「ワンダーエッグ・プライオリティ(TVアニメ動画)」

総合得点
71.9
感想・評価
313
棚に入れた
1001
ランキング
1211
★★★★☆ 3.6 (313)
物語
3.3
作画
4.1
声優
3.5
音楽
3.6
キャラ
3.5

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ネタバレ

ナルユキ さんの感想・評価

★★★★★ 4.2
物語 : 3.0 作画 : 5.0 声優 : 4.0 音楽 : 4.5 キャラ : 4.5 状態:観終わった

『終わり良ければ全て良し』という諺があるが…

まず「このアニメは京都アニメーションが作ったのか?」と勘違いするほどの美麗な背景やキャラデザに圧倒される。雰囲気が『響け!ユーフォニアム』に近い。それもあって視聴前はノンファンタジーの青春モノかと思い込んでしまった。
そんな美麗な作画で描かれるオッドアイを持つ主人公・大戸アイが虫に憑依した何者かの導きによって“エッグ”──ニワトリの卵のようなアイテムを手に入れるところからストーリーが始まる。その卵は現実では割ることができない。卵の中にはアイの欲しいものが入っているというが──

【ココがすごい!:質アニメを予期させる美しい作画と独特な世界観】
謎はどんどんと畳み掛けられる。不登校児であるアイは何故か学校に来てしまい、そこで卵を叩きつけてしまう。ひびの入った卵は無茶苦茶に大きくなって風船のように割れ、中から西城くるみという少女が出てくるのだ。
アイが求めたのは「友達」。だから卵から同年代の少女が孵った。話の流れとしては理解できるものの、作画に反したファンタジー続きに困惑する。ロクな説明もなく不親切にも感じたが、まだまだ第1話のAパート。この掴み所の無い世界観に惹かれたのも事実だ。
作画の雰囲気や劇伴効果もあって最近のアニメでは味わえない「質アニメ」又は「考察アニメ」と呼ばれた類の空気感を感じた。暗喩や比喩、見る側が“想像”し“考える”ことを求められている。それに応えるのがアニオタというものではないか。そういったやる気を刺激されるような序幕である。

【ココもすごい!:作品のテーマと戦闘シーン】
西城くるみが孵って間もなく2頭身くらいの小人が群れをなして襲いかかってくる。くるみは奴らを「ミテミヌフリ」と言った。その正体はやはり説明されないが、ミテミヌフリはイジメ問題でよくある“見て見ぬふり”が具現化したものではないかと考えられる。
そう、この作品のテーマは『自殺』だ。そしてその多くの原因はイジメであり、その被害者にとって、自分が命を絶つまでの苦しみを放置した傍観者も立派な敵なのである。それが雑魚の位置に置かれているのも適役と言える。
主人公のアイも見て見ぬふりをしてしまったことがある。そのせいで彼女は唯一の親友・長瀬小糸を喪ってしまった。そしてまた、ミテミヌフリがくるみしか襲わないとわかると、(彼女の進言もあったが)共に逃げることを止め、見捨てようとしてしまう。
「もう──見て見ぬふりはしない」
親友を守れなかった後悔。なにもしなかった自分。そんな自分はもう嫌だとアイは一転、くるみを守ろうと奮起する。
あの作画で、戦闘シーンだと……!?
キャラクターを動かさないからこそ綺麗なキャラクターが拝め、動かしてしまえばどうしても崩れてしまうというアニメの法則に納得し、いつの間にか多くを求めなくなった私にとって本作に戦闘シーンがあるのは嬉しいサプライズだった。そしてクオリティーもかなり高い。変身こそしないが、そちらのジャンルに負けず劣らずのアクションを魅せてくれる。
この一連の流れは第1話だけで終わらない。エッグから生まれる少女を何人も守ることができれば大切な人を取り戻すことができる。そう確信した大戸アイを始めとする4人の少女がこの摩訶不思議な“ゲーム”に挑戦し、自ら命を絶った様々な少女たちとそのトラウマに触れていく。

【そしてココが面白い:戦士の交流と友情】
夢の中でエッグを割り、出てきた少女をトラウマから解放する──という流れに次第にマンネリを感じるのが正直な所。エッグの少女の自殺の理由やトラウマ──それらが具現化したワンダーキラーの種類はさまざまだけれども、基本的には力ずくでねじ伏せるだけである。
幸い、ゲームの挑戦者(劇中用語に寄せてエロスの戦士候補、と言った方がいいか)4人が出会って友達となり、アイの家やエッグを買える庭園を溜まり場に繰り広げる会話劇を目当てに視聴が続いた。
メインキャラクター4人の中では川井リカがかなりの曲者だ。「かわいいリカって覚えてね」「パパがね、美人は財布を持たなくていいって」等と言うお調子者で恐ろしくパーソナルスペースが狭い。他者の触れられたくない部分やこのゲーム自体の意義にも遠慮なく触れて問いかけ、諍いを起こす。正直、リカ含むアイたちの会話は直ぐにギスギスになってしまい癒しが少ない。
だからだろうか。アイたちの友情は他とは違った魅力を持っている。時に相手を気遣わずに本音の意見をぶつけ合わせるからこそ本当の友達なのでは、と考えさせられる。普通、それで気まずくなったらきちんとした謝罪を踏まえるか疎遠になってしまうものだが、同じ戦士候補ということで時間を置けば同じ溜まり場に集まり違った会話が披露される。遺恨を残さず付き合える友情が、否が応にも大人にされてしまった私には少し羨ましく感じてしまった。

