「もののけ姫(アニメ映画)」

総合得点
90.5
感想・評価
2046
棚に入れた
13278
ランキング
53
★★★★★ 4.2 (2046)
物語
4.2
作画
4.3
声優
3.9
音楽
4.2
キャラ
4.1

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ネタバレ

蒼い星 さんの感想・評価

★★★★☆ 3.4
物語 : 4.0 作画 : 5.0 声優 : 2.5 音楽 : 4.0 キャラ : 1.5 状態:観終わった

凄いけど…モヤモヤします。

【概要】

アニメーション制作:スタジオジブリ
1997年7月12日に公開された133分間の劇場版作品。
監督は、宮崎駿。

【あらすじ】

室町の戦国乱世の時代。東北のエミシの末裔の村に17歳の男・アシタカがいた。
アシタカはエミシの一族の王の地位を継ぐよう育てられた存在であったが、
村を襲ってきたタタリ神を討ったときに引き換えに死の呪いを受けてしまった。
タタリ神の正体は人間と争い深い憎しみを持つ西国のイノシシの神であり、
アシタカは呪いを解く方法を求めて、大カモシカに乗って村を出て西へと旅立った。

旅をするアシタカは、通りすがりの村を襲い略奪をする地侍を返り討ちにしたり、
ジコ坊という歯抜けの僧侶と一時期旅路を共にして別れた後に、
渓流で負傷した行き倒れの二人の男を救助。
その折に向こう岸に三匹の巨大な山犬ととも行動する野性的な娘のサンと目が合う。

3名が森を通り抜ける途上で、アシタカは森の神であるシシ神を目撃する。
やがて森を抜けて、男たちが住んでいるタタラの村にたどり着いた一行。

そこは、強い指導力を持ったエボシという女性に率いられた女尊男卑の集落。

女と傷病者を手厚く保護して、女を労働力として精鉄を生業としている傍らで、
仕事と住むところと食事を与えられて賑やかに日がな暮らしているものの、
命がけの場所に次々と送り込まれる男どもの生命の扱いは軽い。

鉄を狙う侍たち、もののけ達が拓かれた森を自然の姿に戻そうとするのに対抗するために
タタラの村は、石火矢(鉄砲)を製造して武装して戦っている。

自然への畏れを持たず自然を破壊して鉄を作り、人間の住む世界を広げて生きようとする、
そのタタラの村に生きる人々の暮らしと、エボシに縋る感情の現実を知りながらも、
自然の神々の怒りを買わない生き方が出来ぬものかとエボシに忠告をするアシタカ。

だが、神殺しをして人間の時代を作ろうとするエボシにアシタカの声は届かなかった。
その夜、サンがエボシを殺そうとして村を襲撃する。

驚異的な身体能力を持ち暴れるつサンではあったが、エボシもまた強くて刃が届かず、
(元から強かったが)呪いで人ならざる力を持つアシタカによって、
両者の争いを力づくで止められてしまう。

腹を殴られて気を失ったサンを担いでタタラの村から出ていくアシタカであるが、
サンに殺された村人もいることから、アシタカはに石火矢で撃たれて腹を貫通してしまう。

人に捨てられて、自然を壊す人間への憎しみに染まっていたサンではあったが、
争いでも憎しみでもないアシタカのとある一言に動揺してしまったことから、
瀕死の重傷のアシタカを生かすために行動を起こして、次第に心を開いていくのだった。

【感想】

商売をする時は、政治と野球と宗教の話はするな!が常識ではありますが、

映画監督や劇作家や小説家などには自分の思想を作品に盛りたがる人達がいますね。
芸能人にしても、ラサール石井や松尾貴史など反権力の姿勢を隠さない方が多数。

邦画の、『新聞記者』や『パンケーキを毒見する』は、反政権思想が土台にありますし、

著名なグルメ漫画の『美味しんぼ』では、朝日新聞みたいな主張を長年垂れ流した挙げ句に、
東日本大震災で目覚めた?原作者の雁屋哲が原子力発電に対する見解の主張のために、

