「放浪息子(TVアニメ動画)」

総合得点
70.2
感想・評価
659
棚に入れた
3566
ランキング
1571
★★★★☆ 3.7 (659)
物語
3.8
作画
3.8
声優
3.5
音楽
3.6
キャラ
3.7

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ネタバレ

lll1 さんの感想・評価

★★★★☆ 3.6
物語 : 4.0 作画 : 4.0 声優 : 3.5 音楽 : 3.0 キャラ : 3.5 状態:観終わった

君の名前で僕を呼んで 僕の名前で君を呼ぶ

 以前から観たいと思っていた作品だったが、PASTEが発表した「The 30 Best Anime Series of All Time」の中に含まれていたので観賞した。下はそのURLです。
https://www.pastemagazine.com/tv/list/best-anime-of-all-time/#30-hack-sign

 取り扱った問題やテーマ、そしてその扱い方が実に見事だった。『NHKにようこそ!』の感想(https://www.anikore.jp/review/790585/)で消費について書いたが、本作が取り上げた問題についても消費の傾向がある。"男の娘"などがそうだろう。同性愛もポルノの一つのジャンルとして、消費だけに向かう傾向もある。いわゆるBLはその典例かもしれない。大きく広がることは否定しないが、消費のみに向かってはいけない。
 本作は、その消費の傾向が全く見られなかった。原作も読みたいと思ったのは久々だ。『惡の華』以来かもしれない。LGBTQやポリティカル・コレクトネスの認知が広がったことで、今まで差別や消費に向かっていたものが、真摯に扱われた作品も増えてきた。
 
 本作のキャラクターと同世代の人々(子どもたち)がこれらに対する認知や理解が深まっていくことも重要だが、より重要なのは親の方である。親が、当たり前のように「お前は男だ、お前は女だ。好きな女の子はいる?好きな男の子はいる?」と性自認と性的指向について限定してしまうことはすべきではない。LGBTQに該当する子供からすれば、「親は味方ではないかもしれない」、「自分はそうあってはならないんだ」と深く悩んでしまうからだ。家庭内に居場所を失えば、行く場所がなくなってしまう。家が自分の最も安心する場所であるべきだと私は思っている。
 

 タイトルにした「君の名前で僕を呼んで」はルカ・グァダニーノ監督の傑作映画のタイトルである。{netabare} 何が驚いたかって、本作にこのセリフがあったことだ。正確には同じではないが、似たようなセリフだ。すぐさま、私は原作の年度を調べた。こちらの方が先だった。もしかしたら元ネタがあるのかもしれないが。「こんな作品が日本にあったのか」と今まで観ていなかったことを後悔した。 {/netabare}
 バリー・ジェンキンスの『ムーンライト』やセリーヌ・シアマの『燃ゆる女の肖像』など、最近のものでも観て欲しい映画がたくさんある。

 キャスティングも良かった。よく日本では、幼少の男の声を女性があてることが多々ある。海外では実はほとんど見られない。日本が、子役の声優をしっかり育てていないこともあるが、キャストとキャラクターの性や人種を合わせることは重要である。幼少はまだしも、中学生や高校生までも女性が当てるのはあまり好ましくない。正直、エヴァのシンジはどうなんだろうと、かなり疑問に思っている。
 ゆえに、なぜ本田貴子を起用したのかは疑問に思った。脇役もしっかり合わせるべきだった。
 
 扱った問題については素晴らしいが、脚本に関してはいまいちな部分も多かった。まず純粋にストーリーがさほど良い出来ではない。物語の大きな出来事を文化祭に頼り過ぎていたし、時間の流れも速かった。
 また、キャラクターの数が非常に多く、主役がかすんでしまっていた。ゲイやノンバイナリー、配慮の不足等を描きたいのは分かりますが、主役がかすむまで、いってしまうのはよくない。キャラクターが多いがために、そのシーンが誰のものかが分かりにくいというのもある。
 「誰のシーンか分かりにくい」というのは、上でもあげたが『NHKにようこそ!』で分かりやすいシーンがある。
 以下『NHKにようこそ!』のネタバレ 
{netabare} 第11話の終盤の方で先輩が起床し、佐藤が「出かけよう」と誘うシーンがあります。本来、主人公は佐藤なので、佐藤のいるシーンというのは、基本的に佐藤のシーンでなくてはならない。佐藤が語り手であり、佐藤が視点人物なのだ。しかし、このシーンは先輩が視点人物になっている。佐藤の顔を隠すことでそれを分かりやすく描写している。{/netabare}
 こういったように、"誰のシーンか"なのかがはっきりすると、"何のシーンか"なのかも見えてくる。これらが不鮮明だと、"一体何のシーンだったんだ?"と困惑してしまうことがある。

 『放浪息子』は、それが上手いことできでいなかった。カットすべき、脇役のシーンがいくつもあった。千葉さんが通う教会の男性などがそう。しっかりと主役にカメラを置き、千葉さんや少数のクラスメイトを用いて物語を構成すべきだったかなと。姉の視点や、その友達のシーンがそこまで必要には思えなかったし、必要であるユキさんの掘り下げが浅かった。最も浅かったのは、主役の高槻よしのだろう。毎話交代でどちらかの視点人物のみで物語を構成した方が、問題がより見えてきただろうし、その視点の違いにも面白さが含まれたと思う。
 
 しかし、絵コンテは非常に上手かった。あおきえいはこんなにも絵コンテが上手いのかと感動した。引きの構図をあれだけ効果的に使っているのは見事だし、こういったドラマ作品でつまらない画がないのは凄い。 

 一丁前に駄目出しや、改善案を出してしまった。申し訳ない。

 

投稿 : 2021/05/30
閲覧 : 226
サンキュー:

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