【でもココがひどい:話がちがう!】
しかし本作の脚本家である野島伸司という方はドラマ界でもかなりの問題作を制作してきたらしい。要は本作終盤、中々に救いがない展開が待っている。
{netabare}先ず“エッグの少女を守り続ければ大切な人が甦る”というのは飽くまでもアイたちがそう確信したに過ぎなかった。パラレルワールドの存在が示唆され、そこから自殺した想い人の同一人物を連れてくること、これがゲームの本当の報酬だったことが特別編で判明する。同一人物たちはアイたちの記憶を持っておらず、声をかけたアイに小糸が「馴れ馴れしくない?友達でもないのに」と言い放つシーンは今まで頑張ってきたアイを思うとやるせない気持ちになる。
さらに同じ戦士候補として築き上げた友情もボロボロだ。ゲームクリア後に現れた虫の頭をした少女に殺されかけ、その恐怖から庭園に行くことにも拒否反応を示す沢木百恵。同じく虫の怪人に殺されかけ、その身代わりとなったお助けアイテム『ワンダーアニマル』の敵を討ちたいリカ。2人はアカと裏アカが求めるエロスの戦士には相応しくなく、再びエッグを買い求めるアイとは疎遠になってしまう。
そしてメインキャラクターの青沼ねいる……彼女は妹と称してた青沼あいるを模して作られたAI搭載のロボットであり、その性能は嘗てアカと裏アカが作り上げ、現在、死の誘惑をかけて少女を自殺に追い込んでるとされるフリルと同等であることが判明する。ねいるとフリルは同調し、その後どうなったのかは詳しくは語られない(もう最終話なのに…)。
人間だと思ってた娘がロボットで、友達を生き返らせたと思ったらそうではなく、そもそも『ファンタジー』だと思ってたエッグ回りの設定が天才たちによる『科学』の産物であることが明かされる……12話かけて培ってきた思い込みが全てひっくり返される衝撃は筆舌に尽くしがたい。
ただ本当にひっくり返しただけでエッグやワンダーアニマルの原理やフリルの勢力(はいふんやどっとちゃんなど)の謎は解らず、科学はまだファンタジーに片足をつけてるような状態のまま終わってしまい、納得には至らない。これは賛否両論が出る結末だろう。 {/netabare}


【総評】
全体的に見て非常に懐かしい雰囲気になれるアニメだった。『新世紀ヱヴァンゲリヲン』以降の考察系アニメや、いわゆる質アニメとよばれる作品、流行り廃りで随分と減ってしまった「視聴者」に考えさせるタイプのアニメであり、説明自体はかなり少ない。
第1話の段階で人を選ぶ要素が強く、それゆえに面白い。
この世界はなんなのか、このシーンにはこういう意味があるんじゃないだろうか。
視聴者に「考察」させるアニメの面白さを久しぶりに味わえる。
1~100まで説明するのではない。20くらい説明して残り80を視聴者に補完させるための演出や舞台装置、キャラクターの台詞や表情で察してもらうことで物語を味あわせている作品だ。視聴者側のリテラシーを信頼した魅せ方をしてると言い換えてもいい。
劇場アニメ並の作画、アニメーションとしてのクオリティーも素晴らしく、ぐりぐりに動くアクションシーンと敵デザインの独特な気持ち悪さと相まって甘美的な魅力のある戦闘シーンを作り上げている。
戦闘シーンだけでなく、日常シーンでもキャラクターの描写は4人のメインキャラクターの魅力につながるような描写が多く、ひとりひとりの魅力をきちんと描くことでそれぞれのキャラの可愛さにつながっていた。
{netabare}これだけ誉めるところがあるのだから特別編(最終話)はもっとしっかりしてほしかった。リアタイ視聴者にとって3ヶ月延期してわざわざ特別編と題してまでこれかという感覚のまま終わってしまった作品だ。流石に考察が好きで良リテラシーを持ち合わせた視聴者でも描かれていない部分が多すぎて消化不良に感じるだろう。
フリルの問題、ねいるの問題、ジャパンプラティの謎と色々と残っている。そこを描ききって初めて「ワンダーエッグ・プライオリティ」という作品の評価が決まる筈だ。あの作画なので1、2度落としてしまったかもしれないが総集編なんて2度も入れてる場合じゃなかった。1クールをフルに使って持ち越された謎を少しでも減らすべきだったと思う。
さらに後味の悪い終わり方が意気消沈を加速させる。互いに本音の意見を言い合えるまでの友情を築き上げた4人の関係がゲーム終了によって自然消滅する……これがアイのモノローグでさらっと流されたことが個人的に一番ショックだった。リカなんて最後死にたがってたから一番放っておいちゃいけないだろうに……。
死んだ人が甦るなんて都合のいいことあるわけがない。
どんなに仲良くても離れてしまえば友情は薄れるもの。
そんな現実的なメッセージをダブルパンチで受けてしまったようでかなり精神的にクる。これがドラマ界で数々の問題作を作った野島伸司クオリティーということか。
この後味の悪さも乙に感じる可能性があったが、やはり前述の消化不良感と合わさると料理に例えて単純に「マズイ」と言わざるを得ない。途中までは美味しかったけどね。 {/netabare}

投稿 : 2023/06/10
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サンキュー:

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