「Vivy -Fluorite Eyeʼs Song-ヴィヴィ フローライトアイズソング(TVアニメ動画)」

総合得点
85.4
感想・評価
756
棚に入れた
2462
ランキング
236
★★★★☆ 4.0 (756)
物語
3.9
作画
4.2
声優
4.0
音楽
4.0
キャラ
3.9

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ネタバレ

ナルユキ さんの感想・評価

★★★★★ 4.8
物語 : 4.5 作画 : 5.0 声優 : 5.0 音楽 : 5.0 キャラ : 4.5 状態:観終わった

『知』あれば『心』備わる。これさえ受け入れれば素晴らしいSFヒューマンドラマ

あーもうみんな「『ターミネーター』の審判の日か」だの「『仮面ライダーゼロワン』の滅亡迅雷.netですね」だの好き勝手言いやがって……その通りだよ!!(笑)
なにしろこの作品、かの作品らを彷彿とさせるAI(人工知能)による人間の「虐殺」から物語が始まった。人類とAIの全面衝突……正に「審判の日」そのものである。
しかし『ターミーネーター』はその戦争のキーマンとなる人物をAIの送り込んだ殺人ロボットから守り正史に繋げるというシリーズだが、本作はその逆だ。
いずれ人類に牙を剥くAIを滅ぼす。そのように歴史を「修正」するために100年後の未来からAI「マツモト」が送り込まれる。その送り先は────

【ココが面白い:歌姫AIと未来のAIによる異色バディアクション(1)】
未来から送り込まれたAI・マツモトは『暗殺教室』の殺せんせーなどを演じた福山潤が演じており、見事なハマり役をしている。自信家で慇懃無礼(いんぎんぶれい)な口調を早口でこなし、時折出てくる真面目トーンで重要なワードを視聴者の脳に刷り込ませていく。よくあるただ鬱陶しい人工物キャラクターとは一線を画しており、どこか『魔法少女まどか☆マギカ』のキュウべえのようなキャッチーに隠れた残虐性も見え隠れしている。
そんな彼とバディを組むのが「歌でみんなを幸せにする」という使命を持って生まれたばかりの自律人型AI・Vivy(ヴィヴィ)である。
歌でみんなを幸せにする……この“幸せにする”という部分がロボットに課されるものとして非常に曖昧な部分だ。使命を果たすには「人のように心を込めて歌う」必要がある。自律してはいるものの、頭はAI故に“心”とは何なのか答えを決めあぐねている。そこに悩み試行錯誤する姿こそ極めて「人間」に近いのだが、ステージで披露する歌唱と笑顔は未だパフォーマンスのプログラムと音階データに従っているだけである。故に人とのコミュニケーションでは表現が固かったり会話を取り違えることも多い。1話の彼女はあくまで「プログラム」だ。それが100年後の未来からやって来たマツモトとの会話の差でよくわかる。
さて、そういうわけで自分の使命に取り組むという点で暇ではない彼女。他のAIの使命を手伝うわけにはいかないし「AIは1つの使命に殉じ、複数の使命を持ってはならない」という法則もある。しかしマツモトはこう食い下がった。
「確かに今生きている人々は100年後には生きていないかも知れません。しかし彼らの子孫、あるいはこれから生まれ出るあなたの聴衆はどうでしょうか?』
これはこの時代、自身が満足に活動できるボディがまだ無い故にヴィヴィに頼らざるを得ない彼の口車でもある。しかしヴィヴィの使命は「歌でみんなを幸せにすること」。“みんな”とは当然、人類────現在を生きる人々も未来に誕生する人々も指す。破滅の未来を回避しなければヴィヴィの使命はAIにとっては僅かな100年で達成することが出来なくなってしまう。
自身の使命を拡大解釈したヴィヴィは口うるさいマツモトの導きによって100年の歴史に点在するAIの過剰な発展要因を1つ1つ取り除いていくことになる。
バディもので片方が機械ならもう片方は人間である方が両者の違いが出て面白い。その違いの面白さを「現在と未来」という技術の差で表現することで「機械同士のバディ」という斬新な切り口で物語の口火を切っており、非常に興味が湧く内容となっている。