被災地入りした山岡士郎が「第604話 福島の真実その22」で原因不明の鼻血を流したのが、
“放射線を浴びると鼻血が出る”との福島への風評被害の拡大の懸念が問題視されて、
2014年5月を最後に休載をして打ち切り同然に掲載誌から消えたままです。

アニメや実写を問わずに、思想を持って社会問題を抉ったり、
作者の思う“人間の真実”を描いた作品を「考えさせられる」と尊ぶ人らもいますが、
著名なクリエイターが作品でそれを描いたからと、それらはプロパガンダであり、
素晴らしいことを言っている“高尚なもの”として単純に受け止めずに、
内容次第では、「はい!そうですね!でも自分はこういう意見がある!」
で丁度いいと自分は思います。

40歳の1981年当時は満面の笑みの写真とともに、
アニメージュにてロリコンの美学を熱心にコメントしていた人間だったのが、
後に白ヒゲの紳士然としたアニメの巨匠監督に転身した宮崎駿氏は、

環境問題や日本の国防などに極めて強い関心と思想を持つ理想主義者であり、
日本共産党中央委員会の発行する日刊機関紙の『しんぶん赤旗』に寄稿するガチの人でして、

数年前には中国の軍事的脅威を認めながらも平和憲法が抑止力になると絶対視していて、
何があっても戦争をしてはいけない!(防衛線に関して熱弁)
日本は地震が多い国だから原子力発電所を無くすべきだ!(震災後に主張)

と理想に偏った発言内容を頭に入れながら、この『もののけ姫』を観てみますと、
宮崎駿氏の価値感や世界観を表明する作品となっていますね。

それは、人類の科学文明の発達が人の生活を豊かにすれば、
さらに利便性を求めて自然環境を破壊したり、利権を巡って戦争が生じる。
(経済発展が資源の乱獲と環境破壊と直結している中国の現状が一番近いですね!)

残酷で汚い戦に明け暮れる欲深く愚かな人間の浅ましい破滅的な姿を描きながらも、
漫画版のナウシカで、欲を捨てて浄化されたような穏やかで無害な人間は、
それは人ではないと、ナウシカの怒りによって全否定させていることもあり、
人間が生きている事自体が罪であるように語りながらも、必死に生きていくしか無い、
自然に抗う人の姿を完全には否定せずに、人間が自然と共存して歩むのを理想としながら、
人類は自然の前では小さな存在であること、自然への畏れを忘れるなという話。

旧約聖書の『創世記』中に登場する、『ノアの方舟』『バベルの塔』で、
人間の傲慢さが神からの怒りを買って天罰を受ける話にも似た、
スケール感のある話も併せての壮大っぽい物語。

宮崎駿監督の記念すべき作品である、『未来少年コナン』では、
冷戦当時のアメリカ人の少年の原作話から、
地球の人口が大激減した架空の未来の話にアレンジするしたなど、
アニメを使って考えを語るときは、現実社会をそのまま当てこすることを避けて、
架空の世界設定を構築して、自分の主義主張をオブラートに包んだ寓話性を用いるなど、
思想の根っこはどうであれ、フィクションの創作姿勢は自制がありますね。

宮崎駿監督がジブリの数多のアニメーターを率いて、
20億円の巨費を投じたハイクオリティのセルアニメ映像に更なる付加価値となったのかな。

鈴木敏夫氏がプロデューサーとなって、
日テレや電通や徳間書店らのバックアップでイメージアップに務めた、宮崎駿ブランドの確立。
TVアニメとは比較にならない金・人・時間を注ぎ込んで作り上げた豪華なアニメーション。

リバイバル上映分も併せて興行収入202億円とジブリでは歴代2位。
11回のTV放送と実績もクオリティもすごい作品ではあるのでしょうけど、
それはそれとして個人的には面白くはなかったかな。

山窩やエミシ、差別問題など日本の歴史資料を読み解いて、上手く構築されているものの、
固くてユーモアの薄い物語を和らげているはずの登場人物の描き方が好きではないのですよ。

