「荒ぶる季節の乙女どもよ。(TVアニメ動画)」

総合得点
79.7
感想・評価
602
棚に入れた
2244
ランキング
481
★★★★☆ 3.8 (602)
物語
3.8
作画
3.7
声優
3.8
音楽
3.7
キャラ
3.8

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ネタバレ

フリ-クス さんの感想・評価

★★★★★ 4.1
物語 : 4.5 作画 : 3.5 声優 : 4.0 音楽 : 4.5 キャラ : 4.0 状態:観終わった

迷走する乙女たちの荒ぶる魂、ここに

エルトン・ジョンのかなり初期の名曲なのですが、
日本で初めて発売されたシングル曲で
『Border Song(邦題:人生の壁)』というのがあります。

たぶんほとんどの人は、一回聞いただけだと、なんにも残らない曲です。
メロディはきれいだけど波が大きくて仕掛けが大仰、
カラオケで気軽に歌えるような曲調でもぜんぜんありません。
歌詞も宗教的に過ぎるし、
your songみたいに親しみやすいメロディでもない。

だけど、何回か聴いていると、だんだん沁み込んでくるんです。

最初は「はぁ? 英国人ってこんな宗教がかった大層な曲好きだね~」
なんて鼻であしらっていたのに、
次第にそのアクの強さが病みつきになってくる、みたいな。

嘘だと思う人、騙されたつもりで、
10分に一度の割合で、一時間聴いてみてくださいな。

さて、なんでこんなことを書いているかというと、
『荒ぶる季節の乙女どもよ。』も、
初見よりも二回目、二回目よりも三回目の方が楽しめる作品だからです。

正直言って僕は、初見の時は『面白くなかった』です。
{netabare}
画は微妙だし、性にまつわる(しかも青臭い)話ばっかりだし、
文芸部の連中は菅原『氏』なんてオタ呼びしてるし、
ロリコン親父はでてくるし、
誰に向けて何を言いたい作品なのかちっともわかりませんでした。

『女子高生と性』なんてテ-マ、この作風で取り上げる意味あるのかな、と。

で、最終回まで観てやっと、
『女子高生と性』は『テ-マ』じゃなくて『モチ-フ』であり、
未成熟でそれに振り回されながらも、
流されずに抗い荒ぶる女の子たちの生き様を描いた群像劇、
第一級の青春エンターテインメントだったと気づかされるわけです。

最初からその答えは作品タイトルになっているわけですが、
最後まで観てようやく、すとんと落ちた、みたいな。

途中までは「二度見することはまずないだろうな~」
なんて思いながら録画していたわけですが、
それがわかると、もう一度見直してみたくなりました。

すると、初見で「ウザい」「あざとい」と感じていた演出やプロットが、
実はすごく計算された必然であることが見えてきました。
個々のキャラの言動は相変わらず未成熟で青臭いのですが、
その青臭さが心地よく、
カットによっては愛おしくさえ思えてくるんです。

性描写朗読だの『とん汁』だの『えすいばつ』だのエロチャットだの、
最初は言葉遊びの対象でしかなかった『性愛』が、
五人それぞれに現実の問題として忍び寄ってきます。

幼なじみのオナニーを見て動転し、
最初は恐怖の対象でしかなかった『男の子の性』に
少しずつ理解を示し、
それが自分に向けられないことにショックさえ受け、
自分の中で渦巻く矛盾に折り合いすらつけられない小野寺和紗。

倒錯した愛情や見かけに引き寄せられる男の目にさらされ続け、
達観したふりをして距離を置いていたのに、
ふつうの恋愛に目覚めたことによつて、
何をどうしていいかわからず迷走を始める菅原新菜。

もともと奥手だったうえ大外れの幼馴染に追いかけられ、
男子に幻滅して関心すら持てなくなり、
同性の新菜へ心静かに惹かれていく須藤百々子。

容姿を褒められたことから外面的な変貌を遂げ、
彼氏やクラスメイトの言葉に耳を傾けるようになって、
障壁のようだった心の扉が少しずつ開いていく曾根崎り香。

作家的向上心から性愛の探求をしていたはずが、
リアルでその対象となるミロ先生と知り合うことによって、
何が目的か自分でもわからないような暴走を始める本郷ひと葉。

それぞれが自分で処理しきれないフラストレーションを抱えますが、
だからといって他人のありように答えを求めようとはしません。
ぐちゃぐちゃになり、迷走しながらも、
自分にとっての『次のページ』を求めて、
時にはぶつかり合いながら駆け抜けていきます。

そもそも、
自分の周りにある性愛に気づいて戸惑い、混乱し、
それを『わがこと』として捉えられるようになるまでというのは、
人生というスパンで見れば、ほんの一瞬のことです。

この作品は、その一瞬を、ありのまま切り取っています。

物語終盤、そのフラストレーションが爆発します。
ばかばかしい、稚拙で意味のない『学校立てこもり事件』の、
なんと爽快なことか。

最終話、モノローグとそれに重ねて流れる映像によって、
この『全てがへたくそだった季節』が終わり、
五人がそれぞれ『次のページ』に移行したことが告げられます。
この卓越したエピローグによって、ぐだぐだだった五人の物語が、
実は『かけがえのない季節』であり、
決して美しくも輝いてもなかったけれど、
二度と手にできない貴重な日々であったことに気づかされます。

初見よりも二回目、三回目の方が面白いと述べたのはここのところです。

この『気づき』があることによって、
ばかばかしいことが、
ばかばかしいからこそ掛け替えがないんだという、
原作者岡田麿里さんの視点に寄り添って、
作品を観ることができるようになってくるんです。

みなさんのレビューを拝読していると、
最初のインパクトに混乱させられて、性がテ-マの作品と誤解し、
ドロップアウトした方がけっこういるみたいな。

もちろん何をどう感じるというのは全く個人の自由ですし、
僕も途中で切りかけましたから偉そうにいう資格もないですが、
個人的には、ちょっともったいないかな、と。

繰り返しになりますが、
性は『モチ-フ』であって『テ-マ』じゃないんです。

できれば投げ出さずに完走して欲しい、
既に完走した方も、新たな気持ちで二周目に入って欲しい、
僕個人としてはそんなふうに願う、逸品であります。
{/netabare}


ちなみに、多くの方がべたぼめしているハニワさんのOP、
僕も大好きです、かなり。
曲調もChicoさんの歌い方もそうなんですが、
なにより、
歌詞が本編にこれほどシンクロしているOPは珍しいな、と。

個人的にラスト二話は二番の歌詞でやって欲しかったのですが、
それだと『シュタゲ』のパクリと言われそうで、
やりたくてもやれなかったんでしょうね。残念です。

投稿 : 2021/05/23
閲覧 : 305
サンキュー:

22

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