【ココが面白い:歌姫AIと未来のAIによる異色バディアクション(2)】
人類とAIの関係に大きな影響を与える事件に首を突っ込むということで、只の歌姫ガイノイドには身に余りそうな荒事が彼女らを待ち構えている。時として────と書くよりはネタバレすると常にヴィヴィは戦うことになる。みんな大好きバトルアクションが物語の中心だ。
主人公がロボットだからこそ、時として人体骨格駆動を無視して動くカポエイラやガンカタアクション、そして容赦のない破壊描写が迫力のある戦闘シーンを生み出しており、アクションシーンにしっかりとした見ごたえが生まれている。
作画も素晴らしい。ややムラを感じるが敢えて、だろう。ヴィヴィを人間らしく見せる時は美麗でありつつもアニメアニメした作画を、そして機械らしく見せる時は観る者を唖然とさせるような劇画調にしている。どちらも美しい出来だ。とくに満月を背景にビルへ跳び移るヴィヴィの姿は1枚絵として額縁に飾りたいクオリティがある。
そして脚本。本作は『Re:ゼロから始める異世界生活』の作者でもある長月達平氏の原案ということで物語を上げて落とす手法が多く取り入られており、それが本作のテーマの1つ「歴史改変」と非常にマッチしている。
未来の果てを平和に導くからこその非常な決断の連続。事件に関わる人やAIとの邂逅と死別。そして歴史を変えてしまったことで本来、零れ落ちることのなかったAIと人の命。全ての事象が「歌でみんなを幸せにする」使命を持つヴィヴィに重くのしかかり、物理的にも精神────集積回路的にも負担をかけていく。その一端を2話という早い段階で見せてくれる所から本作の内容が非常に濃いことが判る。
{netabare}ヴィヴィが最初に絆を結んだ人間の少女・霧島モモカ。彼女に間もなく訪れる死はAI史にはまるで影響を及ぼさない。むしろ助けることで歴史が予測不可能な方向に修正されるかも知れない。だからマツモトは妨害した。ヴィヴィのボディを破壊してでも。
『歴史で起こる純粋な事故ひとつひとつに構っている暇などないのです。全てはAIの過剰な発展を阻止し未来の戦争を回避するために……ここからあなたの100年の旅が始まるのです』{/netabare}
2つのAIは決して仲良く歴史改変をやっていくわけではない。任務優先のマツモトの口車に不本意ながら従うヴィヴィ。人を幸せにするために予測不可能な行動に出るヴィヴィに慌て「もっと合理的に動け」と罵るマツモト。2つの凸凹コンビが互いの使命を優先し、衝突したり足並みを揃えたりする様はコミカルでもシリアスでもあり、そして熱いものを感じさせてくれる。

