「千と千尋の神隠し(アニメ映画)」

総合得点
87.6
感想・評価
1798
棚に入れた
12186
ランキング
142
★★★★☆ 4.0 (1798)
物語
4.1
作画
4.2
声優
3.8
音楽
4.1
キャラ
4.0

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ネタバレ

nyaro さんの感想・評価

★★★★★ 4.7
物語 : 4.5 作画 : 5.0 声優 : 5.0 音楽 : 4.0 キャラ : 5.0 状態:観終わった

宮崎アニメNO1の面白さ。風俗嬢設定が活かせていない。

 宮崎アニメの中で、ナウシカ、もののけ姫とならんで、最高に面白い話の一つです。が、この2作とはまったく違うストーリーです。
 どちらかといえば、少女が世間を知ることで成長するという意味では、魔女の宅急便にテーマは近い気がしますが、エンターテイメント性、演出、エピソード、キャラ。どれをとっても本作が圧倒的に上でした。

 親の車で引っ越し。となりのトトロと同じスタートです。でも、家族の様子は全然違います。車の種類や態度、言動で千尋の親は権威主義で独善的なのが解ります。そしてある種の狂気も感じてしまいます。
 また、周囲の宗教的な不気味さを漂わせた道やオリエンタルな雰囲気の施設など、異界に引き込まれる様子を上手に表していました。この辺り、いままでの宮崎作品にはない演出でした。

 そもそも千尋のキャラデザがいままでの宮崎アニメとまったく違うことに驚きます。つまり、可愛くないという表現、または千尋は現実世界の人間だということだと思います。

{netabare} その可愛くない少女が、両親が欲望に走って背負った負債で、生活費を稼がなければならなくなる。その働き先は湯屋でした。一生懸命の千尋に、初めは辛くあたられますが、見守って優しくしてくれる人たちも現れます。献身的なサービスでお客さんに満足してもらうこともありました。何より、ハクという少年に支えられなんとか乗り切れそうな感じです。でも、悪い事にストーカー=カオナシが登場します。金を積んで千をわが物にしようとしますが、千は断ります。切れたカオナシは狂暴化して暴れまわります。
{/netabare}

 さて、ここまでのパートです。一般的に流布されている説の通り、駄目親が稼げなくなったので風俗店で働くことになった少女の話でいいのでしょう。源氏名ですし。男性が裸で風呂に入っている横で湯加減の世話をするのはソープ嬢でしょう。

 ただ、本アニメの最大の欠点も出ています。何が言いたいかわからない、という事です。金を稼がなくてはならなくなった少女の奮闘記なら、風俗を象徴させなくてもいいわけです。なぜ、湯屋=ソープランド?にしたのか。千尋に風俗嬢としての悲哀があったか?多分ないでしょう。金を稼ぐ苦労話というだけです。
 風俗ならではの苦労とはなにか。風俗をイメージしているなら、性=エロスが精神や尊厳に与える影響、女社会、世間体や病気、美醜の問題のようなものになるはずです。でも、宮崎アニメで出せるはずもありません。女社会だけはちょっとありました。
 裏設定でメッセージを織り込むにしても、それが上手く機能しているように見えませんでした。風俗で働く少女たちはこの作品を見て何かを感じられるでしょうか?それはないと思います。あるとすれば私も頑張ろう、くらいでしょうか。

 また、いきなりここで話がブチ切れてしまいます。電車に乗って善い魔女のところに向かってから先は、ほとんどこの風俗嬢設定が関係なくなります。
 解決方法も、{netabare} ハクの名前を呼ぶ、親が誰かを当てる。{/netabare}アイデンティティの問題?ここも宮崎アニメの欠点で、解決に論理性がありませんでした。
 ここも首尾一貫したストーリーが組み立てられている、ナウシカ、もののけ姫との違いでした。

 最高に面白い話です。面白さなら宮崎アニメではNO1でしょう。が、深みという点では成功しているとはいいがたいです。逆にいえば、それでもここまで面白いのは大したものです。演出やキャラ、画作りは最高でした。それも良かったのでしょう。


22年9月 再視聴して、追記です。

 千尋の売春婦設定が活かせてないといいましたが、見直してちょっと考えなおしました。カオナシ=我々というと語弊がありますが、匿名性でしゃべれない顔の無い存在というのは、何か歪んだ男性の象徴だと思います。

 その男を結果的に外に連れ出して、世間に触れさせることで救済しています。これは昔からある売春婦の聖性だと思います。
 湯女=売春婦に入れ込む客=カオナシに囲われることを千尋は拒否しました。これはプロ意識と取れます。彼女は自分で最下層の売春婦として働くことで、人間性の成長とともに聖性を得て行くプロセスなのかもしれません。

 千尋があまり可愛くないのは、リアルな少女だからだと思います。だからヒロインではなく、一般の少女なのでしょう。で、これは援助交際とは一線を画しており、「お店」でちゃんと身体を売ることで生活する。

 ちゃんと自覚的にやっています。この最下層の仕事と最下層だからこそ男たちを救済することの聖性。その救済される側のカオナシになるのでしょう。両親に対する遠慮というか分断を自分から切り捨て、逆に救済するという意味もあると思います。


 それと宮崎駿監督作品は、宮崎監督が作らなくなった今、作品の価値が決まってくると思います。見返すとやはり過大評価だった部分はあります。一方で、本作のように興行収入の金額だけではなく深さに価値を見出せる作品があると思います。

 物語の点数を5点から4.5点にしたのは、作品の論理性と展開に無理がある部分を減点しています。音楽は感覚ですが、満点ではないですね。

投稿 : 2022/09/11
閲覧 : 322
サンキュー:

7

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