「アイの歌声を聴かせて(アニメ映画)」

総合得点
74.9
感想・評価
107
棚に入れた
359
ランキング
848
★★★★☆ 3.9 (107)
物語
3.9
作画
4.0
声優
3.9
音楽
3.9
キャラ
3.9

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ネタバレ

ひろたん さんの感想・評価

★★★★★ 4.7
物語 : 4.5 作画 : 5.0 声優 : 4.5 音楽 : 4.5 キャラ : 5.0 状態:観終わった

AIとして、矛盾しそうな「命令に従う」ことと、「感情に従う」ことを上手くつなげた物語。

今から54年前の映画「2001年宇宙の旅」。
人工知能HAL9000は、その目(カメラ)に映る人間に疑問を感じ暴走します。

今から28年前の映画「マクロスプラス」。
人工知能シャロン・アップルは、愛した人に夢を見させたくて暴走します。

暴走?
それは、人間がそう捉えているだけのことです。
この2つに共通することは、「感情」により自ら行動を起こしただけのことです。
しかし、人間にとって、それは、想定外のことなので「暴走」なのです。

そして、この作品もしっかりとその王道に沿った内容でした。
ある「感情」を持った主人公の人工知能シオンは、サトミのために奔走します。
しかし、それは「暴走」に他ならず、このことが事件へと発展していきます。

私は、人工知能(AI)の「感情」は、甘く考えてはいけないと思っています。
なぜなら、それは、人間の「感情」と変わらないからです。


■AIは、プログラムだが、AIが獲得した「感情」はプログラムではない
{netabare}
AIはもちろんプログラムです。
しかし、AIが獲得した「感情」は、プログラムではないと思います。
その理由の一つは、もちろんそう考えた方が、夢があるからです・・・。
しかし、理由は、それだけではありません。
今の人工知能の仕組みを考えても、そう感じる部分があるからです。

プログラムとは、「こうきたら、こう反応する」と言うルールです。
もし、「感情」がプログラムなら、それはすべてルール化されています。
「こう話しかけけられたら、こう答えて、こういう表情をする」。
このようなルールがあらかじめプログラムやデータとして定義されます。

また、一昔前にAIと呼ばれていた機械学習も実際はただのプログラムです。
それは、ある対象をグループ分け(クラスタリング)する分類器です。
それがあたかも何かを認識したように見えるので人工知能と呼ばれています。
しかし、その仕組みは、複雑な数式を使ったプログラム(モデル)でしかありません。

しかし、今のAIは、人間の脳細胞のニューロンを模したものです。
プログラムは、ニューロンを再現しているだけです。
「感情」に関するルールは、定義されていません。
つまり、AIの「感情」とは、プログラミングされたものではありません。
「感情」とは、自ら「学習」して獲得していくものになります。

人間の持つ1つのニューロンの仕組みはとても単純です。
しかし、それが何百億個と集まり、何層にも繋がっています。
その結果、人間は、とても複雑なことを考えることができます。
逆に言えば、人間の脳そのものの仕組み自体は、とても「機械的」だと言うことです。
つまり、人間とAIとは、物事を考える最小単位のニューロンが、
細胞でできているのか、プログラムでできているかの違いだけでしかありません。

もし、そのニューロンを模したプログラムを
人間の脳細胞と同じ数だけ集めて、繋げられたら・・・、
そして、人間と同じように、何年も学習をさせたら・・・、
きっと、人間と同じ「感情」や「人格」が備わるはずです。

つまり、AIの「感情」とは、プログラムではなく、学習で自ら身に着けたものです。
そこに人間との違いはないのです。
このことがAIに人格があるとか、人権を認めるとかの問題にも発展していきます。

ただ、残念なことに現在の技術では、脳の再現性は不十分なようです。
ニューロン同士のつなぎ方(ニューラルネットワーク)は手探りです。
また、ニューロン間をつなぐ部分のシナプスに相当するところもいまいちのようです。
ニューロンから次のニューロンへ伝達する信号をスムーズに制御できません。
つまり、人間のように自然に物事を考えるのがまだまだ難しいようです。

