDのアベマリアですが、故本田美奈子さんの歌声がいいですが、本作の象徴するのは、ヒロインが、マグダラのマリアのように…娼婦という穢れの中で聖性を帯びる存在だということです。バロットの象徴として非常に良く作品と合っていました。


 恐らくは欠点は、この重厚な物語に対してちょっと説明不足なこと。アニメとして楽しむ分には上で書いた事は読み取れますが、サブスク等で1度しか見ていなければ、アニメとしては理解が追い付かない可能性もあるでしょう。

 予算または技術的な関係か作画が物足りないこと(高水準ですが、今の最新技術と比べるとちょっと見劣りする)。

 ということで点数は4.6ですが、主観では230点/100点くらいです。あまりに好きすぎて冷静になれません。


 以前2021/05/03に書いたレビューを全面的に更改しています。

投稿 : 2023/06/13
閲覧 : 432
サンキュー:

2

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