「平家物語(TVアニメ動画)」

総合得点
77.2
感想・評価
343
棚に入れた
1068
ランキング
629
★★★★☆ 3.9 (343)
物語
3.8
作画
3.9
声優
4.0
音楽
3.8
キャラ
3.8

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ネタバレ

101匹足利尊氏 さんの感想・評価

★★★★★ 4.5
物語 : 4.5 作画 : 4.5 声優 : 5.0 音楽 : 4.0 キャラ : 4.5 状態:観終わった

諸行無常を悟るための叙情詩

原作となった古川 日出男氏の訳本は未読。

【物語 4.5点】
叙事詩でなく、叙情詩を……との山田 尚子監督らの方針により、
歴史の再現より、琵琶法師たちが時代を越えて語り継いで来た物語を重視。
現代人にとっては迷信である神仏や呪いも、
当時の人々があると信じて語り継いで来たなら、ある物として可視化される。
歴史上の有名人も多数登場するが、
時代を作った偉人としてではなく、より人間味溢れるキャラとして描写する。

作中は和暦、西暦含め年号もろくに出てこない。
夜の場面はいつも満月と月齢も無視。

無味乾燥になりがちな年代記としての要素を排除し、
人間ドラマ成分で加湿する姿勢が徹底している。


【作画 4.5点】
アニメーション制作・サイエンスSARU

必ずしも美男美女ばかりではない。
キャラクターデザイン・高野 文子氏の時に面長にデフォルメされた顔立ちが、
絵巻物風のフィルターで構築された映像にマッチ。

家族としての平家などを描く場面では人物描写もコミカル。
まさか『平家物語』で、びわちゃんのグルグルパンチが繰り出されるとはw
対して落花の瞬間の如く、命が摘み取られる合戦シーン、入水シーンなどは、
背筋が凍るほど呆気ないリアル志向で盛者必衰の理を思い知らせる。

硬軟織り交ぜた芸術的な映像表現で作品を引き締める。


背景美術で目立つのが花。
これだけ意味有りげに見せつけられると花言葉とか調べたくなります。

平家のおごりを示唆する水仙(スイセン)とか。
戦場に散った髑髏(しゃれこうべ)に咲き乱れ、
平維盛にトラウマ忘却を許さない紫苑(シオン)とか。

そんな中、一番印象に残ったのが都忘れ(ミヤコワスレ)
{netabare}9話。びわと母の再会シーンにて。「別れ」などが花言葉の都忘れだが、
その由来は源平合戦より時代が下った承久の乱。
佐渡に流された順徳天皇が都に咲いたこの花を想って詠んだ和歌より。
ここでも時代超越の方針が貫かれています。{/netabare}
奇しくも今年、視聴中の大河ドラマも中世・鎌倉時代の北条氏が主役ですが、
後の回で都忘れに"再会”できるかどうか。
このアニメのお陰でますます楽しみが増えています。


【キャラ 4.5点】
古典『平家物語』の元となった多数の琵琶法師の視点。
それらを、主人公の琵琶法師・びわに集約させ、各場面を行脚させる。

狂言回しポジションの架空主人公は、
諸事情に関わるけど、結局何もできず、埋没しがち。
が、びわの場合は、未来を見通す瞳という能力設定(後には{netabare}平重盛の過去を見る瞳を統合{/netabare})まで与え、
むしろ全て見えるが、何もできないもどかしさを強調。
その葛藤を乗り越えることで、平家一門の行く末を見届け、語り継ぐ意義を悟らせ、
古典『平家物語』成立の意義をも再定義させる力強さ。


人間味を強調した平家一門で心に残ったのは戦にビビる若い連中。
戦場で人を殺す畏れを“武士の誇り”のメッキで誤魔化さず描いた点。
この辺りは平家主役のドラマですらも、文弱な平家はもはや武門にあらずと嘆く所。
このアニメは悪夢も交えて、そりゃ戦は怖いよね人間だものというレベルにまで良い意味で落としてくる。

武士としては源義経や木曽義仲の方が有能には違いないが、
本作の源氏は人間としてあるべき歯止めが幾つか欠けている
サイコパスな感じが伝わって来ますw

この人間と武士の仮面の狭間の濃密な人物描写の極みが、
{netabare}9話『敦盛』のエピソード。{/netabare}古典の名場面がさらに高まり、琴線に触れました。


【声優 5.0点】
主人公びわ役の悠木 碧さん。
平資盛をイジってふざけたかと思えば、琵琶を手に圧巻の語り口で歌い上げたりする。
濁声を使い分ける技術は円熟の域。

平徳子役の早見 沙織さん。
お馴染みの透明度の高いボイスに
「許して、許して……許すの」だけど割り切れず溢れ出す涙とか、
煩悩を深く織り交ぜる好演で、悟りの境地に到達。

このお二人が中堅ベテランの域に入る声優界の未来が楽しみでなりません。


平家主役の作品ではいつも鍵を握る平重盛役も櫻井 孝宏さんで盤石。
京の都では平清盛役の玄田 哲章さんと、後白河法皇役の千葉 繁さん、両ベテランが化かしあい、
逃げる平家を一匹残らず駆逐しに源義経役の梶 裕貴さんが飛んで来るなど、
キャストは一部の隙きもない豪華布陣。


【音楽 4.0点】
劇伴担当は牛尾 憲輔氏。
ロックに電子音も飛び交い、和楽器に絡み合う独特な構成。
後白河法皇が今様にうつつを抜かし喉を痛めたりするw
フリーダムな中世世界に切り込んでいると言えばいえるのでしょうが。
京に政変ムードが漂う時にギターを疾走させる「unknown plan」とか本当に独特w

これだけなら奇をてらっている?となりますが、
琵琶演奏には監修を付け、戦場と日常で音色を使い分けるなど、
笛の音色とも合わせて、ここが中世だと思い知らせてくれます。


OP主題歌は羊文学「光るとき」
これも現代バンド音楽だが、“何回だって言うよ、世界は美しいよ”と歌詞はテーマを芯で捉える。

ED主題歌は牛尾 憲輔氏のソロ・プロジェクトagraph(アグラフ)「unified perspective」で、
ラッパー・ANIが古語で韻を踏みだすw
だが、過去・現在・未来、多くの語り手……びわの視点へと統合されていく作品の流れには乗れている。


【感想】
シャカが祇園精舎と訳された寺院にて説法していた頃、
諸行無常とは、移り変わる世界のありのままを受け入れる仏法の真理であり、
そこに人生を儚んだりする心理はなかった。
が、古典『平家物語』は無常に悲哀の心情を重ね、
祇園精舎にありもしなかった鐘の音まで設定し、平家の命運を嘆いたのだ。

というのが私が義務教育にて『平家物語』を学んだ際の印象。
『平家物語』は仏法には不必要な感情を込めてしまった悟れない古典という感想を抱きました。

が、アニメ『平家物語』にて豊潤な叙情詩を受け止めた後だと、
人間、精一杯、笑って、泣いてからじゃないと、
穏やかな諸行無常の真理には到達できない。
物語を語り継ぐことは愚かではないと諭された気分です。

この時代の出家も、どちらかと言えば、世を儚んだ、逃げの一手の印象でしたが、
{netabare}徳子や白拍子・祇王とかつて清盛を奪い合った女たち、{/netabare}
尼となった彼女たちの澄み切った境地には心を洗われました。

何よりラストただの暗記文だった「祇園精舎の鐘の声~」で泣かされるとは……。

アニメの芸術性だけでなく、古典の価値をも高めた逸品です♪

投稿 : 2022/05/02
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サンキュー:

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