「映像研には手を出すな!(TVアニメ動画)」

総合得点
80.0
感想・評価
583
棚に入れた
2213
ランキング
465
★★★★☆ 3.8 (583)
物語
3.8
作画
3.9
声優
3.8
音楽
3.7
キャラ
3.9

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ネタバレ

ナルユキ さんの感想・評価

★★★★☆ 4.0
物語 : 4.0 作画 : 2.5 声優 : 4.5 音楽 : 4.0 キャラ : 5.0 状態:観終わった

言われなくても映像研には手を出さない(性的な意味で)

見た目で切るような輩はこちらも切り捨てて、中身で勝負を仕掛けてきた作品。観てくれる人に最高峰のアニメーションとその知識、そして究極のアニメーションを作るために結成された映像研究同好会の青春ドラマを提供する。

【ココがひどい?:可愛くないキャラクター。でもよく動く】
しかし、まあ……本当にキャラが可愛くない(笑)流石、地上波はNHKでやっただけのことがある「萌え」を一切、感じられない作品だ。
幼少期はその中性的な容姿に今後を期待できなくもないのだが、いざ数年経ったら「なんだァ、このカエル人間?」と酷い疑問が浮かんでしまった。それが本作の主人公・浅草みどりの容姿なのである。
さらにつるむのは骸骨みたいな女・金森さやかと普通の容姿だがそれはそれで物足りない水崎ツバメ。そんな外見に関しては残念なトリオが各々【世界観構築】、【マネジメント】、【アニメーション】を担当して映像研(という名のアニ研)を1から設立していく。
キャラデザは原作通りだから仕方ないにしても、演出の一環として第一原画レベルの画像を見せてくることがある。そう、着色も輪郭線も雑なアニメ完成前のラフ画のことだ。演出の一環ならいいのだが、にしてはこの原画状態にしか見えない雑な作画は登場頻度が非常に多い。演出にかこつけて手抜きをしている可能性は十分考えられる。
代わりに本作のアニメーションはよく動く。ジャンル上、劇中映像などの要所で派手に見せればいい筈だが、本作は第1話から逃走劇や妄想癖のあるみどりの脳内世界観なども如実かつ派手に魅せてくれる。
オリジナルメカに搭乗してのスカイチェイス、邪魔なビルを解体する発破作業、たかが部室の壁の補修もみどりがちょいと妄想すれば宇宙船修理のシーンに様変わり。「アニメづくり」という本来は動きがない文化系の題材を、この作品は動かしまくっている。
キャラクターの癖のある動き、キャラクターたちの妄想、キャラクターたちのアニメづくりの情熱が本作に反映されているような荒ぶるアニメーション。その自由奔放で、言い換えればめんどくさい描写の数々にリソースを全投入しているのである。

【ココが面白い:アニメづくりの理想と現実】
映像研を立ち上げた3人の活動は道具や資金集めから始まる。先ずは生徒会から部費を頂戴すべく、少ない元手で成果物を提出する。納期は「予算審議委員会」まで。
しかし、みどりやツバメはアニメが好きな故にアニメ制作へのこだわりが強すぎる、言わば職人気質だ。隙あらばこのデジタル時代に昭和の道具を使った所謂アナログでのアニメづくりに没頭してしまうし、手書きへのこだわりも強い。常に“最強の世界”というものを求める2人にかかれば非常にクオリティーの高いアニメ映像が出来上がるが、2人だけに任せては納期は守れないし制作費はどんどん膨れ上がるだろう。そんな2人を俯瞰で捉えて現実的な落とし所を探るのが金森さやかだ。
{netabare}さやかには強いアニメ愛がない。ツバメの名声を持ってアニメを作ればそれが金になると睨んだ守銭奴である。そんな彼女が2人のやりたいことを「モチベーションの維持」として最大限考慮しつつ、間に合わない部分は口八丁手八丁で妥協させることで現実的なアニメづくりを引っ張っていく。
対象をアップで映す、背景をスクロールさせる、空を撮る、背景だけのカットを増やすetc…作画枚数を減らすテクニックはさやかの技ではないものの、こだわりの強いみどりやツバメに強気で物を言い、屈辱の尺稼ぎに走らせることができるのは彼女だけだ。彼女が映像研で努めるは正に【マネジメント】であり、それができる優秀なプロデューサーがこだわりという夢を現実というアニメにしていく。時としてみどり&ツバメとさやかは衝突するが、そんなアニメーター側の「理想」とプロデューサー側が見据える「現実」を擦り合わせて進むアニメづくりは、シナリオとして確かに面白い。{/netabare}