・アシタカが婚約者のカヤから今生の別れの形見の品として貰った小刀を、
 あっさりと新しい別の女(サン)にプレゼントする薄情さ。
・自然を守る立場のサンも彼女の人間としての機微がよくわからない。
・タタラの村の若妻のトキは夫の甲六をいつも詰り続けながら、
 若くてかっこいいアシタカに色目を使う。
・夫の甲六はただのボンクラで良いところが一つもない。
・エボシはクシャナ殿下の再利用。
・タタラの村で飯を口の中に入れたまま延々口を開けて喋り続ける中年男。

ジブリがイキイキと描いたはずの人間らしさが今の自分の価値感だとよくわからない。
多分それは様々なアニメなどの物語に触れた影響で、
ジブリの人間の描き方が画一的にしか思えなくなったのかもしれませんね。

サン役の石田ゆり子、甲六役の西村雅彦など、
俳優の演技もアニメ向けとは言えずに、特に西村雅彦の棒読みが酷い。
宮崎監督は石田ゆり子に厳しく演技指導したそうですが、声優でない役者に、
声だけで微妙なイントネーションの違いに拘って何度もリテイクさせるのなら、
餅は餅屋で役になりきって声を出せる声優を使えばいいじゃん。
役者個人の個性や表情などで魅せる舞台やTVドラマとは勝手が違うよ!

理由づけて職業声優をほぼ一掃して、俳優など芸能人をキャスティングする一環で、
「声優の前に俳優、芝居の基本ができてないと意味が無い」と演技に一家言を持つ、
これまで宮崎アニメの常連だった、舞台俳優出身で大ベテランの名優の永井一郎氏すら排除して、
似たような役どころに上条恒彦氏を起用するとかあったりで、
TVアニメとの差別化で特別感を出そうとする姿勢。

また、TVアニメの予算の低さと納期の厳しさに苦言を呈していた宮崎駿監督ですが、
どこもかしこもがジブリ方式でアニメを作っていたら極端に本数が減りますし、
お金がかかりすぎて業界の身が持たないです。

お金と時間をたっぷり使った大作志向アニメを芸術と考えてのこだわりが、
娯楽としてTVシリーズのアニメを作ってる会社とのギャップを発生させていますね。

そもそも、アニメーター個人の作業量が一ヶ月で20秒とジブリの生産ペースが特殊すぎて、
TVアニメ制作では使い物にならないレベルで期日内に枚数を描けない極端に手の遅い、
他所のアニメ会社でつぶしが利かないアニメーターばかり作ってしまう関係で、
拘束費で予算が簡単に吹っ飛んでしまうジブリの制作環境は、
他所のアニメ会社のお手本になりえないです。

商業アニメの常識の枠にとらわれない環境を動かすのは宮崎・高畑の両巨頭と、
彼らに仕えるスタッフという図式で、トップの個に頼りすぎた組織づくりが、
後継者が育たなかったのも無理もないところですね。

『天空の城ラピュタ』『魔女の宅急便』『紅の豚』などを楽しんでいた自分が、
商業的な戦略で大事にしてきた巨匠イメージを壊せなくなった作品作りが窮屈に思えてきて、
このころから宮崎駿監督作品というかジブリそのものが特殊すぎて純粋に楽しめなくなったですね。

それに、思想の押し付けや説教臭さをこのころからジブリ映画から強く感じるようになったのが、
急に楽しくなくなった一因ですね。そういう部分が持ち味の作風に転向したのでしょうけど、
自分は、しかめっ面をして議論するためではなくて、
見てる側としてあくまで笑ったり感動したりで楽しむためにアニメを見ていますので。

宮崎駿監督が“巨匠”になるために、捨てたもの、変えたものを強く意識せざるを得ない、
21世紀のジブリ作品を心からは楽しめていない自分の、ジブリに対する転換点でしたね。

今の劇場アニメの多くは、そういった大作・巨匠主義みたいなものから外れていて、
とっくの昔に娯楽方面に寄っていて、その点でアニメの未来に安堵しつつありました。


これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。

投稿 : 2021/12/16
閲覧 : 341
サンキュー:

47

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