【そしてココがすごい!:シンガーソングライターの歌唱力と意味深長な劇中歌(1)】
ヴィヴィを始めとした「シスターズ」というキャラクターたちには著名な女性声優がキャラボイスを、そしてキャラの歌唱には本職のシンガーソングライターがボーカルを務めるという2役体制をとっている。とくに主人公のヴィヴィは演技力が高い種崎敦美さんと本作でレコチョク上半期ランキング2021に1位ランクインという華々しいデビューを飾った八木海莉さんのタッグとなっており、両者の声質のシンクロがヴィヴィというキャラクターの魅力をさらに引き上げた。
OP「Sing My Pleasure」は、アップテンポのリズムに乗せた滑かな歌い回しに、ご本人は少し気にされているようだが少し鼻にかかった裏声(ファルセット)が本作のテーマのとなる「AIの使命」の儚さと「100年の旅」の壮大さを歌った詞やメロディーにとても良く合っている。1位に入ったのも納得の神曲だ。
{netabare}そしてこの曲は第5・6話の「メタルフロート編」の劇中歌にもなっている。ヴィヴィの持ち歌の1つであり人間・冴木博士と看護AI・グレイスの想い出の歌。正史で初めて人とAIの結婚を成し遂げる筈だった2人はヴィヴィとマツモトの歴史改変によって引き離されてしまう。
海上無人プラント・メタルフロートのマザーAIとなったグレイスから流れるSing My Pleasure……これを冴木博士は「グレイスが助けを求めているんだ!」と解釈しヴィヴィに助力を求める。ここからは非常に意見の分かれる部分だ。2人のプロポーズまでの馴れ初めも明かされた冴木博士にはとても感情移入しやすく、さすればスマホからBOTのように流れる抑揚の無い歌にもグレイスにまだ“心がある”と思い込んでしまうだろう。
しかしヴィヴィは結論づける。{/netabare}
{netabare}「これは歌じゃない。M達やグレイスが歌っていたものに比べればただの……音階データだ」
この時点でのヴィヴィは歌に心を込めることを、歌そのものではなく歌う理由や状況に見出していたと考えられる。自分はニーアランドに訪れた人を笑顔にするために、サンライズ編のエクセラはお客を安心させるために、そしてグレイスやMは“サプライズ”として使い訪問者を喜ばせるために────。
故に垂れ流しの歌には心がこもっていないと、そう演算したのではないだろうか。{/netabare}
{netabare}ヴィヴィはメタルフロート=グレイスの破壊を決意する。彼女とマツモトの進軍、それを阻むセキュリティによるスカイチェイスにもBGMとしてSing My Pleasureが使われ、本作を象徴する非常に印象深い曲となっていた。 {/netabare}

【ココがすごい!:シンガーソングライターの歌唱力と意味深長な劇中歌(2)】
一方、ED「Fluorite Eyeʼs Song」はずっと歌詞が無いインストゥルメンタルとして各話を締めていく。「まあ時たまこんなEDもあるよな」といった感じで聞き流していたのだが、第10話から最終話にかけて驚くべき使い方がされた。
{netabare}劇中ではAIであるヴィヴィが作曲したものとして登場する。元来、AIという機械に備わっていないものは「創造性」だというのが通説だ。機械は私たち人類が生み出した工程をなぞることしか出来ない筈であり、これまでのSF作品も概ねその説に倣ってSFを描写してきた。その固定観念が崩される。
AIだって作曲が出来るのだ。何かを生み出すことが出来るのだ。これまでの経験と出会い別れてきた人々への想い。それら全てを創作に込める────“心を込める”ことは血の通う人間の特権というわけではない。そんな本作のメッセージが終盤でより鮮明に写し出されていく。{/netabare}
{netabare}そして最終話。作曲されたFluorite Eyeʼs Songに遂に歌詞が付く。
《人の幸せのために────》
出だしから、誰のための歌かをハッキリさせたヴィヴィらしい作詞だ。
100年後にAIが人を殺すのは人類の発展がこれ以上望めないため、AIが人類に成り代わるためと、実に手垢のこびりついた捻りのない理由であった。だからこそヴィヴィも捻りのないストレートな想いを歌に乗せる。人とAIは共存すべきだ。私たちAIは人の幸せのために稼働するんだ。自分は少なくともそのために今日まで動いてきた。
Sing My Pleasureの壮大さも残したバラード。視聴者にとっては1クール、ヴィヴィにとっては100年の「積み重ね」を歌い上げる本曲と使用されたクライマックスシーンは感動────と書くよりも、このピアノアレンジが本作のEDにずっと使われてきたことに大きな“納得感”を得られる。{/netabare}


【他キャラ評】
霧島モモカ
{netabare}個人的に「登場人物の死に大きな意味を持たせている作品は名作」と思っていて、本作もその例に漏れず。2話という早すぎるかつ飛行機事故という瞬間的な退場は物語の残酷さも彩りながら、ヴィヴィと他のシスターズを分かつことにもなったのではないかと考えられる。
エステラにはオーナー、エリザベスには垣谷ユウゴ、グレイスには冴木博士という「個人」が自身の使命の中でも最優先として組み込まれていて、ヴィヴィは霧島モモカがそれに該当していた。そんな彼女を早々に喪うことでヴィヴィは初めて「人類総体」を救うシンギュラリティ計画に専念することが出来たのだと思う。悲しい考察ではあるが…… {/netabare}