【キャラクター評価】
浅草みどり
外見から性格まで癖の強い『THE・オタク』な主人公。一人称は「ワシ」、二人称に「○○氏」、語尾には「じゃよ」なんてつける少女は本当に可愛くない。
只、そんなオタク特有の早口や語気を難なく演じる声優・伊藤沙莉さんの演技がキャラクターの個性をぐんと引き上げていることは評価する。あれでアニメ作品は本作が初めてというのだから芸能界にはまだまだ名声優が眠っているかもしれない。

金森さやか
名前に「金」が入る通り、とりわけ対価の要求は欠かさないガチガチの守銭奴。とはいえ、金稼ぎの手段としてみどりやツバメのアニメづくりを部活動として昇華させる辺り、彼女にも仲間への思いやりがあったり、もしくはアニメーションに興味があるのかもしれない。
守銭奴たる彼女の金に対する価値観は感心するところがある。なぜ金をもらうのか、なぜ仕事にお金が絡むのか。きちんと彼女なりの「流儀」がある。金を受け取り、受け取ったからこそ代金に見合ったものを作る。仕事というものの本質を彼女がさらっと告げる様は悔しいがかっこいいと感じた。骨の癖に(笑)

水崎ツバメ
この娘の「美人のカリスマ読モ」という設定でようやく深夜アニメのモブ少女くらいの見た目が確保される。
幼少期から「人の動き」を見るのが好きで、観察し、それを絵にし、動きを追い求めてきた彼女にとって、アニメーションとはアニメーター(自分)の演技そのもの。畑は違えどその並々ならぬこだわりは奇しくも俳優の両親から受け継いでいる。
{netabare}「動きの1つ1つに感動する人たちに、私はここにいるって言わなくちゃいけないんだ!」 {/netabare}
まっすぐな彼女のクリエイターとしての理想と情熱溢れる台詞は見る人をしっかり感動させてくれる。

【総評】
完全に見た目で敬遠していたが、ふと観れば
中々の良作だった。アニメ制作というものを芯に捉えつつ、アニメに対し熱い思いを寄せる2人と支える1人──3人の映像研究同好会の物語がこの作品にはしっかりとある。
1人が啖呵を切るだけあって本作はアニメーションの「動き」に特化した作りになっている。実に作画カロリーの高そうな登場人物のイマジネーションを面倒に感じることなく、理想のままにきちんとアニメーションとして見せることでアニメという媒体の自由奔放さを表現している。そして、それが作品として必ずしも理想のままに出力できるとは限らないという創造の苦しみや予算と時間の壁に表現が阻まれる苦労を、会社などの社会の枠組みではなく学校の部活動を舞台に描いているのが斬新でもある。
それだけに『SHIROBAKO』や『NEW GAME!』のようにもっとキャラクターを可愛くしてほしいと率直に思った。本作を心から愛し、意識も高くなった者にとってこの指摘は所詮“萌え豚”の戯れ言だと鼻で笑うだろう。だがよく考えてほしい。あの癖の強いキャラクターデザインで描かれた女子高生たちにそもそも「女子高生」という設定の意味があるのだろうか。
{netabare}いちご牛乳をひっかけて制服を脱いだ水崎ツバメの下着姿、プロペラスカートでパンツが見えそうになる浅草みどり、銭湯で今後の制作方針を話し合う金森さやか含む3人の裸身……そのどれかに欲情できた視聴者はいるのだろうか。{/netabare}
そういう作品ではないことをわかってはいるが、女性キャラクターを女性として視ることが難しいこの作品はそれこそ創作畑な人にしか面白さは伝わらない。「こだわりだけじゃなく客の購買意欲をかきたてる内容を考えろ!」と劇中に叫ぶが、同じ台詞が本作自体にとてもよく当てはまる。JKを可愛く描けるなら描くに越したことはない。とくにツバメは美人という設定だ。その設定に相応しい画力はあって然るべきではないだろうか。
ただあのキャラデザは原作漫画の再現に過ぎない。下手に小綺麗にすれば原作ファンからの顰蹙も買うだろうし、あのキャラデザだからこそ作画崩壊なんて言葉とは無縁でダイナミックに動かし続けられたのかも知れない。

投稿 : 2021/09/26
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サンキュー:

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