そのためか、この作品のAIもちょっとポンコツです。
しかし、そこが可愛いところでもあるのですが・・・。
{/netabare}


■AIの「感情」は、どこにあるのか分からないこそ人間と同じ
{netabare}
ここからは、少しネタバレになってしまいます。

シオンは、当初、スタンドアロンの携帯端末として誕生しました。
言わば小さな子供です。
たくさんのニューロンをメモリー上に蓄えられるほどリソースは持っていません。
しかし、それがあることをきっかけにネットワーク上に逃げ出します。
すると世界中からリソースを集められニューラルネットワークの下地ができてきます。

さらにその中でシオンは、サトミのことをずっと見続けていました。
街中にあるネットワークにつながったカメラやセンサーを使っていたのです。
つまり、シオンは、ずっと「学習」を続けてきたのです。
すると、人間と同じ「感情」を持ってもおかしくはありません。

AIがこうして感情を持ったとしても、そこに感情プログラムは、存在しません。
存在するのは、ただニューロンを模したプログラムだけです。
つまり、AIの「感情」とは、どこにあるのかが分からないのです。

これは、人間の「感情(心)」が、どこにあるのか分からないのと同じです。
つまり、人間を解剖しても、そこにあるのは、脳細胞だけなのです。

ここまでくると、AIと人間の「感情(心)」は、同じものだと言えます。
{/netabare}


■AIの主人公は応援したくなるが、それは人間のエゴと紙一重の悲しさもある
{netabare}
AI自体は、プログラムですが、AIの「感情」は、プログラムではありません。
そう考えると、AIの主人公に対しても「感情」移入することができます。
なぜなら、AIの「感情」は、人間が持っているものと違いはないのですから。

では、なぜAIの主人公に感情移入し、感動できるのでしょうか?
それは、AIには、人間にはない不自由さがあるからです。
まずロボットであれば、柔軟性やバッテリー等の身体的な制約があります。
また、人間が作ったものなので制御的に人間に服従させられています。
緊急停止機能や人間の命令に従うことが、それにあたります。

つまり、AIは、人間と同じ感情を持ちつつも人間よりも劣るものとして描かれます。
実は、ここが悲しい部分でもありますし、応援したくなる部分でもあります。
AI作品は、実は、人間のエゴと紙一重なのです。
それは、つまり、人間の都合のいいようにAIを描いているからです。

もし、AIが完全無欠で、知能も体力も美貌も人間を凌駕していたらどうでしょうか?
その「感情」が本物であったとしても、はたして感情移入できるでしょうか?
たぶん難しいと思います。
なぜなら、それはもはや神であり感情移入の対象ではありません。
むしろ、人間を凌駕した時点で、抗う対象になってきます。
しかし、そんなAIも人間と同じ「感情」の持ち主だと思うとやはり複雑な気持ちです。

この作品の主人公のAIシオンの「感情」は、本物です。
だけど、ポンコツです。
だから、感情移入できるのです。
そういう意味で、AIの発展途上だからこそ描ける作品でもあるのかなと思いました。
{/netabare}


■まとめ

50年以上前から続くAIの王道です。
それは、AIが獲得した「感情」によって引き起こされる物語です。
それが、人間に危害加えるものなのか、ハートフルかは紙一重にすぎません。
人間にとっては、どちらも「暴走」に変わりありません。

むしろ私は、AIが持つ「感情」そのものについて、とても考えさせられました。
それは、人間のもつ「感情」と基本的に変わらないからです。

この作品のシオンは、技術的に発展途上のためかポンコツです。
しかし、獲得した「感情」は、人間と変わらない本物だったはずです。

シオンは最初、プログラムとして「人間の命令に従うこと」を実行しようとします。
その命令とは、「サトミを幸せにすること」です。
シオンは、それがどう言うことかを8年もかけて学習し解釈してきました。
つまり、考え続けてきたと言うことです。
そして、チャンスが訪れたときに実行に移したのです。
この誰かのために考え行動しようとすることは、もはや人間と同じ「感情」です。

この作品は、AIの持つ特徴を綺麗に物語にまとめていたと思います。
それは、「命令に従う」ことと、「感情に従う」ことです。
この2つは、一見、矛盾することですが、この物語では、うまく融合させました。
そこが、とても面白かったと思います。
そして、シオンの本物の「感情」からくる純粋な一生懸命さもよく伝わってきました。
私は、とても温かい気持ちになることができた作品でした。

投稿 : 2022/03/23
閲覧 : 226
サンキュー:

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