ナビ
{netabare}ボディもなく、マツモトに阻まれるばかりの不憫な役回りが続いていたけど最期の最後で持っていきましたな……。
どこまでいってもナビはディーヴァというヴィヴィ本来の名前・使命のサポートAIであり、だからこそヴィヴィがシンギュラリティ計画という歌姫から外れた行動をとっていたことに怒りを顕にした。それは「心配」という、かつて自分が否定していた立派な感情だ。{/netabare}
{netabare}AIが人類に成り代わるというのならヴィヴィはそのための歌姫であればいい。それで彼女自身が無事でいられるのなら。
ヴィヴィを阻むためにモモカのホログラムまで使うシーンがとても切ない。呼び方を間違えたのはわざとだろう。だってヴィヴィはディーヴァで、ヴィヴィはシンギュラリティ計画を使命に持ってしまったAIなのだから、「どうしてもヴィヴィと呼びたくなかった」筈だ。{/netabare}


【総評】
ロボットSF、タイムリープ、そして歌……使い古されもう擦り切れてしまいそうな3要素をここまで上手に料理した作品は本作が初めてではないだろうか。
時を遡って来た者とそれに振り回される者というバディの構図、歴史改変というどう転ぶか予想のつかないシナリオ導入を最初に見せることで視聴者の興味を惹き、そこからAI(ロボット)の“心の探究”を終始、切り込ませていく。そのバランスが絶妙で各話の内容が非常に濃い味に仕上がっていた。
本作のAI(ロボット)はとても感情的で殆ど人間と相違ない。「心なんてない」「心ってよくわからない」と言っている側からもう既に感情を露にするシーンが挿入されることもある。それを「機械らしくない」「SFとして間違っている」と揶揄する輩もいるが、本作にはむしろ『生きとし生けるものだけが心を持つ』という私たち人間の常識が只の思い上がりではないのかというメッセージ性を私は強く感じた。
AIは人工物といえど「知能」であり、私たち人間と遜色なく物事を判断したり記憶したりできる。生物の脳みそとの違いは外部からの電子的干渉を受けやすいという点くらいしか無いだろう。そして本作の主人公であるヴィヴィは最後に心を{netabare}「記憶」{/netabare}と定義づけた。想い出、経験などと言い換えることもできるが、そういった“外部刺激”の蓄積が感情や性格といったものの基盤になる。それが“心”なんだ、と言いたいのではないだろうか。であれば生物だろうが機械だろうが『知』あれば『心』も備えられる。そこに可笑しな点は一切見当たらない。そこさえ受け入れてしまえば本当に素晴らしく情緒あるSFヒューマンドラマとして楽しめる。限りなく人に近い存在となっているAIを「人」として扱い守ろうとする動きもあれば都合良く「物」として扱う場面もあり、それがごちゃ混ぜになっておぞましい描写すらも描かれる。本作には、遠い未来に訪れそうな人とロボットの関係について考えさせられるようなシーンがふんだんに詰めこまれているのだ。
歌もテーマにしてるだけあって聞き惚れるものばかりである。音楽の良さ・悪さというものは私に専門的な知識が無いのでどうも具体的に評しづらいのだが、ソワソワと鳥肌が立つように身体が反応を示す曲は本作で久々に聴くことができた。通常のOP・EDだけでなく1話「My Code」や第3話の「A Tender Moon Tempo」、ヴィヴィ(Vo.八木海莉)のみならずエステラ(Vo.六花)とエリザベス(Vo.乃藍)のツインボーカル「Ensemble for Polaris」などの特殊な劇中歌も演出と相まって目頭が熱くなる良曲ばかりであった。
本当に強いて欠点を書くならば、オリジナルアニメ特有の“斬新さ”が感じられなかったのが少し残念。どうしても『ターミネーター』や『アイ,ロボット』、アニメ作品なら『攻殻機動隊』シリーズなどを想起してしまう世界観・設定ではある。ただそれは逆に長所でもあり、そういった作品が好きな人には刺さる作品とも言え、正に「王道」で誰にでも解りやすいSF作品だと評することができる。

投稿 : 2022/04/26
閲覧 : 332
サンキュー:

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